第16話 ツンキャラは素直キャラに弱い


 体感としては一時間を超えていたが、実際には三十分にも満たなかったと思う。


 小屋から出てきた二人は、当初とは打って変わり随分と打ち解けた様子だった。


「ということで、ユミリシス。アタシが第一夫人、メラニペが第二夫人ってことで話がついたわ」

「ウム! ルリナラバ、良イ。認メヨウ」


 そう言ったあと、二人は顔を見合わせてニッと笑う。


 何がどうしてそうなったのかは分からないが、どうやら上手く話がまとまったらしい。


「えっと……それで、結局何が問題だったんだ?」


 恐る恐る尋ねてみれば、先に口を開いたのはルリだった。


「あのね、ユミリシスの妻になる女は生半可なやつじゃダメなわけ」

「ソノ通リダ! 強ク、美シク、気高イ、ソンナ女コソガ相応シイ!」

「で、それを鑑みて、メラニペならあんたの後ろでアタシと並び立つに相応しいって思った。しかもアタシのことを尊重してくれるらしいし。だったら受け入れても良いかなって」


 豊かな黒髪を撫でられたメラニペが、ルリに向かってくすぐったそうに笑う。


「ルリハ強ク、美シク、気高イ。ユミリシスノ次ニ凄イヤツダ。ダカラ、認メル!」

「ふふっ、メラニペもこんなに可愛いくて若いのに芯が強いし、魔獣たちを従えて立派に女王としてやれてるじゃない。その統率力はアタシにはないものよ、素直に凄いと思うわ」

「ソ、ソウカ? ルリモ底知レナイ魔力ヲ持チ、知識モ豊富デ……ソレハ、ワタシニナイ強サダカラ好キダ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない!」

「ワッ!?」


 ギュッとメラニペを抱きしめるルリ。最初は驚き戸惑っていたメラニペだったが、やがて照れ顔になり、身を委ねる。


 そんな仲睦まじい光景を、俺は呆気に取られたように見つめることしか出来なかった。


「Gruu」


 良かったなぁ、と言わんばかりの声を上げる魔狼さん。


「は、はは……」


 緊張感から解放されて脱力し、その場に座り込む。


「ちょっ、ユミリシス!? どうしたの、大丈夫!?」

「ドウシタッ、ユミリシス!」


 慌てて駆け寄ってくる二人をガバッと同時に抱きしめながら、贅沢な香りと柔らかさを堪能しつつ、言葉を告げた。


「ありがとな、二人とも」


 二人の気持ちに応え続けようと、改めて決意するのだった。


 その後はメラニペをヴァッサーブラット領の森に案内することになったので、再び魔狼さんの背中に乗って領内を駆けていた。


「うわ、すごっ。飛行魔法よりずっと速い! ん~っ、風も気持ち良いし、景色の流れを楽しむ余裕もあるって最高ね!」


 ルリも休憩を兼ねてついて来たのだが、魔狼さんの背中の上でハイテンションになっていた。


「ああ、なるほど。そう言えば飛行魔法って操作が難しいんだったか」

「流石、よく知ってるじゃない。これと同じ速さで飛ぶなら景色を見る余裕なんてないし、飛行しながら他の魔法を使うのも難しいのよね」

「ナルホド。ツマリ戦イノトキハ、ワタシト友タチガ優先シテ翼持ツ兵ヲ落トセバ良イノカ」

「ええ、そのときはよろしくお願いね」


 二人のやり取りに思わず口を挟んでしまう。


「良いのか、メラニペ。俺は別に、戦ってほしくて迎え入れるわけじゃ……」

「イイ! 嫁トハ夫ヲ助ケルモノダ!」


 魔獣たちと楽しく暮らしたい、それだけを願っていた彼女に戦わせて良いのだろうか……と思ってしまうのは、原作知識があるからだろうか。


「何よ、ユミリシス。アタシにはそんな顔しないのに。アタシが戦うのは良くてメラニペが戦うのは嫌なわけ?」

「いや、だって……ルリはむしろ、戦場は新しい魔法を試す場として楽しむタイプだろ?」

「そんなこと――ないとは言えない、けど……、……言えないわね、確かに」


 否定しようとして言葉を詰まらせたあと、納得するように頷く。


「って、だからあんた、なんでアタシよりアタシのこと詳しいのよ」

「いやぁ……」


 原作ゲームで敵の軍団を新作魔法の実験台にしていたからです……などと言えるわけもなかった。


「ユミリシスハ、ルリノコトヲヨク見テイルノダナ!」


 その言葉を聞いてハッとした表情になったルリは、頬を赤らめながらニヤついた顔になる。


「ふ、ふーん。そっか。そうよね。あんたってば、アタシのこと大好きだもんね」

「ワタシモ、同ジクライ愛シテモラウゾ!」


 女の子と女の子が揃うとこんなに賑やかになるのかと、苦笑していると、やがて目的の森林地帯が見えてきた。


「あ、魔狼さん、ここで止まってくれ」


 俺の合図に従い停止した魔狼さんは、そのまま寝そべりの態勢になる。降りやすいようにしてくれたのだろう。


 魔狼さんの頭を撫でたあと、ルリに手を貸して降ろし、その流れでメラニペに手を差し出して――。


「あ、いや、メラニペは自分で降りれるよな」


 慌てて手を引こうとすると、ギュッと掴まれた。


「エイッ……!」


 そのまま飛び降りたメラニペがぽふっと俺の腕の中に収まる。


「……ナルホド。コレハ、良イモノダ」


 頬を朱に染めてくすぐったそうに笑うメラニペに、こちらの頬まで赤くなってしまった。


 ルリのほうをチラリと伺ってみると、正妻の余裕と言った表情を浮かべており、見える範囲に嫉妬は感じられない。

 ただ、今夜にでも二人で話す時間を作るべきだろう。


 そんな事を考えつつ、メラニペたちにヴァッサーブラットの森を案内する。


 さて、ウチの森林地帯を気に入ってもらえると良いんだが……。

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