第8話

 人捜しといえば、まずは冒険者ギルドだろう。そう思い、向かった先には……やはり、リリアの姿があった。


 しかし、どこか落ち込んでる様子だった。


「リリア、ごめんよ。そんなに探し回ったのか?」

「あっ……クラフト様」


 ん、そういえばグリドスといいリリアといい、俺は名乗ったっけか?


「この町であなたを探そうと思えば、嫌でも悪評と共に名前が入ってくるんじゃないかしら」

「ああ、なるほど……」


 シフィの言葉でようやく分かった。そりゃ、新進気鋭のパーティメンバーの一人が大悪党で追放されたなんてニュース、広がらないわけがないからな。


「それで、俺を実家に招くのが嫌になったのか? 俺はおっさんからもう十分な報酬をもらってるからいいんだけど――」

「そんなのじゃありません! このリリア、人を見る目だけは育ててきました。クラフト様が噂通りの人じゃない事なんて……いいえ、たとえそれでも構いませんとも」


 おっと、意外なお言葉。


「見ず知らずのわたしに手を差し伸べてくださったばかりか、お父様の命さえ救ってくださった。そんな方を疑おうものなら国の恥ですから」

「はは、大げさだな……そうだ、グリドスとはもう会ってきたぞ。リリアを探して欲しいってさ」


 パッとリリアの表情が切り替わり、明るいものになった。シフィとは違ってくるくると顔が変わる子だな……。


「喜ばしい事です。『レジェンド・クラフト』が我が国に来ていただけるなんて。お父様から報酬は出たかもしれませんが、わたし個人のお礼はまださせてもらっていませんから」

「国、て……もしかして、リリアは外国人なのか?」

「……あのぅ、まさか何もご存じなかったのですか?」

「悪いけど、一目で他人の全てを理解できる魔法なんて使えないんだ」


 リリアは目をぱちくりと。そして、徐々に唇を広げてクスクスと。


「な、何だよ?」

「あなたの無知っぷりを笑ってるんじゃないかしら。私は全てを知っているけれど、面白そうだから何も言わないでおくわ」

「シフィまで……何だよ、もしかして俺はまだ虐められてるのか?」


 二人は目を合わせてまた笑うけれど、さっぱり意味が分からなかった。


「では、ご案内しましょう。大帝国・マジスティアへ!」


 ◇


 そして、帝国に向かう道中。俺は見たこともないような馬車達の中でグリドスとリリアに挟まれて座っていた。


 真正面にはその様を見て面白がるシフィと護衛達。


「クラフトよ、お主はこれからどうしていくつもりだ? マジスティアでは実力さえあれば何でもできるのだぞ。お主なら、その『合成』の力でいかような仕事でもできようぞ」

「そうだな……それこそ、『合成屋』をやってみたいな」


 それを聞いて、シフィとリリアはいまいちピンと来ない様子で尋ねてきた。


「具体的に何をするのよ、『合成』なんてさすがの大帝国でも知られていないと思うわよ?」

「普通に鍛冶屋とかじゃだめなんですか? それだけでも一生遊んで暮らせるほどの稼ぎはできますよ?」


 そんな二人に、俺は分かってねえなあと指を振った。


「好きなことしていいって言われてんのに、誰かの手垢がついた職業をやって何が面白えんだよ。そりゃ、良いとこにいって立派な仕事するのもいいだろう。だけど、未開拓の分野を先頭で走って行くなんて事、なかなかできないからな」


 そうだな、例えば――


「相手は新人冒険者だ。ろくな武器も買えない、せいぜいアンコモンが背一杯の奴に、『合成』してやんのさ。支払いはそいつらが採ってきた素材。それを優秀なNR武器に変えてやって、帝国にいるだろう並み居るSSSランク鍛冶屋も驚くような逸品にしてやるって算段よ」

「ずいぶん甘い考えね。そんな怪しい商売に乗ってくれる人なんていると思ってるの?」

「もう一つ、とっておきの商売もあるけど……ま、なんとかなるだろ。最悪、その日の食い扶持くらいは自分で稼げるからな」


 それを聞いて、グリドスは「わはは!」と豪快に笑った。どうでもいいけど、よく笑うおっさんだな。


「それは良いな。成功すれば帝国の経済もさらに活性化する事だろう。では、一級フロアの店を用意しよう。町ゆく誰もの目に入るような……」

「いや、その辺の広場でやる許可さえもらえれば構わねえよ。店構えは床一枚、元金はゼロだ。一から、自分の力で始めたいんだ」

「なるほど……だんだん、儂はお主という人間の性が分かってきたような気がするわい。お礼をする隙もないとはのぅ」


 しかし、「いいえ!」とリリアが声を上げた。


「なら、そのお店のお手伝いをわたしがしますよ。それに、稼ぐにしても人手はいるに超したことはないはずです」

「リリア、お前は戦えるのか?」

「それは……少しは!」


 ううん、どうしたものかと思っていると、シフィから思わぬ援護射撃がきた。


「悪い話じゃないと思うわよ? リリアには十分過ぎる魔法の才能があるわ。それを活かすなら私の力が役立つはずよ。それに、可愛い看板娘がいるとそれだけで業績が上がるわよ」

「へえ、そうなのか。リリア、魔法の心得は?」

「あっ、魔法は得意ですよ。でも、手加減が下手であまり撃たせてもらえませんけど……」


 それくらいでちょうどいい。何だ、本当になんとかなるものじゃないか。


 それだけ事業が固まってしまえば、後は俺は……夢だったひたすら魔物を斬って素材を手に入れ合成する生活を満喫できるわけだ。


「あ、でも大丈夫かな……」

「何? まだ不安な事があるの?」

「いや、看板娘が二人もいたんじゃ、俺が完全に目立たなくなっちまうと思ってさ」


 シフィはしばらく複雑そうな顔つきをした後、目をそらして囁くくらいの声で言った。


「あなたは仕事さえしてれば十分よ」


 そりゃ、そうだ。


 と、そんな話をしているうちに、帝国の姿……遠くからでも見える立派な城が見えてきた。


 これから始まる新生活に、俺はどうしても胸が躍るのを抑えきれずにいるのだった。

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