第6話

 そして一方、リンネス達はAランクダンジョンに潜っていた。Bランクダンジョンを庭のように歩き回っていた彼らなら楽勝とは言わずとも苦戦するべくもない……はずだった。


「くっ……スキルが、発動しねえ!」

「何をやってるの!? ハニークラブなんかCランクの魔物じゃない!」

「ま、魔法で支援を……ああもう! どうして魔力一つ通すだけでこんなに難しいの!?」

「斧が異様に軽い……こんなものでは、有効打は打てん!」


 しかし、その攻略は阿鼻叫喚の様相だった。分不相応な武器を持った彼らは、その性能を全く発揮できず格下相手にすら苦戦しているのだ。


 もちろん、剣は剣だ。いくら重たくともぶん回せば斬るという役目は果たしてくれる。しかし、剣が使い手を認めなければ、そこに付与されたエンチャントは発動しない。


「ちっ……舐めんじゃねえぞ!」


 リンネスは剣を重力のままに振り下ろして、ようやくハニークラブの殻をたたき割った。それで一応は戦闘終了だ。だが……。


「ああもう、あんなの相手に耐久値が30も減ってる……こんな使い方してたら、すぐにダメになっちゃうよ!」

「はあ、はあ……そんなもん、その辺の素材を使って回復させりゃいいだろ」

「はー? そんな簡単にいくわけないじゃん。せっかくのSSR武器に不純物を混ぜたらレアリティが落ちちゃうよ。SSR武器の修繕なんて金貨単位で出費がかさむんだから、もっと使い方をさあ……」


 特級シーフのサルネは呆れたようにそう告げる。だが、今までとあまりに勝手が違うリンネス達は戸惑っていた。


 NR武器はどんなに雑に扱ってもすぐに修復できるものだった。必要ステータスもなく、それでいてクラフトによって最適化されたパラメータのおかげでBランクダンジョンでも十分通用する性能を持っていたのだ。


「……ねえ、ホントに君達Bランクダンジョンで狩りしてたの? まるでEランクかそこらの実力に見えるけど」

「ばっ、馬鹿言うなよ。新進気鋭のルーキー、リンネスパーティの噂を知らねえわけじゃないだろ!? この剣……そうだ、この剣が悪いんじゃねえのか?」

「私の選りすぐりのSSRがダメなわけないじゃん! むしろ、レアリティのおかげで楽できるはずだよ。ちゃんと鍛えてれば必要ステータスも満たしてるだろうし……」


 その言葉に、リンネス達はビクリとする。鍛錬……そんなもの、久しぶりに耳にしたからだ。


 今以上に鍛える必要性など彼らは感じていなかった。クラフトが作ってきた武器を振り回していれば事足りたからだ。


 剣は振れば斬れる、斧でぶっ叩けば結晶獣さえ砕けた、魔法を唱えれば魔力を自由自在にコントロールできた。


 それに甘えきった結果が、これだ。


「な、なあ……それじゃ、少しだけ性能をいじってくれよ。もう少し軽くなれば、ちゃんと使える!」

「そんなの無理無理。SSRのパラメータ改変なんて……今度は金貨十枚単位での仕事だよ。私にできるのは見つけることだけだし……だからこそ、皆理想の性能を持ったSSRを必死に探してるんじゃん」

「くそっ……」


 こんなはずじゃなかった。SSRの剣さえ手に入れば自分はSランクダンジョンに潜って一流の冒険者になれる……そう信じていた。そんな夢が現実のものとなったのに、現状はこれだ。


「とにかく、今日は撤退! パーティに入ってすぐ壊滅させたーなんて噂が流れたら私が困るもん。しばらくは……Dランクダンジョンにでも行くしかないね。あ、もちろんその間も決まった給料は払ってもらうから」

「馬鹿言え! Dランクなんかでお前の給料を払いきれるわけねえだろ!? 話が違えぞ。お前さえいればレアアイテムががっぽがっぽのはずだったのに……」

「話が違うのはこっちの台詞だよ。こんなに弱いなんて思ってなかった。しばらくは前に使ってたNRでも使ってたら? 縛りを設けて戦闘するだけでも鍛錬になるよ?」

「……」


 そう言われて、リンネス達は困ったように顔を見合わせ……そして言った。


「あんなもん、とっくに捨てちまったよ。SSR武器が手に入ったんだから、NRなんてもういらねえって思って……」

「武器を捨てたぁ!? もう、ほんっと信じられない! と・に・か・く! 働いてでも何でもして、お金を稼ぐこと。一ヶ月経ってもSSR武器の扱いに慣れないようなら、私は出て行くからね。そんなパーティ……居る意味がないもの」


 一足先に、とダンジョンの出口に向かったサルネを見て……リンネス達は頭を抱えた。自分達は見捨てる側であって、見捨てられるなんて事態になるとは……露ほども思ってなかったのだ。

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