つなぎ幕の隠し舞台

雛形 絢尊

第一幕

小木は演技をしている。

身体の所々に力を入れ、

ひれ伏す様な目を作る。

対照的に彼は憤りを覚える演技をする。

舞台上には光が差し込み、

込み上げるような声量で声を上げる。

この大舞台では失敗が許されないのだ。


何も考えず、

正確には何も考えられずにページが捲られる。

まだ台本にしては少ない、

起承転結においては起の部分である。

私は精一杯声を上げるのだ。

成果を見せるために、

いや、一大舞台を完成するために。

今日まで培ってきた努力の賜物を

この舞台に残すのだ。

そんな風に私は舞台袖に戻る。

異変に気付いたのはそれからだった。

舞台の背後、骨組立された

造形の後ろに人のようなものがあると。

私はその場で目を疑った。

ないはずのものがある。

というのか、あるはずでないものがある。

という筋が通る奇妙な一致だ。

劇場では何故か心霊体験が絶えない。

どういったことでそうなのかは理解し難いが、よくそういった話を訊く。

髪の長いワンピースの女性が

エレベーターに乗っていたとか、

いるはずのない観客がその場所で

こちらを見ていたりと、

そういった話が絶えないのだ。

土地自体が悪いわけではないが、

そういった悪い気が流れ込む、

不思議な場所だとは思う。

それにしても観客はそれに気付いているのか?

はたまた舞台のものとして、

それが一部と化しているのか?

まず、私はそのものが

人ではない"何か"であると理論づけた。

第一幕での私の出番はここまでだ。

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