NO.1-2 あらゆるステージを作り出す部屋
あれ……?痛くない。
「どうなってるの?私、車に轢かれて、死んだじゃ、」
「その通りです。地球での貴女はただいま死にました」
その声を聞いた瞬間、ぼやけた視野が一気に明晰になる。
「なに?ここ……」
色んな情報が目に入ってきたが、脳の処理が追いつかない。状況をまったく理解できない。それでも一つだけわかったことがある。ここは明らかにさっき私がいた路上と違う場所。
「まだ終わりたくないのですね?」
頭の中に強い後悔の念が蘇る。そして、それ以上に強烈な執着心が未だに私の心を支配しているのを感じる。
「はい。でも、どうして、」
「それならよかったです。人選を間違えたかと思うところでした」
中性的な風貌をしているすごく美形な人が、とてもきれいな声で私に話しかける。純白なローブに純白な翼。まるで聖典から出てきたような姿である。
「天使、様……ですか?」
「ボクたちのことをそんなふうに呼ぶ人がいましたね。どうやら地球でそういう認識が広まったみたいです。この管理空間に来る人はみんな同じようなことを言います」
「管理……空間?」
周りをよく見ると、ここはとても不思議な場所。
天使みたいな人はギリシャ彫刻の上に座っている。机はよくわからない現代アートみたいなもの。両側にたくさんの絵画が飾られている。中には印象派の有名な作品みたいのもあるけどタイトルは覚えていない。上のほうに教会風の天井壁画が描かれていて、下にどこかで見たことあるような水墨画の絵巻が絨毯代わりに広げられている。天使みたいな人の後に上演している映画も見覚えがある。『ローマの休日』だ。
芸術作品に満たされるこの奇妙なカオス空間の中で、私は浮遊している。
「貴女にとって、こちらのほうが馴染み深いですね」
そう言ってリモコンみたいなものを操作すると、私の背後から音楽が流れる。振り向くとそこに古い画質のオペラの映像が映っている。
(この映像知ってる……フルトヴェングラーの『ドン・ジョヴァンニ』……)
鉄板演目に、最高の出演陣。まさにクラシック音楽映像黎明期の伝説の一枚。オペラのことがそんなに詳しくない私でも観たことがある。
相変わらず状況がよくわからないが、とりあえず久しぶりのオペラ鑑賞で心の平穏を取り戻そう。
「そろそろいいですかね。ボクを無視するなんて、なかなか図太いですね貴女」
「あっ、いいえ、すみません。状況を飲み込めず、ぼうっとしていました」
「まあいいか。ボクのこと、そしてこの場所のこと、気になりません?」
「教えてくれるのですか?」
天使らしき人が「そうしないと始まらないでしょう」と笑って説明しはじめたが……正直、どこまで理解できたかわからないし、どこまで信じていいのかもわからない。とりあえず話をまとめると、この天使みたいな人は無数に存在する高次元の存在で、地球の監視と管理を任されているから彼らは自分のことを「管理者」と呼んでいる。地球の生態圏が重大な危機に直面する時でないと介入が許されていないから、普段はぶっちゃけ暇。暇つぶしに管理者たちは地球の管理に使う能力を応用して、無数の世界を別次元に作り出して、設定をいじって遊んで、そして作った世界を互いに見せあう。それもだんだん飽きてきたので、マンネリを解消するために最近は地球出身の魂を自分たちが作った世界に転生させて観察するのがトレンドらしい。無断で地球に干渉するのはダメだが、死んだ人間の魂を確保して別次元に移動させるのはぎりぎりセーフ。だから管理者たちは自分が作りたい世界に合いそうな新鮮な魂……つまり死んだばかりの人間を見つけると即座にこの管理空間に連れ込む。
「そしてこの部屋は管理空間の中の一室。ボクの領域、『あらゆるステージを作り出す部屋』です」
「……いろいろ突っ込みたいところがあるけど、まず……なんであなたたちが地球を監視するのですか?」
「それはボクたちにもわかりません。ボクたちはたださらに高次の存在に命令された通りに地球の監視と管理を行うだけです」
そして命令に抵触しない範囲内で好き放題して遊ぶのね。私たち人間で……
「……それで、私をここに連れ込んで、なにをさせたいのですか」
「それはもちろん、貴女をボクがこれから創るワールドに転生させるためです。貴女を主演に据えると、きっといいステージができると思います」
はぁ、「ステージ」、と来たか……ますます気に食わない。人の意志を無視して作らせるものなんて、芸術だと認められると思っているのか。
「この部屋を見たらわかると思いますが、ボクは人間の芸術創作に強く惹かれています。あんな小さな体とちっぽけな智慧なのに、こんなにも素晴らしいものを作り上げることが可能なんて、本当に不思議なんですね」
それを不思議に思うのはきっと、芸術の本質と越えてはならない一線が知らないから――と言ってやりたいが、さすがにこいつを怒らせるのはまずそうなので我慢する。
「自分で言うのもなんですが、ボクのワールドはなかなか人気なんですよ。光栄なことに、たくさんの管理者がボクの芸術的センスに興味を示してくれています」
それはあなたたちの間の話で、出演を強要される人間とは関係ないでしょう?……ダメだ。これ以上こいつの話を聞いたら自分を抑えられなくなりそう。
「そんな険しい顔をしないでくださいよ。ボクの話を聞いて大体の人間はいい反応を示さないが、貴女の表情は特にひどいですね」
「……そんなつもりは、ないけど……」
「貴女の言いたいことならよくわかりますよ。ボクたちのおもちゃになって、魂を弄ばれるのが嫌と言うなら、今の話をなかったことにしてもいいです。今すぐ貴女の魂を本来あるべき形にもど――」
「やめて!やります!私、やりますから!」
「それでこそボクが求めている『諦めたくない執念』。貴女のステージ、期待していますよ」
満足気に微笑んでやがる。いちいちむかつくなこの天使モドキ。しかし私はもうこいつのことを無責任に批判することができない。実質他に選択肢がないとは言え、こいつのステージに出演する意志があると、私自身が示したから。
そうだ、こんなこと気にしてる場合じゃない。私は異国の地で不慮の死を遂げた。やけ飲みなんて馬鹿な真似で親しい人たちを悲しませた。管理者の話に乗ると、もしかして私が本当に次の人生……もう一度チャンスを掴むことができる。それを告げることができれば少しは彼らの痛みを和らげるじゃないかな。
「あの、地球での私は本当に死にました?もし可能なら、私の両親と親友に知らせたいんです。私が新しい人生を始めるチャンスを得たのを伝えたいんです」
「残念ですが、それは地球への干渉となるのでボクにはできません。正確に言うとできるけどやったら消されます。管理者は無数にいるからいくらでも替えが効きます」
そうか。ダメなのか。悲しむ両親と、夢を失った親友のために私はもうなにもできないのか。こんな私が転生して異世界でのうのうと生きることが許されていいのか?こんな私に本当に次のチャンスを得る権利があるのか?
「そんなに落胆しないでください。これまでたくさんの人間が同じ願いをしました。みんな今の貴女のように残された人のことを案じました。ボクは本当にその願いを叶えてあげたかったです。その真剣な姿勢が美しいとさえ思いました。そんなボクから言えることは唯一つ。貴女の人生は貴女のものです。貴女の大切な人たちのために生きることができなくなりましたが、それで生きる意味がなくなったわけではありません」
「……そうですね。あなたの言う通りです」
ここで立ち止まっても仕方ない、ということか。まだ割り切れないけど、私はもう前に進むしかない。
「それで、私はどうすればいいですか」
「まずはボクととことん話しましょう。この場は戻れない旅に出発する前の説明会だと考えるといいです」
「えっと、そういう意味で聞いたわけじゃないですが……そうですね。参考までに聞きたいんですが、あなたたちが作ったワールドに放り出された人間はどうなるのですか?どんなことをさせられるのですか?」
「んー……ワールドはそれぞれの管理者の趣味趣向によってテーマが決まる、としか言えません。ボクたちは無数に存在するから、ワールドの形も無数にあると考えるべきですね。確か一番多いのは転生者が勇者として世界の危機を救うタイプかな?古典ですが最近みんな食傷気味で別のジャンルを求めているみたいですね。地球出身の魂を文明水準が低いワールドに放り出して知識と技術をもたらす文明発展ゲーム的なのも人気みたいです。噂では、凶悪殺人犯の魂を招いて、延々と猟奇殺人ショーを上演するワールドもあるみたいです。あまりいい趣味とは思えないですけどね」
マジか。勇者と文明発展はともかく、最後のはひどすぎないか。やると決めたのは早計だったかもしれない……
「そんなに心配しなくていいですよ。さっき言った通り、ボクは人間の芸術に強い興味をもっています。ボクが求めているのはまず芸術に携わる人間、そして『諦めたくない執念』を胸に抱いて死んだ魂。そう、まさに貴女のような人材です。ボクは地球で成し遂げられなかった貴女たちを保護して、ボクのワールドで芸術活動に励んでもらいます。一度夢が潰えた貴女たちのために、力を存分に発揮できるように最適なステージを整えます。つまりパトロンの真似事ってところかな。貴女たちの活動の成果を直に楽しむ、ついでに貴女たちが活動の過程での努力と成功、挑戦と挫折を特等席で観られます。まさに一粒で二度おいしい、すごいと思いません?」
聞く限りじゃ悪くない条件みたいだが、一つだけどうしても気になることがある。
「あの……ご存知しているかもしれませんが、芸術には鑑賞者が必要です」
「ん?ああ、もちろん知っていますよ。作り手だけでは成り立たないですね」
「さっき、あなたは地球に干渉できるのは死んだ人の魂を捕獲するくらい、と言いましたよね。無数に管理者が存在することを考慮すると、希少資源である地球の魂を一つのワールドに二人以上配置するとは思えません。それなら私がこれから生きていく世界にいる、私以外の人々は果たして、どんな存在なんでしょうか……」
「なるほど。ボクのワールドの住人たちは果たして人間と言えるのか、そう言いたいのですね。魂を持たないただの人形では本当に芸術を理解できるかどうかが不安ですね」
「……はい。理解が早くて助かります」
意外にもすんなりとわかってくれた。管理者は人間と感性が大きく違うだろうから、私が懸念していることを理解できないじゃないかと思った。昔この空間に連れ込まれた人も同じ質問をしたかもしれない。
「実はボクたちはもう地球人の魂を完全に解析して、自分たちで創り出すことができます」
「……はぁ?それが本当なら、地球の魂を確保しなくてもいいでは?」
「そうですね。最初はそんな遊び方をしていました。でもすべてが思う通りにできる世界はそんなに面白くない、ということがわかりました。ボクたちが生み出した魂ならすべてがボクたちの設計通りになります。ボクたちの演算能力を持ってすれば、自分のワールドにいるすべての魂の出生から死亡まで大まかの人生を予測するのさえも可能です。そこでボクたちにも予測不可能の要素を入れるために地球人の魂がほしいです」
ん……今の話を聞くと、やっぱり管理者製の魂は人間の魂と完全に同一視できないと思う。でもこれ以上この件についてなにを話しても無駄だろうから、転生したあと管理者製の魂とやらを自分の目で確かめるしかない。
「ボクには人間の芸術ができませんが、ボクが設計した魂はどれも芸術品並の出来だと自負しています。向こうでぜひ彼らのことを一人ひとりの人間として接してください。特に向こうの貴女の器と身近の人々は念入りに作りますから、きっと気に入ってくれると思います」
私の……器?
「そういえば、私自身がどんな形で転生するかについて、まだ聞いていません……」
「ボクは今貴女の身体特徴、性格、経歴などのデータを吟味して、向こうの貴女が使う体を作成している最中です」
「転生と言えば、赤ん坊になって新しい人生を始めるじゃないですか?」
「そういうワールドも多いですが、主に安全性のためボクのワールドでは器に入って途中スタートを採用します。どちらも絶対安全とは言えないですが……そうですね。転生する時の危険性もここで説明しておきましょう」
天使モドキの話によると、赤ん坊の未発達の脳に成人の記憶を入れると相当な負荷がかかる。おおよそ十分の一の確率で前世の記憶が破損、万分の一の確率で脳の成長に悪影響を与え、百万分の一の確率で深刻な脳障害を引き起こす。管理者が用意した器に転生する場合も、これまでと違う体と環境によって適応する時間がかかる。違和感が長期間解消されない場合症状が悪化して統合失調症になり、最悪のケースでは自傷行為もありえる。
「というわけでより安全、それにボクが目指すステージにふさわしいほうを選んだのです。適応しやすいように、なるべく生前の貴女に近い体と環境を用意するつもりですが、ワールド生成の都合上どうしても変更せざるを得ないところもあります。そこはご了承ください」
「……どうせ私がなにを言っても変わらないですね。あなたのスキルとセンスを信じるしかありません」
「そんなことありませんよ。なにか要望があれば遠慮なく言ってくださいね」
「え?いいの?言ったら叶えてくれます?」
「可能の範囲内なら貴女の希望に沿うようにワールドの設定を調整するつもりです」
「可能の範囲内、か。世界の創造主でもできないことがあるのですか?」
地球から見ればこの天使モドキは「管理者」というよくわからない存在だが、これから私が行く世界では神に等しい。それでもできないことがあると言うのか。
「そういう意味ではありません。可能の範囲というのは、ステージに支障をきたさない程度に貴女の可能性を制限することです。例えば貴女を強力な魔法使いにすることはできます。しかしそれでは貴女が冒険に出て音楽をやらない可能性が生じます。ボクたちが見たいステージと違うものになる可能性はできるだけ防ぎたいです。だからそんな無用な設定はしません」
つまり私が勝手なことができないように設定するのね。なんだが自分の意志と関係なく進路が決められたみたいでちょっと嫌な感じがする。まぁ最初から私の目標は決まっているから別にいいか。
しかし魔法ねぇ……せっかく異世界に転生するだしやっぱり使ってみたいかな。私が音楽の道を進まないなんてありえないから、なんとか魔法が使えるようにしてもらいたい。それに異世界なら、魔法以外にも面白いこといっぱいあるかな。例えば異世界の聞いたことない音楽……あっ。
「そういえば、向こうの音楽はどんな感じになるのですか?もしかして私が全然知らない理論で作曲してるとか、私が読めない記譜法を使ってるとか、地球にない楽器と編成で演奏とか……」
想像してみたらワクワクしてきた。一から勉強し直すのはすごく大変だけど、それはそれで楽しそう……!
「地球とは違う世界となるけど、貴女がやりやすいように、音楽に関しては地球をベースに作ります。貴女がよく知っている作曲家と楽曲が登場するし、楽器も地球のと同じです」
んー、ちょっと安心したけど……せっかくの異世界だというのに、これじゃ元の世界でやり直すのと大差ないじゃん。
「まぁそんなにがっかりしないでくださいよ。地球の音楽史をそのまま再現するのもつまらないと思うから、少しひねりを加える予定です。ネタバレにならないようにここで説明はしません。実際どんな風になるのかは自分の目で確かめてくださいね」
「それなら一つ聞きたいことがあります。その改変によって、地球に実在する楽曲が今あなたが作っている世界に存在しなくなる、ということはあり得るのでしょうか」
「多分あると思います。これについてはちゃんとワールドの生成シミュレーションを確認したほうが良さそうですね。ちょっとまってくださいね………………ふむ、結構ありますね」
やっぱりあるのね。このまま転生すると私がずっとやりたかった楽曲を異世界で出来なくなるかもしれない。
「でしたら、私に一つ音楽と関連する能力を授けてくれますか?『私が知っている楽曲の譜面を創り出す能力』でお願いします」
「んー、向こうに存在しない楽曲を連れて行くためですね。そのくらいなら問題ないかな。能力の詳細はこちらで勝手に設定しますが、貴女の要望を満たせるほどの性能を約束します。具体的にどんな事ができるかは向こうに着いたら色々検証してみてくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」
よかった。楽譜は記憶を頼りに書き起こすこともできるが、完全に暗記しているほどの曲はそんなに多くない。細かい演奏指示まで間違えることなく記入するのはさすがに自信がない。それに自分で楽譜を作成するならパート分けもやらなきゃならないしかなり大変な工程になる。そこも能力で解決できるならすごくうれしい。
説明がまだまだ続く。いちいち確認するのは面倒だけど、マジで自分の将来がかかってるから真面目にやらないと。
「向こうの世界の言葉はどうなるのですか?地球の言葉とぜんぜん違うものになります?」
現代の指揮者は海を渡り、いろんな国のオーケストラと共演する。多国語を操るのはもはや必要スキル。この数年間海外のコンクールのためにすでに死ぬほど頑張ったし、異世界でまたいろんな言語を勉強するのは勘弁してほしい。できれば異世界転生の定番と言える全言語理解とかのチート能力をもらいたい。
「言語についてですね。そこはすでに考えてあります。貴女の生前の言語能力を活かせるようにワールドの設定をします。具体的に言いますと、貴女の母国語はそのまま向こうの貴女の出身国の言語となります。その隣国の言語は貴女が得意な外国語。そして貴女があまり得意じゃない第二外国語とほんの少しだけわかる他の言語はさらに遠い国の言語になるように設定します」
なるほど。今の私の言語能力をそのまま向こうの世界に反映するのね。希望のチート能力じゃないけど、これなら言語で困ることもないでしょう。今までの努力が無駄にならないのもうれしい。
「……どころで、管理者のあなたたちはいつでも外部から世界に介入できると考えたほうがいいでしょうか。もし私がなにか気に障るようなことをしたら……消されます?」
「その心配はいらないです。ボクたちは学習しました。人間は努力の成果が台無しされるのが大嫌いなんですね。昔のワールドではボクたちの理不尽な干渉を恐れるあまりに発狂して奇行に走るケースがたくさんあります。そうならないために今はこうして貴女たちにきちんと説明します」
「つまり、介入するのもできるけど……悪影響を及ぼさないように、あえてなにもしないのですね」
「その通りです。他の管理者が作るワールドに、人間に次々と試練を与えるタイプもあるけど、ボクのワールドであんなことはしません。ワールド設定が終わったら貴女は新しい人生を自由に生きてください。ボクたちはただ観客としてそれを観るだけです。行儀よくに、ね」
「……それはありがたい話ですね」
「逆に言うと、向こうでボクたちの助力も一切なしとなります。そのつもりで頑張ってくださいね」
そして長い時間が過ぎて、とうとう管理者からもう説明と確認事項がないと告げられた。
「特に問題がないみたいですね。ワールドの生成も先程終わりましたし、そろそろステージに上がってもら、」
「ちょ、ちょっと待ってください!もうすこし、慎重に、念入りにチェックしませんか?」
「その必要はないと思いますが……まだなにか質問があれば受け付けます」
必要がないかもしれないけどそんな簡単に決められないから!なにか大事なことを忘れているかもしれないし、何より私の心の準備がまだできていない。とりあえず質問を……なんでもいいから質問を投げて、考える時間を稼ごう。
「し、質問ですね。魔法……そう、魔法よ。向こうの世界に魔法がありますね。どんなのがあるかもっと詳しく教えてくれますか?」
「それはさっき答えたはずですよ。貴女の器にすでにこのワールドの平均的成年女性が持つ魔法関連の知識を詰め込みました。向こうに着いたら自然と判るのでこの場で説明する必要がありません」
「えっ。それじゃ、要望を!お願いしたいことがあります!魔法を使ってみたいです!音楽はちゃんとやりますから――」
「それはさっき拒否しました。どうやらもうなにもないみたいですね」
「そんな!ちょっとだけ!ちょっとだけでもいいではありませんか……えっ?」
ケチな天使モドキに抗議しようとしたら、急に足元の絵巻が消えた。下のなにもない空間からとてつもない力を感じる……吸い込まれる!
「では、良い旅路を」
「だからちょっと待って……いやぁあああぁぁぁああ!」
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