残の業

中野半袖

21時過ぎ、おれはやっとのことで会社を出た。

残業疲れでエッサッサ。エッサッサ。ああ、疲れた。残業は疲れる。


深い残業の帰り道、おれはコンビニで一杯ひっかけると気持ちだけはすぐにご機嫌になった。


エッサッサ節をオリジナルで歌いながら歩いていると、すれ違う人々がおれを見ている。


酒のせいで自分の声量が分からず、自分で思っているよりも大きな声が出てしまっていたのかもしれない。


おれは少し恥ずかしくなって、エッサッサ節を鼻歌程度に抑えて歌うようにした。


ところが、すれ違う人はやはりおれを見てくる。それも、たまにではなくすれ違う人全員が絶対におれを見てくる。


中には思わず立ち止まって、おれが通りすぎるまでそのままの状態で動けなくなる者までいた。


鼻歌で歌う、エッサッサ節はそんなに珍しいものなのだろうか。いや、そもそもこの人間の歩く音よりも小さい声で歌っているはずの鼻歌がどうして聞こえるのだろうか。


やはり、酒のせいで自分の声量が分からなくなっているのかもしれない。


とにかく疲れた。今日は熱い風呂に入って、とっとと眠ろう。


11月の肌寒い風が吹き抜けて、おれは全裸の身体をブルブルっと震わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残の業 中野半袖 @ikuze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ