第9話 お願いします!

 先程シャーロットと、監督にシャーロットを野球部のマネージャーにすることを頼むと約束した。


 監督に直談判するために、俺は今職員室に向かっていた。

 なぜだか分からないが、今俺の人生史上1番緊張している気がする。


 シャーロットに自信満々に約束しなかったら良かった……。

 監督に断られたらシャーロットに合わせる顔がない。

 頼むから監督了承してくれよな……?


 そんなことを考えていたら、気づいた頃には俺は職員室の前にいた。


「(うわっ……)」


 もうこんなとこまで来てたのか。

 ここまで来たらもう引き返せない。

 やる気だ、やる気!


 ガララララッ!


「失礼しますッ!遠藤先生お願いします!」

「あぁ、わかった!海斗、外でちょっと待っててくれないか?」

「はいッ!分かりまたッ!」


 ふぅ……。とにかく呼び出すことに成功した。

 このまま頑張るか!



「海斗、待たせてすまんな。用はなんだ?」

「はい。俺のクラスに転校してきた、Charlotteシャーロット七瀬ななせという子が野球部のマネージャーをしたいと言っているのですが、そこで、俺からお願いがあります。どうか、シャーロットさんが野球部のマネージャーになることを認めてくれませんか?お願いします!」


 俺は、誠意を込めて周りの視線など気にせず勢いよく頭を下げた。


「そうか……。いいぞ?」

「ふぁ!?……え、今なんと!?」

「だから、いいぞ?……その七瀬さんが野球部のマネージャーに入りたがってるんだろ?それは野球部としても大歓迎だよ。要領がいい子だといいのだが……」


 俺の思いが伝わったのか、監督はあっさりと了承してくれた。


「要領のよさは、俺が保証します。シャーロットさんは、頭も良く、飲み込みが早いので、きっとマネージャーとしても役に立ってくれると思います!」


 監督は、悪いことを考えるような顔で「海斗がここまで推す人。早く野球部に来てもらいたいものだ……」と言ってきた。

 うっ……。恥ずかしい。

 監督遊び心が暴走するといつも面倒なんだよな……。

 だから、これ以上ヒートアップする前に逃げよう。


「か、監督。ありがとうございます!入部届けなどの書き方などは俺と担任の方で教えておきます!」

「そうか。俺としてはもう少し話していてもいいと思うんだがなぁ?」

「いえ、結構です。昼休みも残り少ないので!」


 そこまで言うと、監督は「え〜?」とわざとお茶目な声を出して俺に訴えてくる。

 俺は心の中で、『その手には乗らないぞ』と言ってからその場を立ち去った。


 教室へ帰る途中、周りに誰もいないことを確認して俺は大きくガッツポーズをした。


 ★


「シャーロットさん。野球部のマネージャーの件なんだが……」


 俺は意外と意地悪だ。

 だから、シャーロットに本能的にドッキリを仕掛けてやろうと思っていた。

 今回のドッキリは〜!ジャカジャカジャカジャカ、ジャン!!『シャーロットのことを監督にお願いしたら断られたドッキリ〜!!』いぇ〜い!!


 俺の脳内では、司会、ゲスト『俺』。カメラマン、監督『俺』。そして、スタジオ観覧も『俺』

 唯一ターゲットが『シャーロット』のドッキリ番組が始まった。


「ど、どうだったの……?」

「ご、ごめんな……。俺もシャーロットさんには野球部のマネージャーになって欲しいと思ってたんだが……」


 シャーロットが思わず固唾を飲み込んだのがわかる。


「う、うん……」

「じ、実は……!」


 俺はあえて時間をあけてから言った。


「いいってさ」

「ん?」

「だからマネージャーになってもいいよ。大歓迎だって監督が言ってたよ!」

「……うそ!やった!」


 シャーロットは僕のドッキリ(?)に上手く騙されたらしく、すごくびっくりしたような顔をしている。


「ところで、柊くん?どうしてダメだった風に話したのかな?」

「あ!え…。ん〜……、その方が、喜ぶかなって!えへっ」


 ダメだ、出会ってまだ短いが俺にはわかる。

 シャーロットは今怒ってるということを。

 どうやって逃げるべきか……。


「柊くん?今日帰り一緒に帰ろう、ね?」


 あ、圧がすごい……。

 ここで断ったら家に着いてきて背中を刺される気がする……。


「う、うん。一緒に帰ろう。……た、楽しみだな〜?」


 俺は自然を装い逃げることにした。が────


「どうしたの、柊くん?もう授業が始まっちゃうよ〜?」


 シャーロットに勝てる自信がない。

 笑顔の裏にものすごく黒いものがある気がするのは俺だけか?

 横目に周りを見渡すと、みんないつも通り過ごしている。

 俺の思い込みだよ、な……?

 俺はもう、このことは考えないことにした。


 にしても、シャーロットがマネージャーに入ってくれるとすごく助かる。

 本当に良かった!


 俺は、そう心の中で呟いてから授業の準備を始めた。

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