照魔機関—■■■巫■—

木の傘

第1章 削除

当機関が有する■■■■の記録について

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 気が付けば、どこか知らない暗い場所にいた。

 どうしてここに来たのか、何をしていたのかもわからないまま、両手を伸ばして闇の中を泳ぐように歩いていた。


 目が慣れてくると、ここが古い日本家屋だとわかった。


 遠くの方から、微かに音が聞こえてくる。


 ——ブチッ ガリガリ ぐちゃ ぐちゃ

 噛み千切り、噛み砕いて咀嚼するような音。


 ——びしゃびしゃ ずるずる

 液体を滴らせて、啜るような音。


 音に近づくにつれ、蝋燭の明かりが漏れる襖が見え始めた。

 襖の絵に、見覚えがあった。桑の葉にとまる、羽を広げた八脚の蚕蛾。


 思い出した。ここは桑原のお屋敷。その離れだ。


 夜の内は、絶対にこの部屋に入らないと約束した。中を見てはいけないと懇願された。でも——。


 襖の向こうから、吐き戻すような呻き声と咽る音が聞こえた時、自分の頬が濡れているのに気付いた。


「アイ」と優しく名前を呼んでくれたあの声が、助けも求めず苦しんでいる。

 袖で涙を拭うと、襖に向かって震える手を伸ばした。


珠月みつき様。お許しください」


 襖を開け放った瞬間、生臭い鉄の匂いが鼻を刺した。


 ——思い出した。


 その途端、景色はめまぐるしく移り変わる。

 飢えた琥珀の目、血肉と佇む蚕の繭、不滅の神、研究室、警報、注射器——。

 記憶の渦に巻き込まれて思考の処理が追いつかない。


「でも、思い出した」

 激しい頭痛。

「研究室に戻らないと」

 頭が痛い。

「あと少しで成果が出せる。珠月様を救える」

 痛い。いたいいたいたい。

 気が遠くなる。


 痛みと共に記憶が消える。消えてしまう。


「忘れないで」


 藻掻くように、ノートにペンを走らせた。


 ≪まゆを解いて神憑かみがかり≫

 ≪糸の端はあたしの指に≫

 ≪照魔の神はおそれふうじた≫


 ≪あのほうこくしょはぎそうされているのーとちょっかんしんじて≫

 ≪のーとわすれずよむかく≫


 プツッと音を立てるように、景色が途切れた。

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