良い師

 ジョーンの槍が普通の槍より重めに作っている事を知った俺は剣の振りを相手の頭を軽く叩く感覚で振ってみるようアドバイスしてみた。するとジョーンの木剣の振りが何度やっても振りのブレが少なくなり、ジョーン自身も驚いてみた。


「な、何だよ!少し力を抜いただけなのに、なんか振りがキレイにできるぞ!」

「ジョーン、ジョーンは昔から力が強いって聞いて、何でも力任せにやったが、武器修繕と建物作りは丁寧にやったって聞いてもしかしてと思ったんだが上手くいったな」

「俺の話を聞いて、そこまで話が及ぶなんてあんたもすげえよ」

「いや、実はな俺も似た事があってな」


 冒険者時代の話は正直まだあんまりしたくはないが、冒険者になる前のあの話ならシーナやジョーンにしてもいいかもな。


「俺はここじゃないんだけどある村の生まれで、そこから冒険者を目指して、その例の勇者と一緒に剣の修行をしたんだ」

「ああ、あのゲス勇者ね」

「まあ大事なのはそいつじゃなくて剣を教えてくれた人で、俺は魔法や特殊なスキルの才能もなかったから、ひたすら身体と剣技のスキルを鍛えたんだ」

「ほうほう、それがあんたのあの力の原点というわけか」


 ジョーンは感心しているが、ここで俺は自分が剣が伸び悩んでいた事を告げた。


「それがマルスの奴はどんどん剣技や魔法が上達していったのに、俺はというと力はついても剣が上手く扱えなかったんだ」

「俺と一緒だな」

「それで師匠、どうしたんですか?」

「最初はマルスに助言を求めたんだが、あいつの言ってることは良く分からなかったな、多分感覚で上手くなっていったんだと思う」


 良くも悪くもマルスは子供の頃から天才肌で、勇者スキルも相まって、あらゆる技術をすぐに身に付けていったからな。冒険者になって以降はその天才性が悪い方向に向かっていったけどな。


「それでその村で俺達に剣を教えてくれた人がいて、元々冒険者だったらしいんだけどケガで引退していてな、その人がさっき俺がジョーンに言ったような助言をしてくれたんだ」

「それで俺はああいう風に剣を使えるようになって、あんたは勇者パーティーの主力までのし上がったのか」

「まあ、どこまで伸びるかは本人次第だけど、いいきっかけになったとは思うな」

「師匠、師匠にもいいお師匠さんがいたんですね、その人は今はどうしているんですか?」

「さあな、俺達が冒険者になる前に村を出たし、だけどもし会えたら2人の事も話したいな、冒険者を辞めた事は何て言われるだろうな」


 俺にとってはあの人はいい師匠だった。冒険者として中途半端に終わった俺だがせめて彼らにとっていい師であれたらなとは思う。

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