領主からの文

 シーナが俺が世話になっている村……の近くの森にすんでから10日ほど経った。さすがにエルフだけあって森での生活はお手のもののようで時々、狩りで獲った獲物を俺や村人に分けていて、村人との関係も良好だ。


 最近ではこんな光景も目にする。


「あ、シーナお姉ちゃん、僕にも弓を教えて」

「あたしもあたしも、シーナお姉ちゃんように狩りを覚えたい!」

「そうね、私の弓はあなた達には大きいし、2人の身体に合った弓を作ろうか、あ、その前に親御さんに許可を取らないとね」


 村の子供にもすっかり慕われているし、かなりシーナもこの村になじんできたな。


 しかし、ドラゴン退治をしてから10日が経っているのに、まだ報酬の話が来ないな。もしかして踏み倒すつもりか?まいったな、冒険者達に伝わらないように俺の名前を伏せてもらったのがかえって裏目に出て、手柄が兵士だけの物って事になってしまったかもしれないな。


 そう考えていた俺の元にこの村の村長が現れて、俺に声をかけてきた。


「おお、リッキーさん、ここにおったか」

「村長、もしかして俺に用事か?」

「そうじゃ、さっき領主様の遣いの人が来てな、この文をリッキーさんに渡してくれと頼んだんじゃ」

「領主様の遣い、それじゃあ報酬の話か」


 村長が領主様の遣いが持ってきた文を俺に渡してきて、早速俺はその文を読んでみた。


『リッキー殿、貴殿はどうやら勇者マルスのパーティーを追放された元冒険者であるそうだな。国家やギルドが勇者としてあの者を支援しており、形式上我々も支援しているがどうも貴殿は理不尽な理由でパーティーから追放された事をこの10日間で調べ上げた。だが、勇者マルスはあらゆる者達にとって都合の良い存在であるため、これを断じる事はできない。その詫び代わりとして報酬を上乗せしたいと思う。この文が届いた翌日に遣いをよこすので、希望などを口添えしてくれたまえ。最後にギルド職員にも冒険者にも貴殿を慕う者がまだ多くいる者を伝える。勇者マルスの件でほとぼりが冷めれば冒険者ギルドに復帰するのも良いであろう。グラッド領主サリアン』


 ……領主様、なんとなく感じてはいたが、やはりマルスの素行を良く思っていない人もいたんだな。だけど勇者であるがゆえに強く言えないのか、そんな中でも領主様は十分俺にとっては良心的な人だ。報酬の件か、よし道場の話をしてみるか。


「村長、報酬の話し合いの事がかかれているからシーナも同席させていいんだよな?」

「わしにはその件はよく分からんから向こうさんがいいと言えばいいんじゃないのか」


 じゃあ早速シーナにも教えてあげないとな。

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