2 「男性は女性を虐げるもの」の真の意味
それからまた、数日が過ぎた日の朝。
「ふわああ……いいよな、スレィフは……ぎりぎりまで寝れてさ……」
紫音は奴隷のための『餌やり』の準備のためにかまどで火おこしをしていた。
この「餌やり」とは、実質的には炊事であることは言うまでもない。ほかにも紫音は、
『奴隷の商品価値を高めるため』という名目で風呂焚きや洗濯、
『奴隷小屋の衛生管理のため』という名目で部屋の掃除も行っている。
……要するに無償労働はすべて『奴隷主』である紫音が行うため、彼は実質専業主夫だ。
紫音も以前、外で働きたいとスレィフには言ったが、
「奴隷主は奴隷に対して性的搾取と経済的搾取を行うのが義務なんです。後者の義務を放棄することになる『有償労働』は認められません」
と言われている。
(まあ……仮に働けても『夜の生活』のための体力を残さないと行けないのは大変だけどなあ……毎晩『襲いなさい』って言われるし……)
この世界の女性の性欲は極めて強く、また男性のストライクゾーンも元の世界に比べはるかに大きい。
そのため、年代が近ければまず男性が欲情の対象となる(紫音も元の世界の基準では、はっきり言って不細工である)。
また、この世界は名目上『男尊女卑』であるため『女に命を授けてくれる男性様の子種は何より貴重なもの』とされている。
……そのため、男性が自慰行為を行った場合『男性様の貴重な子種を無意味に殺す殺戮行為』と扱われ、実施した男性は死罪という、素晴らしい法律がある(逆に女性の自慰行為は罪に問われない)。
また『他者の奴隷』に手を出すことも禁止されるため、配偶者以外の相手と許可なく性的行為を行った場合『男性のみ』最低でも終身刑となる(痴漢は勿論、合意のある不倫であっても同様である)。
その代わり男性は『自慰行為防止のため、妊娠等により妻がセックスできない場合、妻の許可によって特定の代理奴隷(基本は妻の友人や姉妹。紫音の場合はスレィフの妹となる)との性交が許可される』という法律が定められている。
また「自慰行為は死罪」「不倫も重罪」という関係上、当然スレィフをはじめとした妻による『搾り取り』は苛烈なものとなる。……無論これには『夫が有償労働を行うための体力を奪い、経済的自立をさせないため』という理由も背後にある。
それからしばらくして、彼は朝食を作り終えた。
この世界の食事事情は、基本的に一昔前の日本と同様だ。
「よし、完成だ!」
スレィフとその両親には豪華なおかずを追加し、奴隷主である自分は粗末なおかずを盛り付けた。
これは『奴隷を肉体労働でこき使わせるため』という名目である。
更に『奴隷主は奴隷よりも先に食べなくてはならない』というルールを守るために、一口食事を食べた後、
「奴隷ども! 餌の時間だからありがたく喰え!」
そう叫んだ。
するとしばらくして、寝ぼけ眼をこすりながら、スレィフとその両親がやってきた。
「「「おはようございます、ご主人様」」」
紫音は「敬語で返事をしてはならない」というルールがあるため、彼は「ああ」と、ぞんざいなふりをして答えた。
「ご主人様、食べさせていただきます」
そういいながら、彼女たち3人は部屋の片隅に皿を持ちより、床に置いたうえで食事を取り始めた。
(……よし、僕も食べるか……)
因みに、奴隷は『奴隷主と同じ場所で食事を食べてはならない』というルールがある。
そのため紫音は3人とは離れた場所に置かれた『特等席』という名の椅子に座り、一家のだんらんを横目でうらやましそうに眺める。
(楽しそうだな。やっぱりスレィフの家族は……)
彼女たちの話題は今日の料理に向かったようだ。
「ねえ、母さん。今日の魚、なんか少し焦げてるよね?」
「そうですね。……まあ、奴隷である私たちにはふさわしいのでしょう?」
「まったく、可愛そうですね、私たちは……」
また、食事中は妻以外の奴隷と奴隷主の会話も禁止されている。
そのため紫音は会話に入れない。
(……火加減を間違えたか……)
そのため、紫音はそんな風にあてこすってくる発言を聴いて料理の出来を知る。
しばらくして3人は食事を済ませたのか、立ち上がった。
当然後片付けは紫音の役目だ。
「それじゃあ、ご主人様、行ってきますね?」
「ああ、気を付……」
そこまで言おうとして紫音は口をつぐんだ。
……奴隷を気遣うことは、大変無礼な行為なので意識して『高圧的に接する』必要がある。
「さっさと私のために稼いで来い!」
「はい……ご主人様……」
そういわれたスレィフは『それでいい』とばかりに笑みを浮かべ、家を後にした。
そして彼女の両親も見送ったあと、一人になった彼はようやく一息ついた。
(はあ……これでよし。後は……掃除して洗濯して……忙しいな)
だが、そこまで考えた後で紫音はカレンダーを見て気が付いた。
(ん? 待てよ? 確か、そろそろだったな……)
そして、あることに気が付いた紫音は大急ぎで買い物に走っていった。
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