形だけの「男尊女卑」の異世界で「名ばかり奴隷主」として農家に婿入りした「幸せな」男の話

フーラー

1 「名ばかり男尊女卑」の世界で農家に婿入りした異世界転移者「因幡紫音」

「女は奴隷として、男性様に虐げられることこそ喜び」

「男性様が『もの』である女を虐げ、搾取することは『義務』である」



それが、異世界であるこの「リバメル共和国」のスローガン……という名の建前であった。




「ぐは!」



時刻は現代の単位で午前1時。

豪奢なベッドで寝ていた『奴隷主』である因幡紫音(いんばしおん)という名の青年は、自身の『奴隷』である妻スレィフから、ドカッと蹴りを入れられて目を覚ました。



年齢は彼女のほうが少し下だろうか。

大変かわいらしい容姿をしているが、その表情は怒りに歪んでいる。



「ねえ、ご主人様……なに、寝くたばってんですか?」

薄手の服を着た妻スレィフは、彼を足蹴にしながら睨みつけた。



「ご主人様は、奴隷である私を『虐げろ』って昼間も言いましたよね?」



そういいながら妻は、ぐい、と自身の首についている首輪のひもを引っ張る。



「うわ!」



そして彼女が寝ていた、粗末なわら布団に無理やり移動させられた。


スレィフの首輪の持ち手は、紫音の右手につながっている。

……というより、右手にがっちりと縛り付けられており紫音は自力でほどけない。

バランスを崩した彼の胸倉をつかみあげながら、スレィフはすごい形相で怒鳴りつけた。



「奴隷に対する性的搾取は、ご主人様……いえ、男性様の義務です! それくらい常識ですよね?」

「い、いや……その……だって、君はさっき、機嫌が悪そうだったから……」



今日は仕事で彼女は嫌なことがあったらしく、イライラしていた。

そのため、怒らせたくないと思い、スレィフを抱く気になれなかったのが本音だ。

実際、現在の態度も仕事のストレスを紫音にぶつけているのだろう。



だが、紫音がそう答えると、彼女の平手打ちが飛んできた。

バシン! と凄まじい音が室内に響く。



この世界では、妻の夫に対する身体的暴力は、奴隷主の支配欲を煽るため、即ち『わからせ』をさせるための『前戯』の一環として認められる。


逆に女性への身体的暴力は(加害者が誰であっても)『もの』即ち『公共財』である奴隷を損壊させたこととされるため終身刑となる。



「男性様の分際で、女に嫌がられるのが怖いのですか? 私たち奴隷に『思いやり』を見せるなんて、最低です!」



そういうと、ごろんと仰向けになり、犬が服従するようなポーズを見せる。

だが、その眼光は鋭く、紫音を刺すような目で睨みつけていた。



「分かったら、私をさっさと『無理やり』襲いなさい。もちろん乱暴にお願いしますよ? ……少しでも私を気遣うような真似をしたら、また殴りますよ?」

「ご……ごめん……」

「あん?」



スレィフはドカッと、紫音のみぞおちを蹴り飛ばす。



「奴隷主の癖に、奴隷に対して謝らないでください! もう一度、返事は?」

「く……。だ、黙れ、奴隷風情が私に口出しするんじゃない!」

「ごめんなさい、ご主人様! 許してください……」



そういいながら『奴隷』である妻は泣きそうな顔をして、媚びるような眼を向けた。

……これは『わかればよろしい』という意味である。




紫音はスレィフの服に手をかける。

なおこの服は『セックス用の使い捨て』であり、引っ張るとビリビリに破くことが出来る。



……ここからは、真剣にやらないといけない。

そう思った紫音は集中するべく眼を閉じて精神統一をした後、眼を見開いて叫ぶ。



「奴隷風情が! 今夜はぶっこわしてやるから覚悟しておけ!」

「きゃあ! やめて、ご主人様!」



この世界では女性に『やってはいけないこと』と『やらなくてはいけないこと』が逆転している。


そのため、ここで本当に手を止めたら、彼女にまた折檻される。

そのことを知っている紫音は、妻の唇に貪るようなキスをしながら、彼女の服を引きちぎった。






それからしばらくののち。


「つ、疲れた……やっと『ぶっ壊れた』か……」



紫音の『性的搾取』にスレィフは満足したらしく、笑顔でガーガーと高いびきをしながら眠りにつきはじめた。

その様子を見ながら紫音は、全裸の彼女にこっそりと布団をかぶせて思った。



(……何が『奴隷ヒロイン』だよ……あいつ、騙しやがって……!)



彼が、この家に婿入りしたのは、先日まで住んでいた町で出会った商人に騙されたためだった。


この世界に転移したばかりで右も左も分からなかった紫音に、その商人はとても親切にしてくれた。

だがその商人はある日酒場で、



「奴隷ヒロイン、ほしくないか?」

「奴隷に養われる生活にあこがれない?」


と紫音に尋ねてきた。


もとより紫音は、小説に出てくる『奴隷ヒロイン』という『とことん男性に都合の良い存在』にあこがれていた。


そのため「うん、是非」とうっかり言ってしまった後、気が付いたらこの家に婿として売られていたのである。



(今思うとあいつ、異世界転移者を狙う詐欺師だったんだな……)



そう思いながらも、紫音はスレィフのことをぎゅっと抱きしめながら、一緒にわら布団に横になった。

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