第29話 娘は……っ独り立ちしようとしているんです!!

「私が圧倒的な差をつけて優香をゲットし、そのあと泣きつかせて見せるアル!」






「……勝手にすれば」


 そう軽く言った凜だったが――――甘かった……ッ!




 そこからの、アナスタシヤの巻き返し。


 否、アナスタシヤの金に物を言わすような反撃。




 まず、凜は優香に近づけなくなった。


 


 たとえば、移動教室。




「優香、次移動だから、一緒に行……」


 後ろから体当たりするようにアナスタシヤはやってきて。




「ユーカ、次はどこの教室に移動すれば良いアル? 転校してきたばかりで、右も左もわからないアル~っ!」


 そう言って、優香を凜から掻っ攫っていく。






 またあるときは。


 あ、優斗だ、と廊下で気づいた凜。声を掛けようとすると。




「ゆ――――」






「あなたが、学校一のイケメンアルか?」




「え? ああ、そうらしいな! あっはははははっ!」


「だったら、好きです! アル!」




「え?」だったら、とは?




「私、ひとめぼれしちゃったアル! 付き合ってほしいアル!」


「い、いやー、ちょっと……」




「何故アル?」


「まだ失恋のショックから立ち直れていない……というか」




「じゃあ、今日はシツレンのショック? から立ち直るために、私と一緒においしいものを食べに行くアル!」




「い、いや……それもちょっと……」


「ならば――――」


 そう言って、アナスタシヤが写真を取り出す。






「っ……それは!」


 凜の小さい頃の写真。


 


 凜には全く見えていないため、優斗が何故それほど驚いているのかよくわからない。






「な、なんで、こんなものを……!」


 優斗は、まるで裏社会の人間が機密の物を取引に使われた時のように、驚いた。






「――ふん、私のパパは石油王アル。その気になれば、いくらでも入手ルートはアル!」




「くっ……、なんてあくどい奴なんだ!」 




 そう言いつつも、優斗は土下座し、財布から五千札をだして、その写真を貰う。


 これにより、優斗は買収されてしまった。






「ふ、ふ、ふ~っ! 学校一のイケメンと言えど、私にかかればこの程度……イージーモードアル!」


 ふふふ、はははと笑う、アナスタシヤ。






 行く先々で、アナスタシヤは凜を妨害した。


 声を掛けようとしても、その前に連れて行かれ、気づけば凜は一人になっていた。


 


 友達は、優香と優斗しかいない。他の生徒には、高嶺の花扱いで誰も近づいてくれなくて。


 声をかけても、女子も男子も気を使われているのが嫌でもわかる。




「いっ……」


 考えてごとしていれば、後ろから走ってくる生徒に気が付かずぶつかってしまった、凜。




「うわ、まずい……あの八雲さんにぶつかるなんて……ご、ごめんなさい~」


 一年生らしい、フレッシュな感じの男子生徒。


「――いや、全然大丈夫……って、あ」


 


 凜の言葉なぞ聞かず、すぐに走って行ってしまった。人の多い廊下では、もうその影は見えない。


 


 いつもだったら。




『ちょっと、ちょっと! 世界一の美少女にぶつかっておきながら、そんなもん? こちとら骨折れたんだけど! 慰謝料として、一億頂戴するわ!』




 などと、優香が言ってくれて、それに凜がツッコミを入れる。






「――――」


 ふと、心が重くなる。


 都会に一人彷徨ってしまった時のような、孤独感。




 周りにはこんなにもたくさん人がいるというのに、何故か孤独を感じてしまう。こんなに、苦しかったっけ、と思う、凜。








「――あれ、八雲さんじゃない?」






 人口密度の高い廊下で、どこかから聞こえてくる声。


 後ろからだ。




「そう言えば、八雲さんって一週間で王子のこと、振ったんでしょ?」






「っ……」


 凜はそんなことが、知られているとは思っていなかった。






「可哀そうだよね~、王子。一週間なんて……あんなに真剣に告白してたのに」


「体目的じゃない?」


 面白がって、誰かが言う。




「八雲さんって可愛いから、今までちやほやされまくってたせいで、女王様気質なんでしょ?」


「えっ? そうなの? それ知らないで、王子は付き合っちゃったんだ」


「八雲さん怖っ……」






「――――っ」




 凜は、何も言えなかった。だって、言っていることは間違っていない。


 一週間で、優斗を振った。好きでもないのに付き合って、その気持ちを踏みにじった。


 性格は、女王気質。決して間違ってはいない。












「……っい、痛!」


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