スペースランナー・ホワイトホエール~無法宇宙で自由業!宇宙を駆けるパイロットの冒険譚!?~
@romeo6
第1話「 スペースランナー・ホワイトホエール」
1-1
これは人類が銀河系を支配するに至った遥か未来の話。
手にした宇宙は広大で、無限に思えるほどの星々が存在し、そのどれでさえも手が届く。そんな時代だ。
それにも関わらず、人々は未だに争いを繰り返し、労働からも解放されることはなかった。
働かなければ、生きてはいけない。
働け、明日を生きるために、汗を流せ――。
「いや、誰だって働きたくはないだろ。やっぱ、ダメだな、自己啓発本ってやつは」
カイ・アサミは、ため息をつきながら端末を閉じた。
黒髪が額にかかり、黒い瞳が疲れたように瞬きをする。
軽く筋肉のついた細身の体を椅子に預けると、彼は画面の暗転をぼんやりと眺めた。
宇宙船の薄暗い照明が、その精悍な顔立ちに陰影を落とす。
そのとき、ふとその著者が同盟出身だということを思い出し、鼻で笑う。
「所詮は同盟の連中の戯言なんだよなあ」
暇つぶしにと小一時間ほど読んではみたものの、期待外れだった。
本の内容は結局、よくあるきれいごとや、いかにして自己を高めるかといった理屈ばかりで、現実の苦しみには何一つ触れていなかった。
だが、その中に一つだけ、カイの心に残る言葉があった。
労働。
それは彼にとって必要不可欠なものであり、同時に彼を追い詰め、苦しめる存在だった。
仕事。
それをこなさなければ、彼もまた生きていけない。
カイは自分の居場所である宇宙船 "白鯨号"のコクピットを見渡す。
元漁船を改造しただけあって、決して大きくはないが、彼の生活に必要なものはこの船にすべて揃っている。
この船と共に星々を渡り歩く生活は、気ままである反面、常に仕事に追われる過酷な現実を突きつけてくる。
それこそがカイの独立パイロットという職業だ。
カイは一息ついて、目の前のメインディスプレイに視線を戻した。
「問題は、その仕事の内容だよな。割の良い仕事だと思って受けたのに、結局危ない橋を渡らされるんだもんなあ」
そう呟きながら、カイは目的地を見据えた。
まだ遥か先の宇宙の彼方――宇宙海賊が根城にしている
メインディスプレイには、惑星上にある、かつて栄えた採掘施設の情報が映し出されている。
今回の仕事は、この危険な場所への潜入調査だ。
勿論、初めから危険な依頼だと分かっていればカイは手を出すことはなかった。
この依頼の当初の内容は、このHIP9986星系で最近悪さを重ねている海賊の根城を特定することだった。
報酬は10万クレジット。
これは
意気揚々と依頼を受け、地味に索敵は得意というカイの特技もあって、難なく海賊の根城を見つけることに成功した。
ここまでは文句なし、上出来だった。
これで依頼は完了と喜んでいると、クライアントから予想外の追加依頼が舞い込んで来てしまう。
メールの文面には、基地の存在を確たるものとするため、証拠写真を取って来て欲しいと、そう書かれていた。
追加依頼料は5万クレジット。
この時点でカイは断る気だった。
しかし、不運にもカイの相棒がこの依頼を「面白そう」といって受けてしまった。
「だって、ただ探すだけではつまらなくてよ?」
「いやいや、面白さは求めてないの!」
フローラの声が、隣の副操縦席から軽やかに響く。
彼女はすでにこれから向かう海賊の規模や勢力について情報を調べているようだ。
長い金髪が肩にかかり、青い瞳がメインディスプレイに映し出されるデータを素早く追っている。
カイはその横顔をちらりと見やり、ため息をつく。
フローラ・ベレス――彼の相棒であり、その美しい外見に似合わない大胆で好奇心旺盛な性格が、彼を悩ませる存在だ。
「それに、カイ様。あの追加報酬、悪くない額ではなくて?」
その言葉にカイは言い返せずにいた。
15万クレジットは、今のカイにとって中々に魅力的な額だ。
なにせ、今の貯金は3万クレジット。
白鯨号の燃料補給、ステーション寄港の際に掛かる費用。
日用品の補充などを差し引けば、かなりギリギリの額となる。
そうした事情もあって、カイは追加依頼を遂行するために、泣く泣く宇宙海賊の基地へと向かっていた。
目的地まで残り2000LSにまで迫ったのを見て、何事もなく依頼が終わる事を祈るばかりだった。
◇◇◇
カイたちは、海賊が根城にしている採掘施設から1キロほど離れた位置に白鯨号を着陸させた。
惑星の表面に、彼らの船が静かに降り立つ。
大気は薄いが、幸いにも重力は1Gに近く、移動に支障はなさそうだった。
「ここからは徒歩だ。慎重に行こう」
カイが言うと、フローラは微笑んで頷き、身支度を整え始めた。
カイも手際よく自分の装備を確認する。
パイロットスーツではなく探索用スーツをまとい、レーザーマシンガンを肩にかける。
その横で、フローラはスリムなバトルスーツを着込み、見るからに凶悪そうなアサルトレールガンを手にしていた。
「さて、準備はいいですわね? 行きましょう、カイ様」
カイは無言で頷くと、二人は施設へと向かって歩き始めた。
足元の砂がかすかに舞い上がり、ヘルメット越しの視界に映る岩肌から、その冷たさが伝わってくるようだった。
カイの頭の中では、任務の流れがすでに組み立てられていた。
まずは施設のセキュリティを掌握し、内部の状況を把握することだ。
やがて、採掘施設の外壁が視界に入る。
カイは腰に装着した端末を取り出し、施設のシステムに接続した。
数秒の静寂の後、彼の指が端末の画面上を素早く滑る。
セキュリティの防壁を破り、システムに侵入するのはお手のものだった。
「よし、監視カメラを掌握した」
カイは施設内の監視カメラから送られてくる映像を確認する。
内部には約20人の海賊たちがうろついているのが見えた。
警備のタレットが複数設置され、溜め込まれた略奪品があちらこちらに積み上げられている。
さらに、カイは施設の完全な地図データも手に入れることに成功した。
実に素晴らしい。こんなにも簡単に依頼を達成する事が出来るとは。
「情報は揃った。任務完了だな、帰るぞ」
カイは依頼を無事に終えたことに意気揚々としていた。
すぐさま端末を閉じて、来た道を戻ろうとしたその時、フローラがカイの袖を引いた。
彼女の顔には、いつもの微笑みが浮かんでいるが、その瞳は明らかに挑発的だった。
カイはその瞳の意味するところを良く知っていた。
「待ってくださいな、カイ様。この状況、うまく使わなくてはもったいなくてよ」
カイは溜息交じりに、やる気満々のフローラを見つめる。
「えーと、どういう意味だ?」
「この施設、見たところ海賊は20人ほど。武装も貧弱、私たちの装備と戦術で十分制圧可能ですわ。そして、制圧に成功すれば、パイロット連盟からの評価もあがりますわ。海賊たちの賞金や鹵獲品も手に入れられるのではなくて?」
フローラの言葉にカイは目を細めた。
確かに、海賊の賞金や鹵獲品の価値はかなりのものになるだろう。
しかし、それでも彼は不安を拭い去れない。
「リスクが高すぎるだろ。それに、契約にはそんなことは含まれていない」
「お金のことを気にしていたのは、どなたかしら?」
フローラは彼の反論をあっさりとかわすように続けた。
「貯金、正直かなり少ないでしょう? でも、ここでこの海賊たちを制圧できれば、当初の報酬に加えて、貯金も一気に増やせますわ。そうすれば、今後の活動も楽になるはずですわよ」
カイは歯を食いしばり、フローラの言葉を反芻した。
彼女の提案は理にかなっている。貯金を少しでも増やすことは確かに今の彼らにとって重要だ。
しかし、リスクの高い行動に出ることで、さらに状況が悪化する可能性もある。
「いや、うーん。でも……」
「大丈夫ですわ、カイ様。わたくしの判断に狂いはありませんことよ」
フローラは自信に満ちた笑みを浮かべ、カイを見つめた。
こうなったフローラはなかなか言う事を聞いてはくれない。
カイは本日、幾度目かの溜息を吐いて静かに首を縦に振った。
「ただし、バレないように攻撃を仕掛ける。一気に押し寄せてきたら面倒だ」
「あら、私はそのほうが楽ですわ」
「いや、お前が良くても、俺がダメなの! 白兵戦が得意じゃないの知ってるじゃん……」
カイは余裕そうなフローラとは裏腹に、白兵戦に関しては全く自身が無かった。
故に海賊の制圧も乗り気ではない。
しかし、金が必要な以上は仕方が無かった。明日は平気だが、一か月後は分からない。
カイの懐事情はそういう事情だった。
「それじゃ、まずは海賊の位置だ。いま、全員にビーコンを付けた。これでリアルタイムで連中の位置を把握できる」
「あら、中央制御室に一人だけ居ますわね……これが大将かしら」
フローラはそう言うや否や、唇の端をゆるやかに吊り上げた。
カイに一瞬だけ視線を送ったかと思えば、次の瞬間には走り出していた。
「お、おい! 待て、フローラ!」
カイは慌てて手を伸ばしたが、彼女の姿はすでに遥か先、施設の入り口へと消えていた。
恐ろしい速さだった。
カイは頭を抱えながら舌打ちし、すぐさま端末を操作し始める。
「まったく、あいつ……!」
カイは素早く施設内の警備システムに侵入し、監視カメラやタレットの制御を無力化していく。
彼女の暴走を止めるためには、まず邪魔なシステムを完全に遮断する必要があった。
さらに、目立たないように施設内の照明も一気に落とす。
瞬間、施設の廊下や部屋が闇に包まれる。
海賊に敵襲を知らせる形となるが、致し方ない。
「フローラ、聞こえるか? 今、警備システムを無効化した……いや、慎重にっていったじゃないか!」
カイは無線で彼女に呼びかけるが、フローラからの応答は軽い笑い声だった。
「うふふ、ありがとう、カイ様。でも、いいアイデアを思い付いたの。だから、今は取り合ってる暇はありませんわ!」
「ちょ、ちょっと待て! おい、フローラ!」
彼女の声が無線から途切れると、カイは頭を抱えた。
フローラの“いいアイデア”というのがどれほど危険か、彼はよく知っている。
息をつき、疲れたように肩を落とす。
どうしていつもこうなるのか、全く頭が痛い。
「まったく」
カイがため息をついたその時、施設の奥から激しい爆発音が響き渡った。
揺れる施設の床、粉塵が舞い上がる音がヘルメット越しに伝わってくる。
フローラの言う、"いいアイデア"というのがロクでもないことは確かだ。
カイは一瞬天を仰ぎながらも、その音が鳴る方へと足早に移動するのだった。
◇◇◇
フローラが基地内に潜入すると、すぐに照明が落とされる。
カイのバックアップだとすぐに分かり、彼の手際の良さに心の中で小さく感謝する。
暗闇に包まれた基地で、海賊たちは一時的に混乱に陥っている。
フローラにとっては、まさに好機だった。
バイザーの内部に映し出されるリアルタイムのデータが、彼女に周囲の状況を知らせている。
点滅する赤いマーカーは、海賊たちの位置を示し、彼女の目標である親玉は以前として中央制御室にいるようだった。
「さあ、時間との勝負ですわね」
フローラは静かに呟き、基地内を疾走する。
彼女の動きには迷いがなく、影の中をすり抜けるようにして目的地へと進んでいく。
そうして直ぐに、フローラは中央制御室の前にたどり着いた。
周囲に気配がないことを確認すると、すぐに準備に取り掛かる。
腰のポーチから固形爆弾を取り出し、壁面に円形に貼り付けていく。
手際よく全てを貼り終えると、今度は物陰に素早く身を隠した。
「さて、ショータイムですわ」
フローラは、ポーチから小さなスイッチを取り出し、ためらいなくボタンを押した。
その瞬間、轟音と共に爆発が起こり、中央制御室の壁に大穴が開く。
粉塵と煙が辺りに充満し、耳をつんざく音が基地内に響き渡る。
「オラァー! 消毒の時間ですわッー!」
フローラは意気揚々と爆煙の中へ飛び込んでいく。
彼女の動きは一切の迷いがなく、その姿はまるで踊るかのようだった。
内部では、驚きと混乱に包まれた海賊の親玉が彼女の視界に飛び込んでくる。
フローラは即座に体勢を整え、戦闘態勢に入った。
まずは親玉を狙い、海賊全体の動きを封じるのが目的だ。
「なッ!?」
一方の海賊の親玉はと言えば、突然の襲撃に頭を混乱させていた。
高らかな声とともに、煙の中から現れたのは正体不明の侵入者だった。
彼女は手にしたアサルトライフルを腰だめに掲げ、乱射を始めた。
銃弾が部屋中に飛び交い、計器やモニターが次々と破壊されていく。
タイドは一瞬で状況を把握し、身を翻して目の前にあった机へと身を隠した。
彼の眼鏡がずれ落ちる寸前、冷静な目が侵入者を捉えた。
金色に輝く長髪をたなびかせた彼女は、黒と白の軽装甲ボディアーマーをまとい、顔には不敵な笑みを浮かべていた。
その顔は工芸品のように均整の取れた顔付をしており、ほんの一瞬だがタイドは見惚れてしまった。
「だ、誰だよ君はーッ! 俺はブラック・タイドだぞ!」
しかしすぐさま気を取り戻してタイドは叫びながら、懐からパルスピストルを取り出し応戦した。
銃を握りしめた手だけ出し、侵入者に向かって乱射するも、狙いを定めていない為に掠りもしない。
「ええ、勿論存じ上げておりますわ。貴方たち随分と派手に動いたのではなくて? 手配書がばら撒かれていますわよ」
侵入者は嘲笑うように言い放ち、再びトリガーを引いた。
銃弾の嵐がタイドの隠れ場所を襲うが、驚くべきことに彼は冷静さを失わずに反撃のチャンスを待っていた。
タイドは歴戦の海賊、それも自ら組織を率いる長だ。
踏んだ鉄火場の数は百を超え、こうした事態であってもその冷静さが欠ける事はない。
部屋の警報が鳴り響き、騒ぎを聞きつけた海賊たちが次々と駆けつけてきた。
「お頭ァー! うお、なんだお前は!」
タイドは仲間たちが駆け付けたその瞬間を見逃さず、隠れていた場所から飛び出して今度は正確な射撃を行った。
パルスピストルの光線が侵入者の肩を掠めるも、彼女は一切怯むことなく反撃を繰り出してきた。
彼女の射撃は驚くほど正確で、次の瞬間、タイドの眉間を一発の銃弾が貫いた。
タイドの目が一瞬見開かれ、その場に崩れ落ちた。
海賊たちは一様に驚愕し、一瞬の静寂が訪れた。
「お頭? ……お頭アアァァーー!! おい、お前ら仇取るぞォォー!!」
しかし、その直後に怒りと混乱が部屋中に広がり、海賊たちは一斉に侵入者に向かって攻撃を開始した。
彼女は即座に近くにあった遮蔽物に身を隠し、腰に備え付けられていたグレネードを手に取った。
その冷静な動きは、彼女の戦闘経験の豊富さを物語っていた。
「プレゼントですわー」
そう笑みを浮かべて、彼女はグレネードを放り投げた。
金属製の球体は宙を描き、海賊たちの中心に落ちる。
「ぐ、グレネードだ! 隠れろ!!」
一人の海賊が叫んだが、既に手遅れだった。
爆発音とともに激しい閃光と衝撃波が部屋中に広がり、海賊たちは吹き飛ばされた。
金属片や瓦礫が飛び交い、部屋の中は混沌と化した。
そして煙と粉塵が立ち込め、視界はほとんど遮られる。
彼女はその隙に素早く動き出し、銃を構えながら周囲の状況を確認していく。
爆発で倒れた海賊たちを一瞥し、再び行動を開始する彼女の動きは迅速で正確だった。
残った海賊たちは混乱の中で応戦しようとしたが、彼女の圧倒的な戦闘技術に次々と倒されていった。
無駄のない動きで一人一人を確実に仕留め、最後の一人が倒れるまで冷酷に戦い続けた。
やがて、動くものは居なくなり、静寂が訪れる。
フローラは辺り一面に転がる海賊たちの死体を前にしても、眉一つ動かさずに警戒を続けていた。
そんな中、一人の男が大穴から声をかけてきた。
「お、終わった? もう海賊居ない?」
カイが恐る恐る遮蔽物の陰から顔を覗かせる。
「終わりましたわ、カイ様。みーんな、仲良くおネンネしておりますわ」
彼女は部屋の真ん中に立ち、冷ややかに微笑みながら答えた。
カイはその返事を聞いて安堵の息を吐きながら、彼女が開けた大穴から身を乗り出して部屋の中へと入って行った。
その姿は彼女の圧倒的な戦闘力に対していささか頼りなく見えた。
事実、カイの戦闘力はお世辞にも高いとは言えなかった。
とは言え多少の経験はあるため、真面な戦闘訓練を受けていない海賊相手であれば、一対一と言う状況でなら勝てる程度の実力は有している。
カイが当たりを見渡すと、そこら中に海賊たちの死体が転がっており、立ち込める血の匂いが鼻を刺激した。
「フローラさあ、終わった後に言うのもアレだけども。ゆっくり行こうって話をしてる最中だったじゃん。
なんで、突入しちゃったんだよ。それも、こんなド派手に壁を爆破してさあ」
「だって、そんな必要ないんですもの。こういう輩は頭を先に潰せば、物の数ではありませんわ。
それにカイ様をお守りする意味でも、一気に親玉を強襲。騒ぎを聞きつけた残りの海賊も併せてそこで撃滅する。これが一番安全なんですもの」
フローラは肩をすくめ、冷静な表情を崩さずに答えた。
「カイ様、基地を制圧するためには、目立つ行動も時には必要ですわ。海賊たちを一気に制圧する方が早いですし、心理的にも効果的ですのよ。
見てくださいな、海賊たちは一度に処理できましたし、基地の内部はこれでほぼ掌握できましたわ」
フローラの言わんとすることは、カイにも十分理解できた。
初手でインパクトを与え、イニシアティブを握るのは戦術として正しい。
しかし、だからと言って何の相談も無しに突然実行するのはチームとして迷惑甚だしいのも事実だ。
ただ、そんなことを今更フローラに説いたところで、無駄だと言う事もカイは理解していた。
カイは往々にしてフローラのこうした暴走に付き合わされていた。
「いや、それはそうだけどさあ。痛てて……お前が突っ込んでいくから、こっちは慌てて転んじゃったよ」
「あらあらカイ様、自分の足に引っ掛かって転んでしまうとは情けない」
カイは不満げに顔をしかめたが、フローラの言葉に反論する余地はなかった。
彼は慎重に行動するタイプであり、フローラの大胆さにはついていけないことが多かった。
しかし、フローラの能力は時として成功に導く重要な要素であることも理解していた。
「放っとけ! ま、これで基地は制圧できた。あとは足の付かない金目の物を見つけて帰るぞ」
「そうですわね。本当なら溜め込んだ貴金属を持ち帰りたい所ですけれども、これは盗品になりますものね」
「そうだ。だから、持って帰っていいのは海賊が初めから身に着けていたアーマー類と小銃だな」
フローラはうなずき、カイに従うようにその辺に転がる海賊たちの遺体から武器や損傷の少ない装備品を剝ぎ取っていった。
それ以外は全く手を付けることはしない。それは勿論、スキャン時に把握していた捕虜となった人々の救出もしない。
彼らには申し訳ないが、どのような境遇でそこに居るのか。
海賊たちからどのような仕打ちを受け、精神と健康状態が不明瞭な者達をカイが持つ白鯨号に招き入れる事など到底出来なかった。
とはいえ、基地制圧の連絡はすでに報告を入れている事から、あと30分程でセキュリティチームが派遣されることだろう。
逆にいえば、そのうちに基地内にある"持って帰っても良い物"を急ぎ持ち運ぶ必要があるという事だった。
「急げ急げ! すぐにチームが来るぞー」
「もう、なんで先に報告しちゃったんですの!」
「こういうのは早い方が報奨金が上がるんだ! 急げー!」
こうしてカイとフローラは忙しなく基地の中を動き回るハメになった。
無駄なく効率的に動くフローラに対し、カイは内心ため息をつきつつ、次の作業を進める。
彼らの日常は、いつもこんな風に慌ただしく刺激的だった。
そしてこれからも、それは変わらないだろう。
基地の残骸を背に、二人は次の仕事に向けて歩き出した。
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