イケメンと僕の大きな違い!

崔 梨遙(再)

1話完結:2400字

 僕が研修会社で講師を週に2回やっていた頃の話。30代の後半。



僕は、若手向けの『新人研修もどき』のクラスのみんなを卒業させて、違うクラスを受け持つことになった。主に20代後半から30代後半まで、女性を10人ほど集めた『就職支援研修もどき』のクラスだった。


 僕は、ビジネスモードに入ると、女性を意識しなくなる。キレイな女性もかわいい女性もいたが、女性として見ていなかった。見れなかった。僕は、講義中は静かな講師として振る舞おうと必死だったが、さすが、人妻やバツイチのいる年齢層の受講生達、僕は休憩時間に彼女達からいじられた。嫌味の無いいじり方だったので気にしなかった。


 研修期間中、1人の女性、秋子(30代、バツイチの子持ち)の就職が決まって、秋子は一足早く研修を卒業した。だが、ここで噂を耳にした。僕と同じく講師をやっていた浜口先輩と秋子が付き合っていて、就職先も浜口さんが紹介したというのだ。ちなみに浜口先輩は妻子持ち。だが、奥さんとの生活は冷め切っているという。秋子はスレンダーな美人。ファッションセンスも良かった。品があって、“良いところの奥様”という感じ。火の無いところに煙はたたない。女性陣は何か情報を掴んでいるようだった。多分、噂は本当のことだったのだろう。僕は、正直、浜口先輩が羨ましかった。あんな素敵な女性と付き合えるとは。



 やがて研修期間が終わり、みんな卒業。その間に、もう1人就職が決まって去っていた。他に2人、研修卒業後の就職が決まっていた。研修が少しは役に立ったのだろうか? だが、僕は“もう、このメンバーに会うことも無いだろう”と思っていた。



 ところが、メンバーの中の20代後半の女性、華子から連絡があった。


「相談したいことがある」


と言われた。研修は卒業しているので、そんなアフターフォローをする義務は無いのだが、僕は会うことにした。華子には旦那様と子供がいるはずだ。何の相談なのだろう? 僕で役に立てるなら、と思ってしまった。それが運の尽きだった。ちなみに、華子は小太りでブサイク(僕から見ると)だった。



 土曜の昼に会った。一緒に食事をした。フレンチのランチを食べた。まずは、共通の話題として研修の話、研修のメンバーの話でそこそこ盛り上がった。メンバーの、僕の知らなかった一面を知ることが出来た。そういう話は意外と楽しかった。僕は、華子の友人の美穂のことが気に入っていた。美穂は華子と同い年、20代の後半、バツイチの子持ちだった。美穂は華子の親友なので、実は僕は華子に美穂の連絡先を聞きたいと思っていた。


「で、相談って何?」


 コーヒータイム、僕の方から本題に入った。


「実は、旦那との夜の営みが無いんですよ-!」


“なんやねん、そんなことかーい!”


「いつから無いの?」

「もう半年も無いんです」

「ふーん、そうなんや。けど、それは僕では解決出来へんで。なんとかして、旦那様と仲良くしたら?」

「喧嘩してるわけじゃないし、仲は悪くないんですけど、営みが無いんですよ」

「そう言われてもなぁ、夫婦のことやから第3者にはどうすることも出来へんで」

「でも、崔さんが抱いてくれたら解決する問題ですよ」

「なんで? なんでそうなるの?」

「私にも性欲があるんです。崔さんが抱いてくれたらスッキリしますよ、きっと」

「いやいや、僕、恋人のいない時は遊びまくるけど、人妻は抱かないようにしてるねん。不倫はアカン。それは僕が守り通してきたことや。旦那様は? 別に浮気はしてないんやろ?」

「旦那は……確かに浮気の証拠があるわけではないです」

「ほな、尚更、華子さんには手を出されへんわ」

「1回だけでいいんですけど」

「いやいや、アカン、アカン、僕は人妻には手を出さないから」

「じゃあ、私はどうしたらいいんですか?」

「気分転換しよう、別に、抱かなくてもええやん。気分転換が出来たらええやろ?」

「どこに行くんですか?」

「どこに行きたい? カラオケ? ビリヤード? ボーリング? ダーツ?」

「じゃあ、カラオケで」



 僕達はカラオケ店に入った。華子は熱唱していたが、歌はあまり上手くなかった。僕は、歌が下手な女性を初めて見た。“女性は歌が上手い”と思い込んでいたし、実際、僕が付き合ってきた女性達はみんな歌が上手かった。



「さあ、カラオケで2時間熱唱したし、そろそろ解散しよか?」

「私、まだ帰りたくないです」

「そうか、どうしよう……あ! 勝負下着を買おう。勝負下着で旦那に迫ってみたらええねん。どう? 良い考えやろ?」

「私、お金が無いです」

「わかった、今回は僕が買うわ。ディスカウントショップに行こう、そこならあるやろ。なるべくセクシーなやつを選んだらええんとちゃうか?」



「崔さん、どれがいいですか?」

「旦那様の好みがわからへんからなぁ、旦那様の好みっぽいのを選んでくれ」

「じゃあ、これにします」

「ほな、レジに行こう。僕が買うから」



「勝負下着で頑張ってください」

「頑張ってみます。食事もご馳走になって、勝負下着も買ってもらって、すみません。何かお礼をしたいところなんですけど」

「マジ? ほな、美穂ちゃんの電話番号を教えてほしいんやけど」

「えー! 私が崔さんのことを好きだと知ってて美穂の電話番号を聞くんですか?」

「今日のお礼ということで、頼むわ。教えて!」

「嫌です。美穂に崔さんを盗られたくないです」

「盗られるって……僕は華子さんのものやないんやから」

「とにかく、嫌です」



 美穂の電話番号は教えてもらえなかった。結局、華子と無意味なデートをしただけだった。もう美穂と会うことは出来ない。浜口先輩は秋子という美人と付き合えたのに、僕は華子なのか? 不公平だ! 納得がいかない。



 それで終わりかと思ったのだけれど、


「崔さん、勝負下着、全く効果が無かったんですけどー!」



華子から、しばらくの間、頻繁に電話かかってきて、頻繁にメールが届いた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イケメンと僕の大きな違い! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画