【短編小説】やっぱり彼女が好き
遠藤良二
やっぱり彼女が好き
僕はある人物に久しぶりに再会した。僕は舞い上がり、嬉しい気分になった。彼女の名前は
前に友人の
第一声は、僕からだった。
「よう! 愛ちゃん。元気?」
街でばったり会った愛ちゃんと呼んでいるその女性の氏名は
「元気ですよ! 佐賀さんも元気そうで」
「うん、元気だよ」
「でも、私、去年虫垂炎で入院したんですよ。手術もしました」
「あ、そうだったんだ。大変だったね」
「はい、めっちゃ痛かったです」
「だよね~。でも、無事手術を終えてよかったね」
「はい!」
相変わらず笑顔が眩しい。可愛いし。でも、断られるかもしれないと思うと告白は簡単に出来ない。本心は交際したい。でも……。
友人の相田に相談してみよう。まずはLINEを送るか。
<オッス! ちょっと相談したいことがあるんだけど、これから会えるか?>
LINEは少し経ってからきた。因みに今は午後八時過ぎ。
<ああ、俺はいいぞ。明日休みだし>
<僕は明日仕事だけれど、小さなチラシだから大丈夫。僕が行くか? それとも来るか?>
僕も相田も一人暮らし。僕は転勤族だから一人暮らしは普通だ。
<来てくれ。これから出かけるのは面倒だ>
その文章を読んで思わず噴き出してしまった。確かにそうかもしれない。
<じゃあ、今から用意するから少し待っててくれ>
<了解!>
僕はさっきシャワーを浴びたのでそれはいいとして、今は夏だから暑い。だから青いTシャツとベージュのハーフパンツを履いて、小さなバックに財布と鍵、煙草、スマホを入れて、少し香水を吹き掛け、部屋を後にした。外に出て黒いセダンに乗り発車した。
彼のアパートは住宅街にある。十分くらい走って相田のアパートに着いた。駐車スペースはアパートの目の前に一台停められて、既に彼の車が停まっている。青い軽自動車だ。なので、少し離れたところにある公営の駐車場に停めた。ここは誰が停めてもいいらしい。
二、三分歩いて相田の部屋は二階にある。二〇一号室。チャイムを鳴らした。中から「はいよー」と聞えてきた。「俺だけど」と言ったら、鍵を開けてくれた。彼は、男の割には用心深い。
「上がれよ」
と相田が言った。
「ああ」
僕が返事をした。
「何も飲み物買って来なかった。忘れてた」
「ジュースならあるぞ」
「そうか、よかった」
相田は座布団をこちらに寄越した。部屋の中はまあまあ片付いている。勤務時間が相田の方が短いから整理整頓できる時間があるのかもしれない。木製の一人用のテーブルの前に座布団を敷いて座った。彼は冷蔵庫からオレンジの缶ジュースを二缶取った。
「ほら、飲めよ」
と言い、一缶投げて寄越した。それをキャッチし、「いただくぞ」と言ってから栓を開けて一口飲んだ。
「ところで相談ってなんだよ」
「いやあ、じつはな……。僕、半年前くらいから片想いしてるんだ」
「え、半年? 長いな。俺の知ってる女か?」
「ああ、知ってる」
相田はニヤニヤしながら言っている。
「愛ちゃんだ」
そう言うと、意外だと言わんばかりな顔をした。
「マジか!」
「ああ、大マジだ」
彼は俯いた。
どうしたのだろう。
「三角関係だ……」
相田はそう言った。
「え! そうなのか!? でも、それってもう一人、愛ちゃんのことが好きな奴がいるってことだよな?」
彼は気まずそうにしている。うん? どうしたんだ。相田は急に黙った。
そして、「いや、なんでもない」と彼は言った。
「何だ、言いたいことがあるなら言えよ」
「ん……。いや、いいや」
*
俺は相田啓介。友人の佐賀泰司と同じ女を好きになって三角関係になってしまった。でも、そのことは彼は知らない。俺が暴露して友人関係が壊れるのは避けたい。どうしたらいいんだ。俺は愛ちゃんと交際したい。でも、そうなると佐賀との関係はきっと駄目になるだろう。佐賀は親友だから失いたくない。俺が黙っていればいいのかな。別な女を探すかな。でも、我慢出来るだろうか? 我慢出来なくなったら二人に言うしかない。だから、とりあえずは黙っていよう。うん、そう決めた。
*
「何か考えごとでもしてるのか? 心ここにあらずって感じだけど」
僕がそう言うと、
「いやあ、別に何も考えてないぞ」
「そうなのか」
相田はそう言うのでそうなのだろう。
「片想いか……」
相田は呟いた。
「告白したいんだけど、フラれるのが怖くて伝えてない」
「まあ、その気持ちはわかる」
彼は僕の顔をマジマジと見てこう言った。
「相当悩んでるんだな、顔色が悪いぞ。大丈夫か」
「ああ、大丈夫だ。でも、辛い……」
「そんなに辛いなら告白したらどうだ? フラれるかもしれないけど、そこは割り切って言った方がスッキリするかもしれないぞ」
「ずいぶん簡単に言うんだな」
「簡単じゃないよ。俺が考え抜いて出した答えだ」
「……うん、そうか……でも、告白するのはまだ早い。もっと交流を深めてからだ」
「何だ、佐賀、自分で答え出せるじゃねーか」
「いやいや、ここまで考えついたのは相田に相談したからだ。ありがとな」
「いや、いいんだけど。仲間じゃないか」
僕はそう言われて嬉しくなった。仲間、か……。確かにそうだな。それに二十年以上の付き合いだし。
僕は相田のアドバイスを受け、自分なりに答えを出した。もっと愛ちゃん
と遊ばないと。相思相愛になるために。愛ちゃんにLINEして遊ぶ約束をしよう。LINEは前に交換した。
<こんばんは! 久しぶりに愛ちゃんにLINEするね。今度、食事に行かない?>
今の時刻は十九時三十分頃。今日は仕事の日だろうか。愛ちゃんは携帯電話のショップで働いているはず。暫く連絡とってなかったからどういう状態かわからない。もっと密に連絡をとればよかった。でも、頻繁に連絡したらしつこいと思われるだろうし、飽きてしまうかもしれない。だからあえて、連絡しなかった。久しぶりの方が新鮮味を増すかなという考え。
二十時頃LINEはきた。
<こんばんは。ホント久しぶりね! 食事? いいけど何食べるの?>
僕はすぐにLINEを送った。
<中華がいいな、僕は。愛ちゃんは?>
そこで相田が話しかけてきた。
「おい、LINEしてるのか?」
「ああ、そうだ」
「もしかして、愛ちゃんとしてるのか?」
「そうだよ」
相田はそれ以上何も言わなかった。
そこに愛ちゃんからLINEがきた。
<私は焼肉がいいな。最近行ってないし>
<そっか、じゃあ焼肉にしよう。中華は今度にするか>
<優しいね、佐賀さんは>
<いやいや、それほどでも>
だんだん楽しくなってきた。でも、相田を放置していた。
「相田、すまん。つい夢中になってしまって」
「LINEするなら自分の部屋でしてくれ」
と言われた。怒ってるのか、悪いことをした。そう思ったのでもう一度謝った。
「すまない。帰ってからLINEするわ」
「そうしてくれ」
それから一時間程喋り、
「僕そろそろ帰るわ」
といい、立ち上がった。
「ああ、愛ちゃんと上手くやれよ」
「ありがとう! 頑張るわ。相田も誰かいい人見付けろよ」
そう言うと彼はムッとして、
「余計なお世話だ!」
と笑みも浮かべずに真剣な顔をして言った。
「ああ、そうか。すまん。じゃあ」
相田は玄関までは付いてきてくれたが僕の一言で機嫌が悪くなってしまった。なので、もう一度謝った。
「余計なこと言って悪かったな」
「いいよ、別に」
と言ったが目線はこちらを向いていない。
そんなに怒ることかな、と思ったがそれは言わなかった。油に水を注ぐような気がして。
帰宅してからすぐにLINEを開いた。愛ちゃんから一通きていた。本文は、
<いつ行くの? 私は夜ならいつでもいいよ午後七時まで仕事だからさ。佐賀さんは今でもスーパーマーケットで働いているの?>
このLINEから四十分くらい経ってから返すことになった。
<遅くなってごめん。友達のアパートにいたんだ。僕は午前九時から午後六時までさ。変わらずスーパーで働いてるよ。だから、それから支度するから愛ちゃんに合わせられるよ>
<そうなんだ。じゃあ、明日は?>
<うん、いいよ。僕が迎えに行く?>
少し間があってからきた。
<待ち合わせにしよう?>
警戒しているのかな。アパートがバレるのを恐れて。
<いや、それなら僕が住んでるアパートに来てよ。役所の裏にいるから着いたLINEちょうだい>
<わかった>
信用されてないのかな。ちょっとショック。暫く会ってないからかな。
翌日、僕は定時に退勤できた。帰ってからまずシャワーを浴びて赤いTシャツに黒いハーフパンツ姿になった。愛ちゃんはきっと仕事中だろう。一応、LINEしておこう。
<僕は用意出来たから愛ちゃんも役所の裏に来たらLINEちょうだい?」
仕事中なはずだからLINEはもちろんこない。と思っているとLINEがきた。相手は愛ちゃんだった。あれ? どうしたんだろう。開いてみた。
<佐賀さん、ごめんなさい。今日行けない。体調悪くて仕事も早退したくらいなの。ほんとごめんね。ドタキャンで>
何だよ、楽しみにしてたのに。まあ、でも体調悪いなら仕方ないか。
<風邪でもひいた? 気にしないでゆっくり休んでね。また今度ね>
<ありがとう。治ったら連絡します>
畜生! 暇になった。そう思っていると、またLINEがきた。開いてみると職場の後輩から。名前は
LINEをくれるなんて珍しい。どうしたというのだろう。本文は、
<こんばんは! 初めてLINE送りますね。明日は仕事ですか? 仕事だったら終わったら遊びませんか? 因みにあたしは明日休みです>
何が目的だろう。つい疑ってしまう。普段、交流がないから尚更かもしれない。
<LINEくれるなんて珍しいな。明日か? 仕事だよ。仕事終わってからでいいなら遊ぶか>
LINEはすぐにきた。
<ほんとですか!? 嬉しいです! じゃあ、仕事終わったらLINE下さい>
<わかったよ>
何して遊ぼう。夕ご飯をまず食べよう。その後は、お酒でも呑みに居酒屋に行くかな。訊いてみないとどうなるかわからないけれど。
翌日の朝、愛ちゃんからLINEがきた。
<昨日はすみません。何とか回復しました。今日はどうですか?>
時刻は午前八時過ぎ。寝坊だ。九時までに出勤しないといけない。ささっと用意をし、愛ちゃんにLINEを送った。
<ごめん、今日は用事があるのさ>
<そうですか、残念です。また今度連絡下さい>
<わかった>
LINEのやり取りを早々に済ませ、朝ご飯も食べずにシャワーを浴びて歯磨きだけして、いつもの小さなバッグにスマホ、煙草、財布を入れて、鍵はすぐ使うので手に持ったままだ。玄関の戸を開けて外に出て施錠した。黒いセダンに慌てて乗りバックで急発進した。後ろを見ながらバックしたので小学生が歩いているのを慌てて停車した。危なかった。危うく弾くところだった。急がば回れ、とはこのことだ。交通事故なんか起こしたら仕事は解雇になると思うし、刑務所に入らなけばならない。そんなの嫌だ。自由のない世界。今回のことを教訓にして気を付けよう。
職場には八時五十五分に着いた。タイムカードを押さないと出勤扱いにならない。急いで社内まで走りタイムカードを押した。ふう、何とか間に合った。
香織さんは、店内の事務所で経理の仕事をしている。僕は、店内で発注したり、廃棄の商品を処理したり、値段の変更、ポップの付け替え、とか様々。日配という部門。扱っている商品は、乳製品、パン、冷凍食品、アイス、漬物など。
僕は日配の部門内で朝礼を行った。僕は一応、主任なので率先してやらなければならない。
「今日は売り出しの日です。それぞれ値段をチェックしミスのないようにお願いします」
部下は四人いる。パートのおばちゃん三人と若い女性のパートさんが一人。それぞれ配置は決まっている。
僕は転勤はあるが、事務に配属された従業員は転勤はない。転勤はあるが正社員だからボーナスも出るし、昇給もある。でも、パートさんは転勤はないがボーナスは出ない。昇給はある、微々たるものだけど。まあ、転勤と言っても北海道内だけど。
今日は香織さんと遊ぶ。食事をして、お酒を呑みに行く。でも、これはまだ彼女に話していない。話すタイミングがない。職場の人たちにはバレたくないし。だから、僕の仕事が終わってLINEした時に訊いてみる。
時刻は十八時十五分くらい。十五分残業した。さて、帰るか。
僕のアパートに着いて香織さんにLINEを送った。
<今、帰ってきた。今夜、食事してお酒呑まない?>
少ししてから彼女からのLINEがきた。
<お疲れ様です。はい、いいですよ。帰りはタクシー代行ですか?>
僕はすぐにLINEをした。
<そうだね、お酒呑むから。酒気帯び運転で捕まったら最悪だから。免許
取り消しになるんじゃないかな>
<そうですね、怖い>
<ていうか、免許取り消しになったら会社もクビになるかもね>
<かもしれないですね。配達行けなくなるし>
<じゃあ、そろそろ僕のアパートに来てくれる?>
<わかりました。どの辺ですか?>
<川沿いのアパートに住んでるから、着いたらLINEちょうだい?>
<川沿いのアパート。ああ、あそこにいるんですね>
<うん、じゃあ、待ってる>
二十分くらいしてLINEがきた。
<つきましたよ~>
<今、行く>
<はーい>
香織さんは見た目はぽっちゃりしているが、性格がいい。気は利くし優しいし。でも、僕が好きなのは愛ちゃん。それなら香織さんと何で遊ぶんだ? と訊かれたら香織さんと約束していたし、愛ちゃんとは約束していなかったから。一応、筋を通さないと。香織さんに嘘をついて断ってそれがバレたら最悪だ。しかも、同じ職場だし。もし、そうなったら気まずくて会社にいられない。
僕は辺りを見渡した。うーん、とどこにいるんだ? あ、いた! 見えなかったのはアパートの陰に香織さんがいたからだ。僕は「香織さーん」と呼んだ。彼女は声のする方に向いた。僕は手を振った。彼女は僕に気付き、手を振ってくれた。「あ! 佐賀さーん」と笑みを浮かべながら。この子は僕を見ると笑みを浮かべる。他の男にもそうなのかな? 前々から思っていたけど、香織さんは僕に気があるのかもしれないと思った。でも、僕が好きなのは……田上愛ちゃんだ。でも、香織さんも悪くない。明るいし、気持ちがわかりやすい。彼女は多分、僕のことを……。
二人の女性、愛ちゃんと香織さん両方に気持ちがあるのは知らないはず。言ってないから。どちらかといえば愛ちゃんの方が思いは強い。あれから愛ちゃんからLINEはこないけど僕からの連絡を待っているのだろうか。そうだとしたらLINEしないと。家に帰ったら愛ちゃんにLINEしよう。今は香織さんと一緒にいるから控えよう。
彼女は走ってこちらに向かって来た。転ばなきゃいいけど、と思ったが意外に走るスピードが速い。一目散にやって来た。
「香織さん、走るの速いね!」
「そうですか~? ありがとうございます」
「何、食べますか? ハンバーグ食べたいな、僕。香織さんは?」
彼女は考えているようだ。
「そうですね。ハンバーグにしますか」
何か微妙な反応だなあ。なので、
「別なものにする?」
気を遣ったつもりが余計だったようだ。
「え? どうしてですか? あたしハンバーグ好きですよ」
勘違いしたようだ。
「あ、そうなんだ。ごめんね」
「いや、そんな謝らくていいですよ」
「はははっ」
僕は笑ってしまった。
「じゃあ、行きますか。ハンバーグショップに」
「そうだね」
「僕は四百グラムのハンバーグ食べるよ」
「大きいですね! さすが男子!」
喋りながら歩き、香織さんの車と思われるそれに近付いた。
「この赤い軽自動車があたしの車です」
「へえ、可愛い車だね」
「ありがとうございます。どうしても欲しくて新車で買っちゃいました」
「新車! すげえ! 最近は普通車より軽自動車の方が高いしょ?」
そう言うと香織さんの表情は曇った。
「そうなんですよねえ。だから、支払いのために働いています。服を買う余裕もないんですよ」
服くらい買ってあげるよ、と言おうと思ったが、勢いに任せて言うのをやめた。これは言えないが香織さんに服を買ってあげるなら愛ちゃんに買ってあげる。どちらの女性も好きだけど、やはり、どちらかに決めないといけない。
少し走って、目的地に到着した。
「今回は僕が誘ったから僕が払うよ」
驚いた顔して香織さんは言った。
「いや、食べるのは一緒じゃないすか。あたしも払いますよ」
「そうかぁ、まあ、その方が僕も助かるけどさ」
「それに、今後も交流があるのであれば尚更払わないといけませんよ」
確かに、と思ったが言わなかった。黙っている方がいいかもしれない。
空は曇っていて星が見えない。明日は天気が悪いのかな。
車から降り、店内に入った。
「ここの店はたまに来るわ」
「そうなの? あたしは初めてです。お店があるのは知っていたけれど」
「そうなんだ。美味しいよ。ちょっと値が張るからそんなに来てないだけで」
「そうなんですねー」
「いらっしゃいませー!」
とウェイトレスが叫んだ。
相変わらず綺麗にしているなぁ、この店は。
ウェイトレスが近づいてきて、
「二名様ですか?」
「はい」
と僕は返事をした。
「お煙草は吸いますか?」
「いえ、吸いません」
本当は吸うが香織さんが煙草が嫌いかもしれないと思い嘘をついた。
「では、こちらへどうぞ」
ウェイトレスは笑顔で僕らを促した。
窓際に案内された。テーブルの上にメニュー表を二枚、ラミネートされたものを置いて行った。ウェイトレスは、
「お決まりになりましたら、そちらの赤いボタンを押して下さい」
「はい」
僕はメニュー表を香織さんの方に向けた。
「ありがとうございます。優しいですよね」
「そうかい?」
僕は笑みを浮かべた。香織さんはワクワクしているように見える。
「何にしようかなー」
言いながら見ている。僕も反対側から見ている。
「牛ステーキとサラダバーにします」
「美味しそうだね」
「はい、そう思って選びました」
メニュー表を僕の方に向けてくれたので見てみた。じっくりと時間をかけて見た。
「よし、ハンバーグにしよう! それと僕もサラダバーにする。あ、あとはドリンクバーも」
決まったので赤いボタンを押した。ピンポーンと店内に響き渡る。
「はーい! 今、行きまーす」
多分先ほどのウェイトレスかな? すぐに来た。今はお客さんは空いている。
「ご注文をどうぞ」
というので、決めたメニューを伝えた。ウェイトレスは伝票に書き、それを置いて行った。僕は得意気になって言った。
「ここの店はね、凄く美味しいんだ」
彼女は感心したように
「へえ、来たことあるんだ?」
と言った。
「うん、友達と何回かね。でも、家族とは来たことはないんだ」
香織さんは不思議そうな顔をして、
「そうなんだ。それはどうして?」
僕は自然と残念そうな表情をしていたらしく、佐賀さん、何だか可哀想、と言ってくれた。
「高いから行きたくない」
母はそう言って敬遠していた。僕の家は決して裕福とは言えない。サラ金から借金をして破産もしている貧乏人だ。
「この話は誰にも言っちゃ駄目だよ!」
と強い口調で言われた。でも、今、目の前にいる女性に話してしまった。このことは黙っていよう。香織さんは僕の母のことを知らないし、僕が言わなければ誰も知らない話し。とその時、ロボットが注文したメニューも運んで来てくれた。彼女は、
「へえ~、珍しい。でも、何だか可愛いね」
僕は、
「AIってやつだね」
言うと、
「時代は進化してるのね」
また感心していた。
AIは喋った。
「イラッシャイマセ。ショウヒンヲオトリクダサイ」
そう言った。僕と香織さんはそれぞれ取ってテーブルの上に置いた。僕は、
「ありがとう」
お礼を言った。香織さんも、
「ありがとね」
同様にお礼を言った。
立ち去る時言った。
「アリガトウゴザイマシタ」
僕は思わず笑ってしまった。香織さんは、
「確かに可愛いね」
「さあ、食べようか」
「はい!」
一口食べてみて香織さんは、
「うん! 美味しいですね!」
と言った。
「だろ? ここを選んでよかった」
それだけ言って僕らは夢中になって食べた。
「はあ、美味しかった!」
彼女は食べ終わった。そう言ってもらえてよかった。選んだ甲斐がある。僕は香織さんを見て食べながら笑みを見せた。少しして僕も食べ終わった。
「ふーっ、美味かった」
僕らは話しと食べるのに夢中でサラダバーのサラダを食べるのを忘れていた。僕がそう言うと。
「そういえばそうですね」
と言いながら笑った。
「今からでも遅くないから食べよう」
「あたしはもういいです。お腹いっぱい」
「そうなんだ。まあ、無理しない方がいいね」
僕はお皿いっぱいに生野菜を載せてドレッシングをかけた。
サラダもすぐに完食。香織さんは言った。
「たくさん食べる人っていいですよね!」
「僕のことを言ってるの?」
彼女は赤面しながら、
「はい」
一言だけ言った。
「もしかして遠回しに告白してる?」
「はい」
照れているせいか、はい、しか言わない。余程恥ずかしいのだろう。でも、
「うーん、気持ちは嬉しいけど僕、片想いの女性がいるんだ」
「そうだったんですね。てっきりあたしに気があるから食事を一緒に行ってくれたのかな、と思いました。でも、同じ職場だしこれからも変わらずお願いします」
香織さんはショックを受けているのか俯いている。
「もちろんだよ。こちらこそよろしくね」
彼女は目を赤くしている。泣いているのかな。
「帰りますか。フラれたことだし。長くいても意味がないですし」
僕は、意味がない、という言葉に引っ掛かったが黙っていた。
やはり僕は愛ちゃんを選んだ。彼女とも付き合っているわけではないが、やはり愛ちゃんが好き。彼女の仕事はシフト制。だから毎週何曜日に休みかというのは決まっていない。僕も然り。愛ちゃんは午後七時まで仕事。僕は残業がなければ午後六時まで仕事。前もって予定を立てれば多分会ってくれると思う。現に相手からも誘われたし。でも、香織さんと先に約束していたから断ってしまったけれど。明日にでも愛ちゃんにお誘いのLINEを送ろう。何をしよう? 食事とカラオケに行こうかな。明日は仕事。早めに寝よう。
香織さんにアパートまで送ってもらった。僕はあえて後部座席に座った。振ってしまった女性だから助手席には乗りにくい。職場でも気まずいのだろうか。まさか、告白されるとは思わなかったから想定外のことだ。だから驚いた。でも、自分に嘘をつかずに本当のことを言えた。これも前進した証だ。十分くらい走って僕のアパートに着いた。一応、礼儀として、
「今日はありがとう。それとこれからもよろしくね」
「どういたしまして。こちらこそよろしくお願いします」
そう言ってたのに、一週間後、香織さんは退職した。営業部長の話しだと、僕のことは言ってなかったが、「体調不良で入院するから退職します」と言っていた。どこか悪かったのか?
「どこに入院したんすか?」
「それは聞いてないぞ。辞めていく人間に訊く必要はないだろ」
まあ、確かに。
心配ではあるが多分、大丈夫だろう。
僕は愛ちゃんにLINEをした。
<こんばんは! 愛ちゃん。今度遊ぼう? この前は断ってごめんね、約束が
あったから>
午後十一時過ぎに愛ちゃんからLINEがきた。
<起きてるかな。こんな時間にごめんね。うん、いいよ。遊ぼう。何する?>
僕はすぐにLINEを送った。既に眠かったけれど大丈夫。
<まず食事しよう?>
僕はラーメンが食べたい。そう伝えると、
<うん、ラーメンにしよう。暑いけどね。>
続けてLINEをすぐに送信した。
<暑い時に、熱いものを食べるのがいいのさ。汗かくかもしれないけどね。着替えを持ってくるといいよ。僕は持って行くよ>
<なるほどね、わかった>
<迎えに行くよ。何時頃ならいいかな?>
ここから暫くLINEがこなかった。
約一時間後。ようやくLINEがきた。どうしたというのだろう。
<明日は仕事だから八時半頃がいいな>
<わかった。じゃあ、その頃迎えに行くね>
<ありがとう>
これでとりあえずLINEでのやり取りは終わった。明日が楽しみ。
翌日。僕は残業になった。パートさんが残した仕事をしなればならなくなった。四十代の女性のパートさんがいるのだが、父親が救急車で運ばれて帰らなくてはならなくなったらしい。こればかりは仕方がない。廃棄処理と発注の仕事が残っている。
結局、仕事が終わったのは八時頃になった。帰宅した頃には八時十五分になっていた。今から支度したんじゃ約束の八時半には間に合わない。だから、送れるというLINEを送らなければならない。すぐに送った。
<愛ちゃん、ごめん。残業で今帰って来た。約束の時間には間に合わない。だから九時頃でもいい?>
愛ちゃんからは暫くLINEがこない。支度しているのかな。そうだとしたら待たせることになる。申しわけない。
そして、LINEがきた。
<九時かぁ、遅いね。お腹も空いたし。夕食は私先に食べちゃうよ。その代わり、九時からカラオケはどう?>
夕ご飯一緒に食べれないかぁ。残念。残業さえなければ約束の時間に行けたのに。でも、仕方ない。なかなかスムーズにいかないなぁ。まるで神様が僕らを会わせないようにしているかのようだ。
<ほんとは食事も一緒に食べたいけれど時間的に難しいね。わかった、九時からカラオケにしよう>
<ごめんね>
<いや、大丈夫だよ。あ、でも僕もお腹空いたからインスタントラーメンでも食べてから行くよ>
<わかったよ>
まずはシャワーを浴びた。その後、インスタントラーメンを食べた。お腹空いてるせいもあってか旨い! そして、赤い半袖Tシャツにベージュのチノパンを履いた。それからドライヤーで髪を乾かした。髪の毛はサラサラ。香水を服とズボンにかけた。ホワイトムスクといういい香り。スマホや財布、鍵、煙草を持って部屋を出た。車に乗り、エンジンをかけた。車の中もいい香りがする。そして、発車した。少し運転して愛ちゃんのアパートに着いた。何で彼女のアパートの場所を知っているかと言うと、以前、ゲームで勝った人が負けた人を送りに行くという機会があってその時、愛ちゃんのアパートに送ることになった。その際、運転手と送ってもらう人の二人だけでは何かあっても困るのでもう一人乗ることになった。
もう一人は男性だった。ちっ! せっかくあいちゃんと二人きりになれると思ったのに……。まあ、仕方ない。その時に愛ちゃんのアパートの場所を知った。
部屋まではどこか知らないので、とりあえずアパートの道路沿いに車を停車させて電話をした。電話はすぐに繋がった。
「愛ちゃーん、着いたよー」
「あ、わざわざ来てくれてありがとう。今行くね!」
「うん」
電話を切り、彼女が来るのを待った。
部屋から出て来た愛ちゃんは夏だからか露出度が高い服装。肩が見えている水色の服とブルーのミニスカート姿で現れた。僕は思わず唾を飲んだ。格好のせいもあると思うが心臓の鼓動が高鳴るのがわかった。
僕の車まで来た時、助手席のドアを開け、
「後ろの方がいい?」
と訊かれたので、
「いや、助手席の方がいい」
愛ちゃんは笑いながら僕の横の席に乗った。
「愛ちゃん、ずいぶんセクシーな服装だね!」
「そう? 夏はいつもこんな感じの服装よ」
「そうなんだ。びっくりしたよ。スタイルもいいし」
「ありがと。じゃあ、カラオケに行こう!」
彼女は歌う気満々のようだ。
愛ちゃんとカラオケ行くのは初めてだけど歌が上手い。僕など足元にも及ばない。二時間歌って楽しかった。僕も愛ちゃんもテンションが上がっている。なので告白することにした。
「愛ちゃん、あの……僕は君のことが好きだ。付き合ってくれないか?」
彼女は黙ってしまい戸惑っているようだ。
「ごめん……私、佐賀さんをそういう目で見れない……」
でも僕は食い下がった。
「試しに付き合ってみようよ」
「それでもその気にならなかったら悪いじゃない」
僕は声を出して笑った。
「その時はその時さ」
「そう? じゃあ、お試しで付き合おうか」
「ありがとう!」
一ヶ月後。せっかく付き合ったものの、愛ちゃんはその気にならないらしい。
「そっか、わかったよ。これ以上しつこくは言わないよ」
僕は思った。一時の幸せでも感じられてよかった。新しく好きな人が見つかるまで愛ちゃんと遊んでいよう。きっと新たに好きな人が出来るはず。僕はすぐ好きになるから。
「ごめんね、期待に沿えなくて」
「いや、いいのさ。また別の人を見付けるよ。愛ちゃんより好きな人が見付かるかどうか今のところわからないけれど」
愛ちゃんは言った。
「私なんかより可愛い人はたくさんいるよ。だから、がんばってね!」
「ありがとう」
こうして僕の片想いは幕を閉じた。新しい人を探そう。でも意外にもそんなにショックは受けてないようだ。なぜ?
了
【短編小説】やっぱり彼女が好き 遠藤良二 @endoryoji
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