第3話 皇室の姫は文武両道です

「服、一人でできないから、よろしく」

「えっと.........。俺が着替えさせるってこと?」

「そうよ。あなたは私の伴侶。これからは学校では服は毎回あなたにやらせます」

「え、っと言われましても」


 女の子の裸見るってこと?

 え、いいの?

 体触っちゃうけど。


「私は裸見られてもいい。優斗なら」

「それはどういう?」

「私の運命の人だからよ」

「運命の人?」

「話は後。早く着替えさせて」


 俺は目を薄くして、ヘレーネ様の学生服を脱がせていく。指先にヘレーネ様の体が触れると、その柔らかさで想像が膨らみ、平静を保つのが大変だ。


 スカートを脱がせるのも一苦労だった。なかなか脱がせられなくて、終いには本人にやってもらった。


「寒いので、服を着せてくれませんか」

「えっと、脱ぎ着全部人任せなの?」

「はい。生まれてこの方16年、ずっと」

「それは着替える方法も分からないか。じゃあ一緒にやるから真似してみて」


 俺も恥じらいながらパンツと靴下の状態になる。ヘレーネはパンツとブラジャ姿だった。薄目でも分かるくらいにはヘレーネの胸は大きかった印象がある。あれはE~Gはあるな。まぁ、胸の話は置いておいて、服の着方を姫に教えていく。


「こうやって運動着のズボンを片足ずつ履くの。そして、上着の半袖もこんな感じで着る」


 先ずは俺がお手本を見せてヘレーネにやらせる。これから先、ずっとヘレーネのお着替えの相手をするのは気が滅入る。少しづつでもいいから覚えてもらおう。


 上着を着るのに手こずったが、ちゃんと着替えられたヘレーネに声をかける。


「よし。良く着替えれれた! 次は体育館までいくよ。シューズは持ってる?」

「持ってるわ」


 そして、体育の時間。

 ヘレーネ、強すぎる。


 今日はバスケットボールの授業だったのだが、余裕でスリーポイントシュートをして見せた。その後、俺のところに来て話す。


「私、すごい?」

「すごいと思うよ」

「やった」


 そう言ってまた去っていったヘレーネ。運動出来るってレベルじゃない。やはりユーラシア連盟の姫なだけあって、教育やスポーツは文武両道といった感じなのだろうか。


 その後は6限の公民だったが、ヘレーネは疲れを知らないのか、ちゃんと板書していた。だが、日本語は話せるらしいが、漢字を書くのが大変らしい。


 仕方ない。今度、ノートを見せてやろう。


 下校中、俺はヘレーネと一緒に歩いていた。先日出会った3人の海外セレブのことを考える。となると、彼女たちは本物の神でアフロディーテが世界で一番美しい姫ヘレーネを連れてきたってことか?


 いやいや、ないない。神とか信じられない。とりあえず下校時、俺の後ろをついてきたヘレーネに聞く。


「えっと、家はどこなのかな」

「家ですか。実は、どっちの家に行こうかと迷っているんです」

「どっち、とは?」

「私の家に行くか、優斗さんの家に行くかです」

「え、なんで」

「日本では夫婦は同棲することになっていると聞いています。私の国ユーラシアでも夫婦はだいたい同棲していますよ」

「いや、夫婦って! まだ付き合ったばかりだけど」

「私は将来を真剣に考えて交際しています」


 そう語るヘレーネは姿勢をピンと伸ばし歩いている。そういう仕草のひとつ見ても本当に皇室の姫なんだろうなと思う。


「ちなみにヘレーネさんは家はどこなのかな」

「青山ですね」

「てことはタワマン?」

「最上階です」

「......」


 俺は言葉を失った。だが、好奇心もあった。


「来ますか?」

「え、いいの」

「はい。今日からはあなたの家ですよ」

「そうなんだ」


 正直おじいちゃんの家はボロボロ。築80年とか言っていた。そこに戻るよりはいいのか。いや、そういえばあの家に眠り姫を一人置いてきている。


「それに、勝手ながら優斗さんの荷物は既に運んであります」

「用意周到なことで」

「そこで一つお尋ねしたいことがあるのですが、あなたの家にいた少女はなんですか?」

「少女?」


 不味い。記憶喪失だったから、勢いで告白しちゃったんだよな。今になって冷静になると何やってんだって話しだよな。


「あの方は優斗の妻なのですか?」

「いや、違うけど」

「ですが、引越しに当てた使者たちからは、『私は藤原優斗と付き合ってる』って語ってたそうだけど」

「ちなみにその少女は今どこに?」

「私たちの家よ。監視付きで。着いたら話するからね」


 なんか、浮気バレた時ってこんな感じなのかな。一方的に僕が悪いんだけど、仕方なかったんだ。そのままヘレーネとは気まずく沈黙が続いた。


 都内の何の変哲もない俺の高校から電車で30分。俺とヘレーネは黙々と混雑した車内で過ごしていた。


 やはり皇室の姫となると、満員電車は初めてなのだろうか。そうなるとストレスを感じたり気分が悪くなったりしないだろうか。


「ヘレーネ、大丈夫?」

「はい、なんとか」


 そう応えると、ヘレーネは俺の服の袖を軽く掴んだ。その仕草が妙に可愛くて、本当にこの娘は俺のことが好きなのか? それともただアフロディーテの仕業なのか? と俺が悩んでいると電車は明治神宮前駅についた。


「ついてきてください」


 電車から降りると、ヘレーネは俺の手を取って悠然と歩き出す。もう乗りかかった船だ。どうとでもなれ! 俺はそんな心境でヘレーネの後をついて行く。


「マジか......」


 目の前には恐らく『日本一高いタワーマンション』と最近のニュースで報道されていたそれがあった。


「え、ここなの?」

「そうですよ。最上階」

「最上階......」


 俺は驚かされてばかりだが、彼女が漆黒のカードを取り出して入口のセキュリティを解除した頃にはもう、すっかりヘレーネが本当の姫であることを信じていた。


「75階まであるのだけど、私たちの部屋は3階建てで77階まである」

「う、うん」


 もうこの頃には何を言われても動じなくなってきていた。


「さぁ、着いたわ。75階には2つだけしか家がないの。もう一方の部屋も買ってるから、挨拶には行かなくて大丈夫ですよ」


 俺は唖然としてしまう。


「わかったけど」

「わかってくれたのですね! さぁ、我が家へどうぞ」


 俺はヘレーネが開けた扉から中へと入る。そこにはビジネスで成功に成功をし続けた者だけが住めるような、テレビでしか見たことのない豪邸が広がっていた。どデカいテレビ、水槽には色鮮やかな魚たちが泳いでいる。


「ここに住むってマジですか?」

「そうですよ、藤原優斗さん」


 ヘレーネはそう言って無邪気に笑った。



※作者より

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