帝国海軍最後の作戦
波斗
第一遊撃部隊
第一遊撃部隊、反転す
「本当なんだな、今更引き返せと?」
伊藤整一、第一遊撃部隊司令官は今一度、聞き返した。
「はい、…
「そうか...命令だ、致し方ない。全艦に伝令、本艦隊は1030をもって反転し、呉に帰投す。以上」
「っ!?」
「なんで...」
「え?」
艦橋に詰める士官や参謀は騒然となり、我が耳を疑った。
帝国海軍最強の戦艦「大和」。それを旗艦とし8隻の駆逐艦と軽巡「矢矧」からなる第一遊撃部隊は、1945年4月6日、沖縄に上陸した米軍を叩くべく徳山から出撃した。
燃料は往復分あるし、出撃の時にも特段派手な見送りをされたわけでもなかった。
だが、皆分かっていた。
そして、飛行機を敵艦に体当りさせる戦法、神風特別攻撃隊が編成され、特攻が行われ始めた。
護衛空母セント・ローを始めとし特攻作戦は通常攻撃では得ることのできなかった戦果を次々と挙げ、今や通常攻撃は殆ど行われなくなっていた。
沖縄に待ち構える米機動部隊は30隻の空母と12隻の戦艦を推する。補助艦艇でいえば優に数千隻はあるだろう。
もとより勝機などない、特攻作戦なのだ。
それを中止するということは、よほどのことがない限りまずないだろう。だから誰しもが耳を疑ったのは普通の反応だった。
「私も悔しい、ここで引き返すのは今まで散ってきた同胞達に分別がつかないし、使命に反することだ。...だが、分かってくれ」
「わかってくれなんて、分かるわけないじゃないですか!ここまで来たんですよ、沖縄まであと一日です、司令!」
「きっとなにかの間違いですよ!」
「そうだ、そうだ!」
伊藤も葛藤が無いわけではなかった。この電信を黙殺して前進することだって考えた。
だが、命令は命令だ。
「黙れ、命令だ」
「「...」」
「了解」
ただ一人、さっきの電信を報告にしに来た伝令員のみは紙をしたため持ち場に戻った。
20分後、10隻の第一遊撃部隊は一路舳先を北に向けた。
1945年4月7日、午前10時30分、坊ノ岬でのことだった。
※ ※ ※
「ジャップの艦隊を見失っただと?」
「はい、偵察機が交代しているうちに
「さっさと見つけるように指示しろ。もう攻撃隊は出してるんだぞ」
空母17隻を配下に収める第58任務部隊の司令官であるミッチャー中将はそういうと、上官であるスプルーアンス大将への言い訳について思案した。
ミッチャーはスプルーアンスに無断で攻撃隊を出したのだ。スプルーアンスは麾下の戦艦群を使って「ヤマト」に決戦を挑むつもりらしいから先に航空攻撃で沈めてしまっては大変怒られるだろう。
ただ、攻撃隊がヤマトを沈めたとあればまだなんとか説明はつくし、他の司令連中もミッチャーの行動を認めざるおえない。
だが、攻撃隊を無断で出して空振りになったとすれば、解任はなくてもお叱りやらいろいろ受けないといけないことは分かっていた。
「さあて、どうしたものか」
今更偵察機を増やしても意味はない。
ミッチャーは攻撃隊に索敵攻撃を命令した。
敵艦隊を見失ってから3時間が経過した。
一向に敵艦の姿は見当たらず、幾段にも張り巡らせた航空哨戒網にも引っかからないことからスプルーアンスはヤマトを中心とする敵艦隊は沖縄突入を諦めたか、あるいは一旦引き返したものと判断した。
しかし、1週間がたっても、豊後水道や関門海峡に潜む友軍の潜水艦がヤマトを捉えることはなかった。
ミッチャーがお叱りを受けたのはまた別の話である。
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