第18話

 ローグライグリムで取り扱われる“アイテム資格”は大きくわけて二種類存在する。


 それは――対象のアイテムを所持するために必要となる『専門所持資格』と、対象のアイテムの識別、理解、制作、改造、分解、販売をするために必要な『特殊知識取扱資格』からなる。もちろんこれらの資格は冒険家でないと取得できないというわけでは無く、制作アイテムなどの販売を生業とする商人や、“不思議アイテム”の識別、鑑定などを生業としている『目利き屋』な鑑定どにも取得者は多い。


 “アイテム資格制度”を作った王国が執り行うアイテム資格試験の筆記試験又は実技試験に合格すると、証として各アイテムの形を持ったバッジを授与される。試験の申し込みについては主に酒場や、王国でも受付が可能である。


 その際、冒険家協会は『未踏地図の冒険家』以上の全冒険家を収集し、年に一度だけの会合を開く。その際に冒険家の存続確認、ローグライクグリム内に存在する【不思議のダンジョン】の発見数や到達数、“ダンジョン特性”など細部にわたる記録を集計するが、それと同様に“アイテム資格”についても徹底した管理を行う。


 そうして【イントラへヴン】に広がる二十の国々と連携しながら、法令を違反している冒険家の取り締まりをしているというわけである。


 冒険家協会の最大の目的は国から莫大な資金提供を受けつつ、【アウターヘル】の開拓を目的としている。それには二十の王国との連携が必要不可欠となってくるのだ。


「へぇ」


 ジッパは依頼ボードの横に慎ましく置かれた“初心者の為の手ほどき”と印字されたボードを難しい顔つき時で、傾けたりしながら、じっと眺めていた。


「そんな風になっていたんだね、全然知らなかったよ。クリム知ってた?」

「お主が知らんことを我が知るわけ無かろう、ずっと一緒に居るのだからな」

「いいなあ……二人はずっと一緒だったんだね、ねね、なん歳くらいのときから? その頃のジッパとクリムちゃんはどんなだったの?」


 “初心者の為の手ほどき”を眺めているジッパとクリムの横に、先ほどから二人の会話に混じりたそうにうずうずしていたコーラルが割り込んでくる。


「ヌ、やかましいわ小娘が、あまり気安く話しかけるでない、我は高貴な『竜族』だぞ」

「ああん、クリムちゃんってばすぐ怒るー、はっ、もしかしてわたしのこと嫌いなの?」

「フン……お主など……嫌いだっ」

「あぁーん、そんなぁ!」


 愛らしい顔を必要以上に強張らせるクリムがコーラルにそう告げた。思いの丈を告白された少女は肩をガクリとさせて、まるでこの世の終わりのように瞳を潤ませる。


「こーら、クリム、もうちょっとコーラルに優しくしてあげなきゃダメだろ、……ごめんねコーラル、こいつ照れ屋でへそ曲がりな上にコーラルに妬いてるみたいなんだよ」

「や、妬いてなどいないわっ! ふざけおって、一体誰の為に妬くと言うのか!見えぬなぁ、そんな人物は何処にも見えぬなぁ…………身の程を知れぃ! この大馬鹿者がっ」

「ほらね? こんなやつなんだよ、あはは、痛い痛いクリムごめんってば」


 クリムは興奮した面持ちでがぶがぶとジッパの耳たぶに噛みつく。青年は終始笑顔で、ちょっかいをかけてくる可愛い飼い犬を愛でるようにクリムの躰を撫でた。


「……ふたりは本当に仲良しなんだね」

「そう見える? まあ小っちゃな子供の頃から一緒だしね、悪くは無いと思うけど。――って、痛てッ、おまっクリム! 今のはほんとに痛かったんだけど!」

「くっくっく……我が竜の牙を舐めてくれるなよ」


 くつくつと悪戯な笑みで白い牙を見せるとジッパの服の中へ再び潜った。


 その様子を笑って見ていたコーラルがふと質問する。


「クリムちゃんはいつもジッパの服に入っているの?」

「いや、普段は僕の帽子の上がお気に入りみたいだけど……まあ『竜族』ってそう滅多にいるもんじゃないし、余計な騒ぎになっちゃうかもしれないからさ、だよね? クリム」

「フン……誠に生きづらい世の中よ。――この世界は人間が生きやすいように変えてきた世界だ。他の種族が生きていることなど考えてもいないのだろう」すうっと息を吸い込んで、「だから我は人間が嫌いだ」

「そんなにたくさんの人間見てもいないくせに何を言ってるんだよ」


 ジッパが軽い溜息をつきながら言った。


「なにを! お主の事も嫌いになるぞ」

「子供か」

「うふふ、わたしはクリムちゃんのことも、ジッパのことも好きだよっ」

「あ、ああ……そう? ど、どうも」

「どうかした?」

「くっっくっく」

「いやなんでもないから、気にしなくていいから。もう忘れていいから。早く続き探すよ」


 下手くそな役者の読む棒読み台詞のように言いながら再度ボードに目を落とす。しばらく眺めていると――。


「あっ、ねえねえ、ジッパこれじゃない?」

「どれどれ」


 そこにはこのように記述されていた。


 ――一般にモンスターとの戦闘が多く予想されるダンジョンへの潜行を生業としている冒険家の多くは『専門所持資格』を複数取得する者が最も多い。


 例えば剣を主に扱う冒険家であれば、剣の『専門所持資格』と、薬草や、飛び道具などの『専門所持資格』をいくつか取得する冒険家が最も多いとされている。


 さらに現在の傾向としては、一つの種類のアイテムに特化する“アイテム専門化”が進んでおり、武器であれば、剣や槍、斧など複数の『専門所持資格』を広く持つより、一つの種類の資格を深く極めていくことが良いと言われている。


 ダンジョンで拾うことのできる“不思議アイテム”や、商人が販売する制作アイテムには冒険家協会と王国が規定したSSS~Iまでの十二段階のランクが設定されており、高ランクになるにつれ、そのアイテムの希少価値や取扱難度、“魔粒子”の濃度は桁外れに上がっていく。“アイテム資格”においても、アイテムのランクに合わせ、一つの資格でもそれぞれ『第三種』、『第二種』、『第一種』、『第二種希少』、『第一種希少』、『超希少』の六つに区分けされている。


 また、“不思議アイテム”に関しては、“魔粒子”で構成された奇異の物質であるため、未熟な使用者が、その濃度の高さに自我や魂を奪われたり、肉体が奇怪な変形を遂げてしまったりすることがある。このように体内に取り込んでしまった“魔粒子”が身体と混合することによって、何かしらの異常状態を引き起こしてしまうこと“魔呑亜(まのあ)”という。


『専門所持資格』を持たずにアイテムを持つことは違法であるが、奇異のアイテムを機械的に所持できないというわけではない。『専門所持資格』とは、あくまでも取り扱える技量を体現したものに過ぎず、ダンジョンで発見したアイテムを拾う為に資格が必要ということは無い。


 王国に認められ、『専門所持資格』を所有する冒険家たちは“魔呑亜”になることも少ないという。王国と協会から格付けされた、アイテムのランクとそれを取り扱える技量を資格という形で体現したことにはそれ自体に意味があると言える。


 ダンジョン内で手に入れたアイテムは、『専門所持資格』を持っていないと、日常的に所持することさえ違法とされ、【王国のダンジョン】での検問も通らない。


 そういったとき、その資格を持っている人物に預かって貰うか、冒険家協会が各国々に構えている『倉庫屋』にアイテムを預けることができる。(有料)

『専門所持資格』を持たずアイテムの所持を続けると、冒険家協会の会合時や、国の衛兵の取り調べによって没収されてしまう場合がある。罪状にもよるが、資格取得後に王国に届け出を提出すればアイテムは持ち主へ返却されることがある。


「くっく、お主はまさにこれだな。あのときは傑作だった、きっと王都の人間からら見れば馬鹿丸出しだったのだろうな、しかも自称冒険家だったわけだしな、くく」

「うるさいな、もうその件はいいよ」

「なになに、そんなに面白かったの、教えてよ、そのときのこと。ねねっ、教えて」

「ダメ」

「えぇー」

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