男嫌いパーティの指南役は俺!?

クククランダ

第1話 指南役になる

「ん、……朝か」



 俺は目をこすりながら洗面台に向かう。まず朝は顔を洗うところから始まると俺は思う。


「ふぅ、すっきりした」


 俺はタオルで顔を拭いて自分の顔を見る。この世界に転生して18年が経った。孤児院で育ち、今は冒険者として生活している。冒険者として3年間も頑張った。かなり危険な道も渡ったりしてあるので金もそこそこある。


「あと一年、いや、2年くらいか……」


 この調子で頑張って働けばもう働かなくても良いだけの金が貯まる。その後のことはまだ考えていない。このまま冒険者を続けるか、それともやめて穏やかに暮らして行くか。


「いや、今考えても意味ないな。それより仕事行くか」


 俺は紺色の服に着替えて借りている宿を出て、ギルドへと向かう。向かう時は暇なのでそろそろ家を買った方が良いのか? とか考えていた。


「……着いたな」


 俺は巨大な建造物の中に入っていく。さて、今日はどんな依頼にしよう。シーウルフとかの討伐にするか? 俺は掲示板に貼られている依頼者を見ながらどれにしようかと考えているとーー


「あ、いたいた。マルク、ちょっと来てもらえるか?」

「ん、ニース?」


 俺は受付にいるニースの所へ行く。ニースが俺を呼ぶのは珍しい……こともないな。結構呼ばれてるな。


「一体どうしたんですか?」

「実はな? マルクに頼みたいことがあってだな」

「頼みたいこと?」


 これは珍しい。というか、ニースがこういう頼み事をすることは中々ないし。ニースにはそこそこお世話になってるし、まぁ引き受けてやるか。


「良いぞ。任せろい」

「え、まだまだ何も言ってないのにか? 本当に良いのか?」

「あぁ」


 俺が「たまには頼ってくださいよ」と言うと、ニースさんは「ありがとなー!」と言いながら俺の手をブンブンと振る。まさか、こんなに喜ぶとは、そんなに難しいことなんだろうか?


「それで? 頼み事ってどんなことだ?」

「実はな、マルクにはあるパーティの指南役、つまり冒険者として生きていけるようにして欲しいんだ」

「あー、なるほどな」


 俺は納得した。指南役は冒険者になりたての新人が死なないようにする為の措置である。そして指南役はランク5以上の冒険者の中から選ばれ、3ヶ月程依頼についていかなければならない。


 これが問題だ。この3ヶ月という期間の間は自分の受けたい依頼が受けられない、たとえ割の良い依頼があってもほったらかしには出来ないので諦めるしかない。だから、指南役に選ばれても拒否する人が多い。最初に拒否しておけばペナルティなどもないからな。



 まぁ、俺は受けても良いと思ってる。俺は冒険者のランクで言うなら5なので条件は満たしてる。パーティも組んでいないし、新人くらいになら基礎的なことくらいなら教えられるだろう。


「それくらいなら全然良いぞ」

「本当か!? いやー、良かったぁ。本当に良かったぁ」


 ニースは心の底からホッとしているような気がする。そこまで喜ぶことでもないだろうに、大げさだな。


「じゃ、早速行ってきてくれ。ここで待機するように言ってあるから。あ、あとついでにこれを渡してくれ」

「あぁ、分かった」

「気をつけろよー! ………本当にがんばれよ」


 ん? あいつ最後に小さな声でなんか言ってなかったか? いちいち聞きに行くのもめんどいし、何より、待たせてるなら早く行ったほうが良いだろう。俺は気にせずに紙に書かれている場所へ向かうことにする。


「……ここだな」


 ギルドの中をしばらく歩くと1つの部屋にたどり着いた。紙に書かれているところはここで合ってると思う。


「よし、入るか」


 俺はドアを押して中に入る。出来ることなら素直な子が良いなと思いながら。


「「「………」」」


 中に入ると同時にこれから教えていくであろう3人が俺を見る。なんと、3人全員とも女性だ。しかも全員がとてつもない程の美貌を持っている。


 燃え盛るような真紅の長髪、だがそれとは反対にとても冷淡な目で俺を見てくる剣士。銀色の髪と鋭い目つき、背中には弓を持っているエルフ。もう1人は俺と同じ黒髪の魔法使いだ。2人に比べると気が弱そうで幼さの残る顔だ。


「………」


 それにしても、こうも全員の顔が良いと緊張してしまうな。果たして俺は普通に接することが出来るだろうか?


「……あー、お前らの指南役になったマルク・ルーゼルトだ。よろしくな」

「「「………」」」


 あれ、自己紹介したはずなのに3人とも不動なんだけど。なんか失敗したか? それとも気づかない間に何かやってしまったのか? 俺はどうしたら良いか分からず一歩だけ足を進めた瞬間。


「来ないで下さい……」


 赤髪の剣士が冷たい眼差しで俺を見る。や、やっぱり何かしてしまったのだろうか? 俺が考えていると剣士は話続ける。


「ごめんなさい。別にあなたが嫌いとかじゃないの。ただ、色々あって私は男の人が苦手なの。だからそれ以上近づかないで」

「え〜?」

「……悪いとは思ってるわ。けど、こればっかりは治らなくて」


 いやいや、この先どうすんだよ? 俺たち3ヶ月は同じ依頼を受けるんだぞ? 本当に大丈夫なのか? いや、待て。それより他の2人はどうなんだ?


「えっと、一応聞くけど。他の2人はどうなんだ? 男は苦手なのか?」

「まぁ、私も好きか嫌いかで言われたら嫌いだな」

「………」


 魔法使いの方も小さく頷いていた。どうやら3人とも男が嫌いらしい。なのに、こいつらの指南役は男の俺。


「いや、どうしろと!?」


 無理じゃん! こんな状態で教えられることが出来るとか言えねーよ! 早くもスタートラインから不安だよ! そもそもスタートが切れるのかすら心配だよ。



 俺はとてつもなくでかい不安を抱えることになった。

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