なんだかちょっぴり寂しかった。

冬村 みさと

第1話 とある冬の日

「もう卒業まで1ヶ月かぁ。」

「そうだなぁ。。。」


 放課後の何気ない帰り道。

 なんでもない日常風景なのだが。

 そんな日常を、今は狂おしい程に欲している。


「受験も終わっちゃったし暇すぎ。」

「この暇なのがいいんだろ?」

「ちょっと何言ってるか分からない」


 この何気ない日々。

 なんでもない会話。

 そんな茶番を、俺は狂おしいほどに愛している。


「卒業したら俺らも離れ離れかぁ。」

「うっわ……なに急にキモいこと言ってんの?」

「ひでぇなお前。」


 こんな掛け合いが好きだ。

 こんな誰にでも起きる日常が好きだ。

 でも。俺はもう、学生には戻れないのだ。


 ─────そう。

 俺は高校生の後ろを歩いているただの社会人だ。

 こんな青春の1ページは、はるか昔の埃っぽい記憶のアルバムにしまい込んでいる。でもたまに、こんな風にノスタルジックな気分になる。いくら想ったところで、また学生に、友達に戻れる訳でもないのに。


「………」

「高校生っていいなぁ。」


 あの二人組が見えなくなったところで、切望するような、絞り出すような声で吐き捨てた。


「ははっ……」


 無意識に乾いた笑いがこぼれた。学生時代はいいものだ。今日、またそれを深く胸に刻み込んだ。


「───あっ、ひこうき雲───」


 空には1本の長い線が引かれていた。高校生と大人との境界線を引かれたみたいだった。もう覚えてもいない校長先生の話。学校の七不思議。好きだったあの子。校舎裏に隠していたエッチな本。全部が全部、過去のものなのだ。

 あの2人のように、もう見えないほどに遠いあの景色。手の届くことのない幻想。



 それでも俺は。


 それでも、、、



 もう戻れないあの青春の日々を、俺は想い続ける。

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