第3話

同年代の友達とうまくやるのが、正直あんまり得意じゃなかった。

感情を伝える方法が分からなかったから、悲しいとか傷ついたときも何も言えなかったんだ。


幼稚園のときのことを今でも覚えてる。

女の子たちと遊びたくて、プレイグラウンドのトンネルの中に入っていった。

そしたら、顔を蹴られた。


めっちゃ痛かったのに、泣かなかったし、何も言えなかった。


そんなこと初めてだったから、どうすればいいか全然分からなくて。

あの子も、私の顔を蹴ったって気づいてなかったんじゃないかな。

だから、私は黙ってトンネルの中でほっぺを押さえたままじっとしてた。


こういう感じの出来事が、残念ながら私が成長するにつれて当たり前みたいになっていった。


私のお父さんとの中で、特に印象に残ってる会話が一つある。

「相手が意地悪でも、お前は優しくしなさい。」って言われたんだ。


5歳の私は、それを本当に素直に受け入れた。

お父さんって優しい人だな、って思った。


でも、皮肉なことに、ほぼ毎日のように私たち兄妹を叩いてた。

その教えが私に植えつけた考え方は、大人になった今では取り返しのつかない影響を与えてると思う。


子どものころ、私はすごく内気で、人とどう話せばいいのか分からなかった。

両親に日常的に会うこともほとんどなかったから、他人とコミュニケーションを取る方法を教わる機会がなかったんだ。


うちの両親は「親らしいこと」をするタイプじゃなかった。

親らしいことをするときと言えば、私が悪いことをしたときに叩くか、自分たちのために何かやれって言うときだけだった。


「ありがとう」とか「ごめんなさい」とか、境界線を引くとか、そういう基本的なことを教えてもらえたことは一度もなかった。

私が彼らの邪魔をしない限り、放っておかれてた。


思い返してみると、歯磨きとか子どもの頃の自己管理についても、教えてもらったことはなかったな。

歯の磨き方すら教えてもらえなかったし、「毎日磨け」と言われることもなかった。

ただ「やれ」と期待されてただけ。


大人になって、親が子どもに色んなことを教えてる動画を見て驚いたよ。

「え、これが親のすることなの?」って。


私はそれを知らなかった。

多分、そのせいで私はすごく自立心が強くて批判的な子どもに育ったんだと思う。


他の子どもが自分で物事を解決できなかったり、いちいち大人に頼らなきゃいけなかったりするのが、すごくイライラした。

誰かに頼るなんてありえない、って思った。


その時はなぜそんな気持ちになったのか分からなかったけど、大人になってその感情を整理してみると、たぶん「助けを求める」ってことが私にはできなかったからなんだと思う。


長女だったから、一回で何でもできて当たり前。助けを求めるなんて、弱さの証拠。


この考え方のせいで、大人になってからも弟妹たちとの間に溝ができちゃったんだと思う。


4年生になった頃、両親はよくこう言っていました。

「未来の夫のために、掃除や料理ができるようにならないと。」


9歳の私は、「誰かの迷惑になりたくない」と言いました。

だから、母がキッチンで手伝ってと言えば、

いつも手伝いをして、お皿洗いもしました。


それから両親は、若いうちに妊娠してはいけないとか、

男の子と関わったりデートしたりしてはいけないとか、

そういう話ばかりするようになりました。


おかしくないですか?だって、私はまだ9歳だったんです。

なんで「妻になること」とか「子供を持つこと」なんて話題が出てくるんでしょう?


まだ生理も来ていないし、

生殖器が何なのかも知らなかった。

赤ちゃんがどうやってできるかなんて、もっと知らなかった。


でも、9歳の私にはそれが普通だと思っていました。

親はみんな、こんな会話を子供とするものだと思っていたんです。

全ての女の子は純潔を守らなきゃいけない。

全ての女の子は妊娠の責任を負うべきだ。

全ての女の子は、大人になったら妻になるべきだって。


ある日、女友達とこの話をしたとき、

その子はこう言いました。


「家にはメイドさんがいるから、掃除なんてしなくていいの。」


彼女は指一本動かさなくても、メイドやお母さんが全部やってくれるんです。

私はショックでした!


「この子、大人になったらいい妻になれないよ。」

そう思いました。


その後、他の同級生たちも、

家事をしたことがないとか、「妻の訓練」なんて全然していないことを知って、

すごく失望しました。


「なんてことだ!」

「こんなにも多くの女の子たちが妻になる準備をしていないなんて!」


そう思ったんです。

でも、よく考えたら私たちはまだ9歳だったんですよね。


私はずっと、みんな変な家族と暮らしているんだと思っていました。

でも結局、変だったのは私の家族のほうでした。

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