Tiny wave
My little
1
伊豆急下田駅をでて立ち竦む。
閑散としたロータリーを乾燥した冬の風が吹き抜ける。
いやいや、これ、おかしくね?
『波乗り』と、きいてイメージしていたものはなにひとつ、伊豆急下田駅にはなかった。
ただ、プーペープーペー煽ってくる信号機にあわてる腰の曲がったおじいちゃんがいるだけだ。
寂れた土産屋と錆びたスーパー、でっかい魚の看板を背負った干物屋だけがやたらと立派だ。
いかつい真っ黒な船のレプリカと
『ようこそ! 下田温泉』
竹筒からちょろちょろ湯気を立てて流れる温泉。
ぽつり一軒開いてる土産屋に吊るされた、季節外れのアロハシャツがすごく寒い。
軒を連ねるサーフショップも
浮かれたハワイアンカフェも
タトゥーを入れたにぃちゃんも
おっぱいのデカいねぇちゃんも
ない。
つか、いま、冬じゃん。
冬にサーフィン? え? オレ、なにか間違えた?
となりには、
「ああぁぁぁあ!」
オレのベイベ。
オレが誘拐してきた愛しのベイベ。
ポッキーしか入ってないキッズデイパックを背にお尻ふりふり謎の小躍りでご機嫌だ。なにがそんなにご機嫌なのかにぃちゃんには理解できないのが残念だ。お尻をふるたびアウトドアブランドのマスコット、ペリカンちゃんの顔も跳ねる。
間違えた? いや、
乱暴にふりまわすその手をしっかり、包み込む。
たしかに生まれたことが文字どおり間違えだった若干十七年の、オレの人生だけど。
だけど、
「あ、あ、ああぁ!」
ご機嫌この上ない小さくて非力な、でもモンスター並みにわがままなその手をつなぐ手に、力が込もる。
顔を上げる。
シアンブルーの空を望む。
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