どんな長い夜もいつかはきっと明けるのだ。しかし人の寿命はそれを待つのには短すぎた。

Hugo Kirara3500

こどおば脱出大作戦・1996年に卒業して……

 あたしは1996年に中堅私立文系大学、いわゆるMARCHのどれかを出たわ。志願倍率が空前絶後の数字だったこともあるけど数学と物理が苦手だったあたしは理工系大学を選ばなくて安易にこっちにしたのがケチのつけ始めだったわ。3年次の頃から就職活動をしたけど女子はこれ以上ない悲惨の一言だったわ。右を向いても左向いても面接会場にこっそり男子だけ集めた会社ばかりだったわ。かと言って男子が幸せかというととんでもない話で、志願者数が数百人でも募集人数は片手で数えられるくらいの人数だからまさに宝くじのようだったわ。それであたしが出した求職資料請求はがきの枚数は1000通近くで志望動機なんてまともに書ける訳がなくて、面接は通学定期をフル活用。そっちで疲れて肝心の期末テストはもう通ればいいや、という感じになってしまったわ。


 で、第582志望の下請けSIerに入社して、放置という名のOJT!連日の14時間労働!休日は月3日あれば良い方!夜の社内には死んだように寝ている同僚がいっぱい!そしてあたしは数年後、どこかの血管が切れて、ぶっ倒れて救急車に載せられたわ。それから1年ほど休んでさらに5年近く自宅で静養しつつ近所のパソコンスクール講師で食いつないだわ。


 ようやく2004年に雇われエンジニア復帰と思いきや2009年にライブドアとリーマンのダブルショックで追い出されたわ。その後は内職同然の安売りフリーランスエンジニアになってしまったわ。国民健康保険、国民年金、税理士費用、ファクタリング代行手数料負担で身が細る細る。


 それでIT企業を紹介しているエージェントのページをのぞいてみたわ。その中のとある社員募集ページでは、


「Web自社開発、初任給年500万、厚生年金、健康保険、研修資金・参考図書購入・技術交流会参加費援助制度完備」


で、そして育児休暇もあって入社2年目以降テレワーク可能だわ。


でも……「20~30代が中心に活躍しています」ですって!?このままではまず通らない……どうしよう……あたしは、しわ取りメイクマシマシにして写真館に行った時の写真を更にフォトショップで加工して履歴書に貼り付けたわ。そしてあとは……ええい、1993年生まれ2016年卒と書いちまえ!年齢詐称も生きるためには必要悪だぁ!!


 あたしは限界まで若作りした履歴書を送信したわ。これでアラサーに戻ってやり直せるわ!と思って。よし、しばらくして余裕が出てお金が貯まったら美容外科でヒアルロン酸注入施術してもらってエステに通うわ。

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