第7話 脱走
この世界において、太古の昔から存在する様々な「怪異」は、人々にとって半ば自然災害のようなものと認識されている。突然現れては人間社会に害をなす――台風などのように予測がつかない分、彼ら「怪異」は更に厄介なものと言えた。
モニターには、戦闘員たちが「怪異」を相手に苦戦している様子が映し出されている。
粘性を持つ流動体の如き「怪異」は、見る度に形を変えながら、その巨体で周囲の建物を薙ぎ倒しつつ移動していた。
この「怪異」は、ヤクモが編み出した「バリア」に似たものをまとっていて、戦闘員たちが使用している自動小銃では、なかなか有効打が与えられていないようだ。
「
「あの程度の相手に手こずるとは。
はらはらしながらモニターに見入っている陸をよそに、ヤクモはフンと鼻を鳴らして呟くと、身体の奥に引っ込んでしまった。
「ちょっと! 何で引っ込んじゃうんだよ?」
突然、ヤクモと入れ替わる形になった陸は慌てて言った。
「あの
「待てよ、君なら、あの『怪異』にも負ける気がしないんだろう? だったら、俺の身体を使っていいから、
「は?」
陸の言葉に、ヤクモは心底意味が分からないと言いたげな声を漏らした。
「何ゆえに、
「
「あなや……それは困るのだ……あの店の激辛カレーとやらを
「俺、辛いの苦手なんだけど……それはともかく、君にも無関係じゃないだろう?」
陸は、
「……是非に及ばずなのである」
ヤクモが言うと同時に、陸は再び自分の意識が身体の深い部分に沈み込むのを感じた。
幸いにも、実験室に残った職員たちは、事件現場を映すモニターに気を取られている。
隙を見て、ヤクモは実験室の扉から廊下に出た。
「あとは、どうやって現場に行くかだな……」
「バイクを盗んで走り出すのか? ネットで見たのである」
陸の言葉に、ヤクモが研究施設の廊下を素早く移動しながら答えた。
「それは犯罪だから駄目だよ!」
「なに、もっと効率のいい方法がある」
屋外へ通じる扉を見付け、ヤクモは外に出た。
そこは、建物同士の隙間にあたる場所で壁に囲まれており、人目につく可能性は低そうだ。
「しばし待つがよい」
ヤクモは、やや前屈みになり背中に意識を集中させた。
「うわ……何か気持ち
背中の皮膚の下に、灼熱感を伴った何かが
次の瞬間、彼は、背中の皮膚と、更に着ていた衣服を突き破り、何かが生えてくるのを感じた。
はたはたと動くそれは、自分の目で見なくとも「翼」であることが、陸にも分かった。
軽く地面を蹴り、ヤクモが背中の翼を羽ばたかせたかと思うと、その身体は上空へと舞い上がる。
「これなら、直線で移動できるゆえ、時間の短縮になるだろう。現場とやらの場所を教えるがいい」
「な、何でもありなのか……ここからなら、あの高いタワーのある方向に向かえば着く筈だ」
「承知した」
ヤクモは疾風の如く空を切り裂きながら、目標のタワーへ向かって飛んだ。
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