第2話 初対面
「大塚あいかさん」
出席番号一番はおからだった。
色んなところに奉仕部がある関係と、全国大会に出るメンバーを選抜しやすいように入部テストがあるらしい。
出欠表には新メンバーの似顔絵と名前と必要事項が書かれていた。全国大会への指導は副顧問の谷川先生がやってくださるので、私は書類仕事のみになる。
「今日も笑顔で」
谷川先生は両人差し指を口角に添えた。
「お願いします」
生徒たちがてんでバラバラに散った。発展途上国の子供たちが日本が求める教育水準に本当は無理があって、ばらまきは正しいのかというテーマで発表しあうという課題があるらしい。
「御手洗先生、ちょっと」
谷川先生は廊下に私を手招きした。
「明日から不登校だった
そう言えば出欠確認をした時に一人だけ名前だけの子がいた。確かに山蓮であることを覚えている。今時、不登校は珍しくないが、なんで不登校になったかを問うのは微妙なところだ。
理由も個人情報になる。いじめなのか、何かトラブルに巻き込まれたのか。
教室に入りにくい生徒もいるもんね。大学の時のテキストを引っ張り出すいい機会かもしれない。
「何も問題が無い子なのに分からないわよね」
そういう子ほど心に闇を抱えているものだ。なんて思っても口に出さない。
「分かりました。どんな子ですか?」
これくらいは聞いても許されるだろう。
「いい子、すごくいい子。授業準備やお願いや後輩指導もやってくれるしっかりした子。だから少し疲れたのかもしれないわね。山蓮さんが疲れないように私たちが頑張らなきゃね。先生、深刻な顔してる」
谷川先生は口角に人差し指をやった。私が合わせたのを見て、先生は「今日も笑顔で」と言って、口角を指で上げた。
山蓮さんは高三ということなので、一年生担任の私との初顔合わせは探求部となった。
「おはよーございまーす」
覇気や気力を感じさせない態度だ。服装もぶかぶかで風紀的にも問題だらけだ。パーカーも禁止されているのに着ている上に異様だ。
これは少し難題かもしれない。積極性のある生徒だと聞いたので、やる気があると思っていた。谷川先生によると教室でもこの態度だったらしい。教室内ではずっと顔を伏せていたという。
「こんにちは私は代理顧問の御手洗です」
「みたらいせんせよろしくです。帰ります」
「ちょっと山蓮さん」
呼び止める私に振り返らずに山蓮さんは部室を出て行った。困惑は私だけではなく他の部員もそうだった。
「みんな、山蓮さんは久しぶりでしたし、少し疲れたでしょう。私たちも今日は帰りましょう」
バラバラと準備をしだす生徒たちを見送った後、職員室に戻ろうとしたが、谷川先生に声をかけた。問題を抱えている生徒をなんの共通情報もなく放置するわけにもいかない。
「山蓮さんってどんな子だったんですか?」
「賢くて素直で後輩思いの」
「今とは」
「今日の印象とは全く違うの」
「何があったんでしょうか」
谷川先生は両手を上に返し、首を振った。
「わからないわ」
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混濁の舎 ハナビシトモエ @sikasann
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