第1話 新学期

 私立西学園はH県O市にある女子校だ。高校からの編入を認めない小中高一貫校で全てを女子教育で育てる。名のある国立大学だけではなく、海外の大学に進学させるノウハウもあり、特に海外で活躍するためのクラスがある。



 清廉潔白、淑女純潔。少し古い価値観もここでは毎日になる。



 私、御手洗みたらいかのんは教員二年目にして、初の顧問を持つことになった。今日からこの西学園で最も有名な探求奉仕部の顧問だ。


「顧問の谷崎益男たにざきますお先生が育休の間、私御手洗が代理顧問を務めます。色々慣れないですが、よろしくお願いします」

 パチパチと拍手されて、お願いしますと座ったまま頭を下げられた。


 探求奉仕部とは、要はボランティア部なのだ。ボランティアで地域貢献をしつつ、とある国の財政状況や社会インフラを調査し、それによって学校の寄付金をどの国や団体におくるのかを話し合い、とある国の研究をもってして高評価されている。そんな部活動だ。



「先生、この報告書チェックお願いします」

 新年度とのこともあり、導入は上手くいった。名前覚えは得意だし、授業準備も生徒の事を思えば苦ではない。保護者会も理性的でさすがよく出来た学校である。なにより授業外で先生と呼ばれるのがどこか誇らしい。


 実習校ははずれを引いて、とてもつらかった。子どもも親も問題だらけ対策をしようとしない大人にその大人が残した仕事を実習生で分け合った。

 当時の実習生は仲間意識があった。彼ら全員が教員採用試験を突破出来なかった。そういう事情があってまめに連絡は取れていない。ただ、同じ国語で公立校に赴任した夏目という同性だけはたまに連絡を取っている。


「かのん先生」


「こら、御手洗先生でしょ?」

 中学生の子たちなんて高校生も子供なのにまだまだ可愛いな。でも歳が近いとなめられたりするのも困るな。



 初日は軽い顔合わせで終わったので、一か月くらいで馴染めるようにやっていこう。ほとんどの活動は生徒が自立してやってくれるので、私は書類をチェックするだけで済みそうだ。


 暗くなった廊下を抜け、職員室に戻ると女性の教頭先生がキーボードを叩いていた。顔はどこか疲れていて、管理職は大変だと思った。私には無理だな。



「あ、御手洗先生。どうですか探求部」

 廊下で教頭先生に声をかけられた。

 探求奉仕部と呼ぶには長すぎる上に、この学園には奉仕部がやたらと多い。社会福祉奉仕部、子ども奉仕部、家庭科奉仕部、地域奉仕部と。探求は一つしかないので、探求部と呼んでいる。



「みんな正直ですごく親切です」


「あ、あ。正直で親切ですか。そうですね、彼女らは正直で親切です」

 どこか含みのある言い方が気になった。


「それはどういう」

 学校内携帯の着信音が響いた。


「ごめんね。この話はまた今度」

 そう言って、教頭先生は職員室を出て行った。


 明日、ちゃんと聞いてみよう。車に乗った時は覚えていたけど、お風呂に入って寝て起きたらすっかり何がなんだか。


 今日は名簿を見ながら出欠確認をしてみよう。昨日で大方覚えたけど、復習するのはいいことだ。

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