カクヨムコン10 短編 参加 ひょんなことから、意思ある玉ころを拾ったので、相棒にして、世界的歌姫を目指します‼

奈音こと楠本ナオ(くすもと なお)

橋の上で、千客万来! (人間編)1

 楠本ナオ(くすもと なお)は、ウツウツとしていた。


 ダラダラと、自転車を走らせる。隙間なく雲が覆う、曇りの日が続いていたからだ。今日は、湿度も高く、ムシムシとして。少なからず、イライラもしていた。


 大きな刀で雲を切り裂けたら、スカッとするだろうな。


 無理と判っている、ナオは冷房が効いた部屋で涼みたかった。


 ナオは思いつく。かっ飛ばせば、涼しくなるんじゃないか?


 斜め掛けした、淡い灰色の肩掛けカバンの位置を変える。速度を上げようとしたが、おあいにくさま。坂に差し掛かる。ペダルに力が入るのは、同じ。速度は上がらない。


 正面に、橋。左前に、川が見えてきた。ひとこぎごとに、全体が視界に入る。岸に生える、背丈が異なる草々。たいして多くない、水量。いつものとおり。


 橋の端に着く。そんなに、こぐ力はいらない。通り過ぎる、車の数は多いが。時間帯もあって、歩いて渡る人はいない。自転車は、数えるほど。


 今日は違った。欄干に寄り掛かり、下を覗いている人がいる。釣り人がいるくらいだから、そこそこ、魚はいるだろうが。見えるのか?


 ナオは目を奪われる。寄り掛かっていた、女の子に。


 ウェーブが掛かった、腰まである長さの金髪。憂いを帯びた、小さな顔。肌が白いせいか、桃色のフリル付きのワンピースがよく似合っている。


 チラリ、ナオは見おろす。白の半袖のTシャツに、黒のデニムのパンツ。自転車のペダルに絡まり、転ぶのが嫌で。ほとんど、スカートは、はかない。


 同じ性なのに。どうして、こうも、違うのか。


 次に、女の子が取った行動に、ナオは驚かされる。欄干をまたぎ越していた。


 ナオの血の気が引く。自転車を降りて、走る。後ろで、倒れた自転車が派手に音を立てた。構わず、進む。


 かろうじて、ナオは女の子の手を掴む。精一杯、力をこめて、引っ張り上げようとしたが。上がらない。


 彼女も華奢だったが。ナオも細腕。上がるはずがなかった。


 人を呼ぶ、余裕すらない。


 女の子に期待する。自ら、欄干に足を掛けて、登ってくれるのを。目が合う。妙に、キラキラして、満面の笑み。


 ナオが見ているのを知って、彼女は意図的にまたぎ越したのだ。


 ナオは脱力。ますます、引き上げられなくなった。


 誰か、気づいて~~~‼


 数台の車が後ろを通り過ぎる。そのうちの一台が、急ブレーキをかける。ドアを開ける音。足早に歩み寄ってくる、足音。


 左右から、欄干の外を覗く。黒い服を着た、二人が事態を把握した。


「「落っこちゃったのか」」


 二人も、手を伸ばす。女の子の腕を掴んだ。ナオは、大分、楽になった。


「せえの、で、上げるよ。……せえのっ!」


 右側にいる男が、掛け声を掛ける。ナオは声が出なかったが。心の中で、言う。女の子を引き上げて、欄干の手前側に下ろせた。


 ナオはアスファルトにへたり込む。荒い息を繰り返す。喉も喉の奥も痛い。涼しくなりたいと思ったけれど。肝を冷やして、涼しくなりたかった訳じゃなーい!


「See you again」


 ナオの頭の上で、聞こえた。顔を上げる。ぽかんと、口を開けた。


 派手な人だ。しかも、顔立ちが綺麗だし。背が高いし、足も長い。


 腰まである長さのストレートのシルバーの髪。黒のジャケットとパンツは、個性的な模様が付いていた。中は、開襟の赤色のシャツ。シルバーのアクセサリーを付けている。


「ありがとうございました!!」


 笑った後、彼は歩き去っていく。我に返った、ナオは感謝の言葉を叫ぶ。背中に向かってだけど、手を振ってくれた。


 あれ?


 疑問を持ったが。ナオは理由が判らなかった。

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