狂宴!鉄パイプ女!!(キャラクタリスティック)
ポロポロ五月雨
第1話 再々宴! 鉄パイプ女!!
九つの山と八つの海を越えて三千里。あるいは都心カシハマ駅から徒歩10分のところにさ。その家があったらいいな。でも実際にはないってもんだから、現実のセチ辛さといったらまぁまぁまぁってもんよね。ホントに。
ときに
ヤナギが横を囲うような浅い川に、一体の潜水艦が泳いでいた。妙だ。川はせいぜい膝くらいまでの水しかないんだから、潜水艦なんて通れるはずがない。でもそのサブマリンは確かに水を潜っているし、地上を観察するレンズのようなものが、まるで生えたてのタケノコみたく ちょっぴり出ていた。
『ジーーーー…』
レンズは観察する。地上を。そして学生服を見つけたら、備わっているミサイルで迎撃する。そう。彼こそは学徒殺戮専用兵器 『スチューデント・ジェノサイダー (サブマリン・カスタム)』 だった。かつて学生運動の最盛期に作られた鉄クズで、今じゃ用なしのボンクラポン。そのレンズも動いてるくせに精密性に欠けていて、学ランところか黒い服になら何だって飛ばす。飛ばす。飛ばす。
「うわぁ、まーーだいたんだ。アイツ」
傍に、人がいた。ボーイだ! 制服を着ている!
ヤナギの陰に身を潜めて、水上を覗くレンズを警戒していた。この子は近隣の中学に通う学生だ。二年生。美術部。保健室の先生に恋してる。やーん。だが奴に見つかってしまえば、その淡い恋も淡いまま消えること請け合いです。なにせ彼の学校にも被害者はいた。全治二か月の大ケガだった。
『ドブが…しかもコーティングされてる奴じゃん』
コーティングとは? それこそは! たぶん『能力者コーティング』 のことを言ってるんだと思う。能力者から取ったエキスとペンキを混ぜて、表面に塗布するんだ。すると いかなる無機質でさえ意識が芽生え、自らも超常の力を振るうようになる。この現象を『カオス』 というらしい。分野が違うからちょっと分からんけど。そうらしい。
『くだらねぇ…んで僕がこんな目に』
ボーイは呻く。マチマチでも超常現象には違いない。不運だ。隙を見てヤナギから駆け出そうにも、レンズは360度をくまなく回転して見やっている。川が浅いくせにそのデカい図体を沈められてるのは、カオスの影響だろう。改めて不運だ。明日は良いことあるかも。
だが、その時。ボーイは見た。
「…?」
時はすでに放課後。辺りは暗い。しかし、それでも。ジェノサイダーの行く進路方向にある桟橋。の上、にある、人影。
『危ないな…誤射されちゃうぞ』
ボーイは身を強張らせた。ヤナギの皮を掴む。風が、吹いていた。枝葉は揺れ、静かで、空気の透明なことが分かる。だからこそ、その人影が際立って見えた。
影、手には鈍く光るシルバーの棒。改めて、辺りは澄んでいた。
『ジーーーー…ピピ』
「あ!」
レンズに映ったのは…ボーイ! 身を乗り出し過ぎていた!
『ギャッポーイ』
奇怪な音。日常とは無縁なソレ。鼓膜に入ったら3秒後にミサイルが飛んでくるソレ。が、全身を駆け巡り、神経がしなり、ボーイは急いでその場から走り出した。背中に月光があたる。風が背中を押す。
これほど天に祈った日などは、ボーイにとって初めてだった。手を上げ、足を上げ、肺を、叩く。口を大きく上げ、無様とも取れるほどの格好で、体を前へ。前へ。安全圏へ動かす。やがて家に入り、自分の部屋に入り、ベットに寝かすその時まで。ボーイは走った。
ミサイルが着弾することは、なかった。
「おい、マジか。人いたのかよ。あの様子じゃ顔見られてねぇだろうが…気付かなかったな」
影は、桟橋から動いていた。鉄くずの上に。凹みに凹んだ、鉄くずの上に。
「寒ぃ…」
女だった。ジャージを着て、髪先がクルクル曲がってやがる。オシャレとは無縁な感じの、野生児のような雰囲気だった。手には、そう、鉄パイプを持っている。肩に担いでいる。
女は川に沈んだスチューデント・ジェノサイダーにケータイを向けた。『パシャリ』 音が鳴る。
「帰ろ…うぅ、外仕事はイヤだねぇ」
女はポケットに手を突っ込むと、白い息を吐きながら夜の空を見上げた。
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