【第1章】エキゾチックタイムトラベル

山に呼ばれて


 ●○●


 俺――真中太陽マナカタイヨウには夢がある。


 それは、タイムマシンを開発し、過去に行くことだ。


 しかし、タイムマシンなんて現実離れした代物を、いくら強い思いを持っていたとしても、一介の大学生なんかに作れるわけがない。


 そんなことは分かっている。


 骨の髄の髄まで分かり切っている。


 しかし、それでもなお、俺はタイムマシンを作りたい……いや、作らなくてはならないと考えていた。


 その理由は、はっきり言って分からない。


 自分がどうしてこんなにもタイムマシンを開発したいのか、時間に干渉したいと考えるのか、それを上手く言語化出来ないのだ。


 とにかく、是が非でもタイムマシンを完成させ、過去に行きたい。


 前に進むために、過去に。


 そう思っていたある日。


 俺が自宅リビングでソファーに腰掛けながら、昔ながらの紙の本を読んでいると、左腕につけたデバイス――EXtENDエクステンドが、ぶるると震えた。


 そして、空中にディスプレイを展開し、そこに今届いたチャットを表示する。


「なんだぁ、この地図は……?」


 地図の画像には、赤いピンが刺してある。


 どうやら、どこかの山の中のようだが――


「どうしたの? そんなに難しい顔をして」


 リビングに我が物顔で入って来たのは、幼馴染の望月モチヅキヴィーナだった。


 ふわふわとした栗色の髪に、ハーフらしいハッキリとした目鼻立ち。生まれてこの方、こいつを異性として見たことはないが、相変わらず暴力的な顔面偏差値だ。女性の世界のことはよく分らんが、きっと、敵も多いに違いない。


 そんなヴィーナは、さも当然のように俺の隣に腰を下ろした。


「何故隣に座る」


「空いてたから。そんなことより、何その地図? 旅行でも行くの?」


「こんな何もなさそうな山の中に行くと思うか?」


「どうかな? 2人で行ったら案外楽しいかもよ?」


「2人?」


「そ、2人」


 そう言うと、ヴィーナは人差し指で自分と俺を交互に指した。


「なんでお前と旅行に行かにゃならんのだ」


 俺がそう返すと、ヴィーナは頬を膨らませて不満を表現した。


「えー、別にいいじゃん。夏休みで暇なんだし」


「そもそも、ここは旅行先じゃない。知らない宛先からさっき送られて来たんだ」


 ヴィーナの眉がピクリと反応する。


「知らない宛先から……?」


「そうだ」


「ねえ、太陽。その画像、わたしに転送してもらえない?」


「別に構わんが」


 俺はEXtENDを操作し、ヴィーナにチャットの画像を転送した。


 類稀な頭脳を持つこいつのことだ。数分もすれば、この山がどこの山か探し当てるだろう。


 そう思っていたら、ヴィーナはものの数十秒で「この山」と呟いた。


「どうやら、××県にある上之浦山かみのうらやまみたい」


 上之浦山という響きに、俺は心当たりがあった。


「上之浦山……確か一週間前に、大量の隕石が落ちた山か」


「うん。落ちたはずの隕石はまだ一つも見つかってないみたいだけど」


 大量の隕石が上之浦山に落ちたのは、観測されている映像上間違いないらしいが、それなのに、一つとして見付かっていないというのはかなり不可解だ。


「…………」


 この山には、何かある。


 そして、その何かに、呼ばれているような、そんな感じがする。


「ヴィーナ」


「ん?」


「お前、この後予定あるか?」


「あるよ、わたし人気者だし。でも、太陽が空けてって言ってくれれば空けるよ?」


「だったら、空けてくれ――」


 ヴィーナの言葉に従うのは癪だったが、それよりも、身体の奥底から溢れ出る好奇心に従うことを俺は選択した。



「――今から上之浦山に向かうぞ」

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