第2話 どうでもいいナースコール

 24時間営業の居酒屋。夜勤を終えた看護師4人がテーブルに集まり、それぞれお気に入りのドリンクを手にする。昼間なのに活気があり、焼き鳥やおでんの香りが漂う。みんな夜勤明けの疲れで目の下にクマがあるが、乾杯の瞬間だけは笑顔を見せる。


「夜勤お疲れさま~!みんな、生きて帰ってこれてよかった!」

 そう言ってジョッキを高く掲げる彩香。彼女の声が少し大きすぎて、隣のテーブルの人たちがチラリとこちらを見た。


「はいはい、静かにね。まだ居酒屋でうるさいって怒られたくないから。」

冷静に注意しつつも、美里の手もジョッキを掲げている。


「まったくだ。今日の夜勤、地獄だったな。」

低い声でぼそりと呟く翔太は、既にビールを一口飲んでいる。


「ほんと、何で夜勤ってこんなにハードなのかしらね。もう私の腰が限界よ!」

恵が軽く腰を叩く仕草に、全員がうなずく。


「昨日の夜勤、急変が2回もあったんだけど!リーダーシフトやってた美里さん、マジですごいと思ったわ。」

彩香がグラスを傾けながらこぼす。


「いやいや、そんな褒めなくていいから。ていうか、彩香がカルテの記録遅すぎて、後で私が全部直したんだからね。」

美里が顔をしかめて言うと、彩香が驚いた表情で目を見開く。


「えっ……うそ!?直してくれたの?ごめん、てっきりそのまま通ってるかと!」

彩香が少し慌ててグラスを持ち上げる。


「こういうとき、若い子のミスって微妙にかわいいのよね。こっちが泣きたくなるミスじゃないだけマシ。」

恵が肩をすくめながら笑う。


「俺、患者さんの点滴ライン確認してたら、家族の人に“男の看護師って珍しいですね”って10分間語られたよ。俺の勤務時間、雑談に消えた気がする。」

翔太がグラスを傾けて苦笑いする。


「それ、あるある!“男性だから注射上手なんでしょ”とか勝手にハードル上げられるやつ!」

彩香が大きく頷きながら言うと、恵も反応する。


「そういうの聞いてる暇あったら、ナースコール対応してほしいわ。」

惠が苦笑いしながら言うと、全員が頷く。


「いや、俺もしたいけど。だいたい夜勤中のナースコールってどうでもいい内容が半分くらいじゃない?」

翔太が少し愚痴っぽく言う。


「ねえ、この前さ、夜勤中にあったナースコールがまたどうでもいい内容で。」

みんなが興味津々で顔を向ける。彩香は少し笑いながら続ける。

「“リモコンが壊れて、テレビが見れない”って呼ばれたのよ。」


「あー、それ、絶対あるよね!リモコンの電池切れか、ただの接触不良なのに、ナースコールで呼ばれるって。」

と美里も大きく同意する。


「俺も!“隣のベッドの人がうるさいから静かにさせて”って、夜中に。」

と翔太が言うとみんなが一斉に笑う。


「あるある!“隣のベッドの音が気になる”とか、“カーテンが閉まらない”とか、いちいち呼ばれて。」

恵がしっかりとした口調で愚痴を続ける。

「しかも、結局その人が立ってカーテン直したりするのよ。自分でできるじゃん!」


「それ、無駄にこっちが動くやつね。」

翔太が軽く肩をすくめながら言う。


「あとさ、“お腹が空いた”とかってナースコールする人!何度も言うけど、夜勤中に夜食は出せませんって!」

彩香が顔をしかめて言うと、皆がうなずきながら同調する。


「本当、それ!“もうすぐ朝だから我慢して”って言うのも、言い方が冷たく感じるけど、実際そう言うしかない。」

美里がうんざりした表情でグラスを持ち上げながら言う。


「私なんて、夜勤中に“おしぼりをください”って言われたことあるわ。おしぼり!自分で取れるじゃんって思ったけど、行ったら『あ、違った!』って、結局普通にお水を頼まれた。」

恵が笑いながら手をひらひらと動かす。


「結局、ナースコールの80%がどうでもいいことだよね。」

翔太が一息ついて、汗をぬぐいながら言う。


「ほんと、ナースコールのシステムを変更したいわ…」

彩香がため息をつきながらジョッキを持ち上げる。


みんなが頷きながら、また笑い合う。夜勤の愚痴を酒で流し、心地よい疲れが少しずつ癒されていく。

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