第3話 悪役たるもの(当社比)




何度も言うが俺は悪役好きだ。

なら転生したことに先ほど気づいて、尚且つこれからどうすればいいのかもわかっていない俺がすべきことは一つ。


アルバルトを見習うこと。


と言ってもただ同じようにしていたら100個の運命(死)が待っているだけだ。

俺が目指すのは一つのシナリオだけ。


ステラとの婚約ルート。

理由は二つある。

一つはこれがいちばん改変しやすそうで生き延びやすそうなルートだから。

もう一つは俺が単にステラ推しということ。


ステラは全シナリオで唯一、アルバルトを肯定してアルバルトの死を悲しんでいる。

後者で言えばプレイヤーを入れたとしても唯一かもしれない。

ちなみに俺は好きだけど悲しんでいない。


つまり俺の好きな悪役というキャラを唯一受け止めてくれたヒロインでもある。

まさに女神だ。暗殺の女神として崇めようかな?


話を戻そう。

今の俺がステラルートに行くには悪役を貫かなければならない。

なぜなら聖人君主みたいなゲームの主人公はステラとのフラグも立たなかったのだから。

そしてただ悪役と言っても、酷すぎず甘すぎない悪役だ。

それは果たして悪役と言えるのかは、微妙だがやるしかない。



「‥‥」


(‥‥‥気まずい)

現在、俺は自分の部屋にいる。

何が気まずいって、システィアが目の前にいることだ。


現在、システィアはエンペラー伯爵家の紋章が入っている薄めの服を着ている。

俺がシスティアとそういうことをしないと、公言したのはシウス達だけなのでメイド達が着させたのだろう。


――ゲームで見るのとはやっぱり違うな。

まだ9歳歳と幼いものの、メイド達が湯浴みに入れたのかサラサラとした桃色の髪に透き通るような聖水のようなブルーアイ‥恋愛ゲームらしい人形のような整った容姿。誰が見ても美少女だろう。

今更かもしれないが、俺はプリンス・エンティーディナにかなりハマっていた。

だからちょっと、というかめっちゃ感動している。


もう一度みると、システィアと目が合った。


「っ?!」


思わず身震いしてしまう。

可愛いからではない、いやそれもあるかもしれないが‥‥とてつもない殺気を感じたのだ。


(そりゃそうだよな、家族を根絶やしにした奴の息子なんだから)


だとしても怖えぇぇ。

ゲームでのシスティアのジョブは姫騎士。

主に剣で戦うのだが、主人公と剣だけなら対等のアルバルトを瞬殺するほど強くなる予定の子に今、睨まれてます。


この瞬間、俺は未来予知ができるかもしれない

未来の自分の死に方をっーーーー。


――――っとふざけてる場合じゃないな。

ゲームではアルバルトは確か‥‥。


「――4年だ」


悪役――というかアルバルトらしくベットの上に座り足を組んでシスティアに話しかける。


「―――?」


「4年経てば解放してやる、奴隷からな」


ゲームではアルバルトは4年経てば解放すると言ったが、結果から言うと嘘であった。

システィアに希望を持たせて反抗されることを阻止し、好き勝手にやるのだ。

だが同じ道は踏みたくない俺は多分、システィアを約束通りに解放するはずだ。

はず――というのはシウス達が納得するかどうかだ。


さっきだって手枷を外そうとしたら、怒られてしまった。

曰く、システィアが自殺覚悟で俺を道連れにする可能性があると。


ゲームでのシスティアは奴隷時代そんなこと――――してたわ。

アルバルトから一時的に預かった剣で切り掛かったり、アルバルトのアルバルトを噛みちぎろうとしたり‥‥うん、これ以上考えるのはやめよう。


「――信用しろというのか?野蛮人からの言葉を」


っと、そんな至極真っ当な返事が返ってくる。

一見、恋愛ゲーのヒロインとは思えない口調だが(偏見)これはシスティアが恐怖を抑えるためにわざと、このような口調にしているのだ。


「そうだな‥だがその野蛮人に頼らなければいけないのはだれだ?」


「――っ!!」


さも屈辱かのような表情を浮かべた。

デスヨネ。


「マキシアム公爵家の軍勢はエンペラー家に大敗したと父上から聞いた。分家も領地は没収、マキシアム公爵傘下の貴族達は寝返ったようだしな」


「なっ、裏切ったの?!」


そんな報告は届いてないが、ゲームでは将来的にシスティアが自分達を裏切った元傘下の貴族たちにも復讐していたしそうなのだろう。


「つまりだ、元公爵領は大部分がエンペラー伯爵家に併合されたのだ。領民を思うのなら反抗するなよ?」


うーん、クズ発言。

アルバルトに転生したことに気づいてから、クズ発言に躊躇がなくなった。

悪役好きとしては悪くはないが、発言するたびに死神が近づいてきてる予感がする。


「‥何をすればいいの?」


「―――ん?」


「領民が‥‥救われるのならなんでもする!だからこれ以上、わたしから奪わないで!!」


ーーなんでも。

魅力的な言葉だが、罠である。

アルバルトはこれに引っかかり20通りの死に方をするのだ。


それにしてもここで「何もしないくていい」と言っても聞き入れてもらえないだろうし、裏があると思われそうだ。

果たしてどうしようか。

なるべく近くに置かないで済みたい、尚且つシスティアから恨みも持たれづらく、周りからは冷遇されていると思われるような状況。


―――なくね?


すぐに思いつくのは使用人だが近くにいるのでダメだ。

シウスに相談してみるか?専属騎士なので扉の向こうにいるだろうし―――騎士?

そうだ‥そうだよ、騎士にさせればいいじゃないか。

正確には騎士見習いなのだが、学院に行くまでの1年間は騎士育成場にいさせればいいじゃないか。

そして学院では俺の護衛騎士にする。


1年間会わなくて済むのと、恨み――は出るだろうが少なそうで、そして自分の家を滅ぼしたエンペラー家の騎士にさせる――――つまり周りから冷遇していると思わせられる。

いい案ではないだろうか。


「そうだな‥お前には騎士になってもらおう」


「――騎士」


「領内にある育成場にぶち込む。身分は平民にするから、それは厳しいところになるぞ?箱入りの令嬢には厳しいかもな」


ちょっと待て俺。最後のは言わなくてよかっただろ!

くっ、口が勝手に動くんだが?!

まぁ、とりあえずうまくいけば20通りの死に方を消すことができるかもしれないし、ひとまずは安心だな!


――――と、アルバルトは思っていたが、肝心なことを忘れていた。

それは将来的にはアルバルトは剣では主人公並みに強くなるのだが、それを圧倒する剣術を持つのがシスティアなのだ。

ちなみにゲームでのシスティアの剣術の経験は、幼少期に騎士になるのが夢で隠れて練習していたのと、主人公に教えてもらった程度。


そんな彼女が本格的な騎士育成場に行くとどうなるのか―――もはやアルバルトは自分が死んだことにも気づかず死ぬのではないだろうか。


デスバルトは一刻と近づいているのである。



―――――――――――――――――

修正です。

名前が下書き時から変えるのを忘れていました。

スピア→ステラ

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