第6話 武蔵と言う人物
宮本武蔵は変わった人物だと思って居た。
勘四郎の想像では、無口でひたすら剣のみに生き、人を避け野山に生きる
しかし実際に目の前に居る武蔵はそうではなかった。
風呂を上がった後もこうして武蔵の部屋へ誘われて、
気に入られたのだろうか。
勘四郎からすれば、憧れだった人物に誘われて断る理由などどこにもない。
人間嫌いの孤高の人、
そんな武蔵の
「ほう、生駒家と言えば名門ではないか、武者修行などと、ご両親も心配しておろう」
「はい、でもどうせ自分は
「ふむ、それで剣を」
「はい、剣の世界で名を上げとうございます」
「して、その剣で人を
「わかりません、ただ怖かったです」
「ははは、お主は
「武蔵様は怖くないのですか」
勘四郎は思い切って一番聴いて見たかった質問をした。
「怖い」
返って来た返答に勘四郎の方が面を食らってしまった。
「お主があまりにも正直に語るもんでな、
武蔵が
体力もあり技術も持ち合わせて居る武蔵ほどの兵法者であっても
目から鱗が落ちる思いであった。
武蔵が語った事は当たり前の事ではあるが、その当たり前の事を
勘四郎は感心しながら、ふと右側に置いてある武蔵の
それは当たり前の光景である。
武士の刀は左差し、刀を右手で抜くのでそう差すのだ。
だから
左利きは
それは
勿論勘四郎も右側に置いて居るし、武蔵のそれも正解である。
ここで勘四郎は少し
「武蔵様、武蔵様は今右に指物を置いておられますが、それは
幼き頃に左利きであった勘四郎だから気が付いた質問である。
「ん、勘四郎がいきなり切り掛って来た場合どうするかと言う質問かな」
「あっ、いや、すみません、
武蔵の言葉がお主から勘四郎と呼び捨てに変わって居る、やはり気を許して居る。
「勘四郎は左利きか」
「いいえ、違います」
「そうであろう、先ほども言うたが生駒家は名門であろうから
「はぁ、まぁ、その通りです」
「まぁ勘四郎の立ち
「あ、はい」
勘四郎は背筋を正した。
「もし拙者が左利きなら何とするか」
「あっ」
武蔵がにやりと笑った。
宮本武蔵は左利きだったと考える歴史家は多い。
一本より二本の方が有利と考え、武蔵は
二刀を
元々利き腕が左だと、右手がそれに順応するのはそれ程難しくはない。
後に
一刀流は万人が学べる剣術であるが、二天一流は剣の天才である宮本武蔵個人にしか使えない剣術だったのであろう。
「すんまへん、お客はん」
武蔵が返答を返すのを
「お話し中どうもすんまへん、お客はんは宮本武蔵様でいらっしゃいますか」
申し訳なさそうな顔で店主が訪ねた。
しばらく武蔵は何も答えず店主の顔を
武蔵は名前を
店の店主もどうしたら良いか解らない顔になって小さくなって居た。
「いかにも、拙者が宮本武蔵である」
やっと返答した武蔵に、店主が
「宮本武蔵様に、お客はんがお越しになっておられます」
店主がそう告げると、武蔵が
またしばらく店主の顔を見詰めた。
小さくなって居た店主が、さらに小さくなって居た。
「何人だ」
「は、はい、お一人でございます」
息も絶え絶えに店主が答えた。
まるで
「
まるで役人に
「ところで店主、なぜ拙者が宮本武蔵と解った、他の部屋には寄らず真っ直ぐにこの部屋を訪ねた様に
今度は勘四郎がぎょっとなった。
今の今まで勘四郎と普通に談笑していたのに、外の気配まで感じ取って居たのだ、勘四郎は全然気付かなかった。
「お客はんが宮本武蔵様だと、姫路の皆が
最後の方は聞き取れなかったが、武蔵程の有名人にもなると、
「通せ」
武蔵の言葉にやっと
その男は旅の
武蔵の前に礼儀正しく正座をして、私は八郎と申す者ですと名乗った。
武蔵は何も言わず八郎を見詰めている。
八郎もそれ以上何も言わず、笑顔で武蔵の視線を受け流していた。
「
八郎が一瞬おっと言う顔になったが、直に笑顔を取り戻した。
「さすがは宮本様、まずは失礼をお詫び申し上げます」
「その忍びが拙者に
「はい、
「主人とな」
「はい、宮本様を
「ほう、それは残念なことをした、
「はい、
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