心霊スポットに綺麗な人が入っていったから後を追ってみた 〜あっ、私怖いのは苦手でした……〜

マロモカ

第一章 大山市 (神薙の森)

第1話 幽霊が見えちゃう系女子



 私、那珂川幽華なかがわゆうかはごく普通の女子高生である。


 少し幽霊が見えて綺麗な人が大好きなごくごく普通の女の子だ。


 怖いものが苦手なところなんかは可愛らしい少女として男の子から馬鹿受け間違いなし!



「そんな夢を見ていた時期が私にも確かにありました……」



 どうやら幽霊が見えることは一般的ではないらしいと気がついたのは幼稚園生の年長さんのときだった。

 

 友達の佐野静流さのしずるちゃんと二人でブランコに乗ろうと園庭の端っこにあるブランコの前まで行くと、そこには先客がいた。


 見たことのない女の子だったため、年少さんか年中さんかなとそのときは思った。


 ブランコは二台しかなく、その片方を女の子が使用していたため、私は仕方なくブランコの前の柵に座った。


 私の行動を不思議そうな眼で見ていた静流ちゃんに「いっこしかブランコあいてないからおさきにどうぞ!あたしはあのこがあそびおわるまでまってるね!」と満面の笑みで言った。


 ここまでは仲の良い友人との日常の一幕ひとまく、心優しい少女が遊びたい気持ちを抑えて友人に先を譲るというハートフルな物語であった。


 しかし、この後の静流ちゃんの発言と行動によって、この物語と共に私の常識までもが瓦解がかいした。



「あのこってだぁれ?ブランコにこともあいてるからいっしょにあそぼーよー」



 そう言うと静流ちゃんは女の子が使用しているブランコの方に向かった。


 私が「まって、そっちはおんなのこがあそんでる……」と言い切る前に静流ちゃんはブランコに座った。





 なんと女の子の体と静流ちゃんの体が重なったのである。


 私はびっくりしすぎてまるで最近SNSでよく見る海外のミームような顔だった、と私が思い出話をしたときに静流ちゃんに言われた。



 静流ちゃんとは幼稚園を卒園後も小・中・高と同じ学校に進学しており、所謂いわゆる幼馴染というやつである。


 私が幽霊が見えるということは中学校のときに打ち明けており、静流ちゃんいわくなんとなく感づいていたらしい。


 そのときは(まあ流石にあれだけ不審ふしんな行動してたらバレるよな。)と心の中で思った。


 ブランコでの一件以来、この世には幽霊という普通の人には見えない存在がいて、私は幽霊が見える珍しい人であると知り、私は幽霊を見つけるたびに大袈裟おおげさに避けたりわざわざ帰り道を変更したりしていたのだ。


 はたから見たらおかしな奴であるのに、私が打ち明けるまでそのことを心にしまって私に付き合ってくれていたのだから、静流ちゃんは言わば聖女せいじょであり私の一番の親友ベストフレンドである。



 ところで、何故私がブランコで女の子と静流ちゃんの体が重なったときに大騒ぎせず、海外のミームのごとき驚き顔を披露ひろうしたのかと言うと、それは前々から人ならざるものが存在することをなんとなく知っていたからである。


 私の父は神社の宮司ぐうじをしており、神様のためのお仕事をしていると小さかった頃の私に教えてくれていた。


 また、絵本でお化けという白くて変な形をしたものがいるということを知っていた。


 そのため、世界には生き物以外のよくわからないものがいることを子供ながらに理解していた。


 ブランコの一件のときは『人の形をしたお化け』か『人のふりをした神様』のどちらかであると考えた。(まあ、初めてよくわからないものを見た驚きで顔が海外のミーム化してしまったのだが。)


 そんな訳で、私は幽霊が見えるという少しだけ普通ではない生活と引き換えに、かけがえのない友人を手に入れたのである。



大山おおやま高校・一年五組



 そんな私はごくごくの女子高生であるため、今は友人とのガールズトークに熱中しているのである。



「幽華、今夜神薙かんなぎの森に行こう!一夏の大冒険アバンチュールに繰り出そうじゃないか!」


 私と向かい合わせに座り、わけわかめな発言をしている彼女は、私のもう一人の友人である塩谷しおやさくらである。


 果たして、彼女はアバンチュールの意味を正確に理解しているのだろうか?


 もしや言葉の通りの意味で……などと良からぬ思案しあんをしてしまう。



「神薙の森なんて危ない場所行っちゃ駄目だよ!」



 静流ちゃんの一声で、我を忘れていた思考力が元に戻り、先程までの煩悩ぼんのうは綺麗さっぱり何処かへ飛んでいった。


 どうやら、ほうけていた私の代わりに静流ちゃんが答えてくれたようだ。



 「そんなこと言わずに静流もどうだい、幽華と三人で真夏の森探索アドベンチャーなんてのは!」


 さくらは相変わらず無理やりなフリガナを振りながら答えた。


 そんなを横目に、静流ちゃんが困った顔で私に問いかけてきた。 



「幽華ちゃんは神薙の森に行きたい?もし幽華ちゃんが行きたいなら私も着いて行くけど……」



「行きたい!!!」



 心の中でそう叫んだが、声に出すギリギリで踏みとどまった。


 静流ちゃんの困り顔が可愛すぎて二つ返事で返答してしまいそうになったが、ここは心を鬼にする。



「いや、神薙の森はから行かない」





 “神薙かんなぎの森”


 私たち三人が住む大山おおやま市の外れにある割と大きめの森である。


 昔神様がこの森を大きなほこで斬り、斬られた木の切り株から新たな芽が芽吹き、その芽は同じ速度で成長して行き、今のような全く同じ品種全く同じ大きさの木が育ったと言われている。


 実際には一本一本微妙に高さが違うため、宮司の娘でありながら心苦しいが、流石にフィクションと言わざるを得ない。


 しかし、林家りんかの方たちや林野庁りんやちょうの片方が育林いくりんなどをしている姿を見たことがないため、ほんの少しだけ神がかったものを感じる。



 こんな神がかった森を何故場所と形容したのかと言うと、神薙の森が心霊スポットであるためだ。


 いや、ただの心霊スポットであったならば煩悩に負け、「行きたい!!!」と元気よく宣言していたであろう。


 そう、神薙の森は……


真霊しんれいスポット』なのである。





 さくらがニマニマしながら私を見ている。


 理由は明白めいはくであった。


 “幽霊が見えるのに幽霊が怖いんだぁ(ニヤニヤ)”と思っているからである。



「幽霊が見えるのに幽霊が怖いんだぁ。めっちゃ可愛いプリティじゃん(ニマニマ)」


 ほら言った。あと可愛いプリティって言われた。少し嬉しい。



 だが、本音を言うと半分は正解だった。


 私は幽霊を怖がる可愛い女の子である。


 しかし、半分は神薙の森という土地のせいであった。



 あの土地はと昔から感じていたが、何がどうと形容することは難しかった。


 当時六歳だった私でもとにかく絶対に入っては行けない場所ということだけは感じ取れたのだが、そこに答えをくれた人がいた。


 父の知り合いの霊媒師だと言っていた美人さんだった。


 名前は確か金が入っていた気がする……


 思い出した!、みーちゃんって呼んでた。



 みーちゃん曰く、神薙の森は『真霊スポット』と霊媒師などの見える人たちから呼ばれており、霊たちが住んでいる場所であると説明された。


 当然私は疑問に思いこう言った。



「ゆうれいならまわりにいっぱいいるよ」と。



 彼女は笑いながら「そうだね、でも本当はいちゃいけないんだよ」と答えた。



 どうやら、周りにいる幽霊たちは強い霊に真霊スポットから追い出されてしまい、路頭ろとうに迷っている状態だと言う。


 なら真霊スポットの近くにいればいいのにと思ったが、真霊スポットの周りは次に強い霊たちが縄張なわばりとしているため近づけないらしい。


 この次に強い霊たちの縄張りが私たちのよく知っている心霊スポットなのだとか。


 今の神薙の森は、真霊スポットを中心にその周りに心霊スポットが形成されているらしい。



 私は、「じゃあ森はあぶないところ?」とずっと思っていたことを聞いた。


 返ってきた答えは意外だった。



「本当は危ない場所じゃなかったんだよ」



 どうやら真霊スポットは本来人間の世界とはへだたれており、幽霊と人間が相容あいいれることはなかったと言う。


 しかし、強い霊が弱い霊から居場所を取り上げたせいで真霊スポットにひずみが生じ、人間の世界への道ができてしまったのだと言う。



 最後にみーちゃんは言った。



「絶対に君は真霊スポットに行っちゃ駄目だよ。戻って来れなくなっちゃうから」




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