第7話 「執念」

「"彼女"は……とにかく必死だった

  どうにかして強くなろうとしていたんだ

   過去の自分に、ケリをつけるために……」



「クッソ~……。どこなんだよ、ここ……」


T・ユカは、独り道に迷っていた。


とりあえず、T・ユカは植生形勢で大木を生やし、頂上に登って大まかなルートを確認することにした。


「向こうには森、か……。……おッ!!森の向こう側に町発見!とりあえず位置を把握しとかねぇとな……」


T・ユカは森を抜けたところにある町に行くことにした。


T・ユカが大木から飛び降りたそのときだった。


T・ユカの上をヘリコプターが通った。


「アタシたち狙いか……。気をつけなきゃな……」


T・ユカは森の中に入った。


虫の音、小鳥のさえずり、葉のささめき……。自然に包まれた平和な場所だ。この自然の全ても、木々の葉がベールとなって守ってくれる。


T・ユカは改めて歩きだした。もちろん自然を堪能しながら、だ。


と、そのとき、向こう側から人影が見えてきた。だんだんと近づいてくる。


「……ッ!?」


その正体は、セイレーンだ。


お互い近づいていく。どんどん近づいていく。そして、ついにすれ違った。


その直後、お互いほぼ同時に肘打ちを仕掛けた。


お互いの肘がぶつかりあう。


「よう、セイレーン」


「違うね。俺にはヴィーナスっていうちゃ~んとした名前があるんだよ」


少しイラついたT・ユカは風穴形成を先制攻撃として繰り出した。


が、


「こ、これは……!」


透明な壁がそれを阻んだ。バリアだ。


「よう、久しぶりだな。カスの一族の生き残り」


「!!お前まさか……あのときの!?」


そう、ヴィーナスという名のセイレーン。実は北海道で会ったサングラスの男その者なのだ。


今回はサングラスをかけていないので瞳が見える。


まるで、金星のような瞳だ。


「わりーけど、これ以上お前らを生かしておくわけにはいかねーんだわ~。だからさ~…………死ね!!」


「コッ……コイツ……ッ!急に雰囲気が変わった……!?」


そして、バリアで吸収した衝撃をあのときと同じようにカウンターで返した。


「二度は……ねぇぜ!」


T・ユカは動揺することなく、身体の角度を少し変え、半身に衝撃が加わったのを利用し、もう片方の半身で、そのままの勢いを利用しながらもう一度風穴形成をぶちかました。


「どうだ!!アタシの風穴形成とお前のカウンター、威力は2倍だ!!」


しかし、びくともしない。


次の瞬間、その倍の衝撃が再びT・ユカを襲った。


突然の出来事に反応できず、T・ユカは何本もの木を倒しながら吹っ飛んだ。


ヴィーナスがゆっくりとT・ユカに向かって歩いてくる。


「誰がカウンターは一回までなんて言ったんだ?あぁ?セイレーン、ナメてんのかァ!?」


ヴィーナスはT・ユカの髪の毛を鷲掴みにし、彼女の顔を無理矢理上げながらそう怒鳴り散らした。


T・ユカはヴィーナスを睨み付けた。


「あ?なんだぁ?まだ分からねぇのか?お前とッ!俺とじゃッ!格がッ!違ぇんだよッ!!」


ヴィーナスは一言一言怒鳴りながら、自分を睨み続けるT・ユカの顔面を地面に叩きつけまくった。


「う……るせぇぇええええッ!!」


「!?」


突然そんなことを絶叫しながらT・ユカはヴィーナスの拘束を振り払い、蹴りを喰らわせた。


完全に油断していたヴィーナスは、バリアで防ぐことができなかった。


「うおお……痛ってぇ~マジ痛ってぇ~ウザイウザイマジイライラするムカつくなァァァアアアアッ!!も~うアッタマきた…………殺す!!!!」


次の瞬間、さっきまで身体全体を覆っていたヴィーナスのバリアは、ヴィーナスの両手の拳へと一点に集中していった。


ヴィーナスは即座に殴りかかった。


ついさっき、結構なダメージを負ったT・ユカはよろめきながらも相手のバリアの拳に風穴形成で応えた。


二人の攻撃がぶつかりあった。


そのとき、T・ユカの半身にとてつもない痛みが走った。


T・ユカはこれまでにない激痛にもだえ、情けない叫び声を上げた。


それはもう痛々しいものだった。


「バカが……。ただでさえ普通のバリアも破れねぇお前が、この高密度のバリアの攻撃に立ち向かってどうするってんだ……。お前の身体がもたねぇぞ」


「クッソォ……、お前なんか……、お前なんか……!」


T・ユカはヴィーナスの足に掴みかかった。


ヴィーナスはそんなT・ユカを無慈悲に蹴っ飛ばした。


恐らくT・ユカの半身の骨はとんでもないことになっているだろう。


しかし彼女は、気合いだけでなんとか立ち上がった。


が、そんな彼女を待ち受けていたのは、止まることのないヴィーナスの猛攻。


右側の顔面、左側の顔面、腹部、顔面の両側、次々と攻撃を喰らったT・ユカはもうフラフラだ。


そして、トドメの一撃がT・ユカに下った。


ヴィーナスは自身のバリアの拳を両手でハンマーのようにして、T・ユカの頭に思いっきり打ちつけた。


この攻撃で地面にはクレーターができ、T・ユカの足は半分埋まっている。


「ク……ソ……、ク……ソ」


T・ユカの頭からは血が吹き出している。


それ以外にも全体的にボロボロだ。


「お……前……な……んか」


それでもまだ立ち向かおうとするT・ユカ。


彼女のしつこさに苛立ちを覚えたヴィーナスは舌打ちをすると、片手のほうのバリアを一旦解放した。


次の瞬間、T・ユカの背後にバリアの板が出現した。


ヴィーナスは、人差し指を自分のほうにクイッと曲げた。


すると、バリアの板は、T・ユカを巻き込みながら猛スピードでヴィーナスのほうへと向かっていく。


ヴィーナスはバリアの拳を引き、構える。

このとき、T・ユカは、自身の死を悟った。


ヴィーナスのバリアの拳は、容赦なくT・ユカに直撃した。


その威力は、T・ユカの背後のバリアの板を粉砕するほどであった。


T・ユカは意識を失い、その場で倒れてしまった。



T・ユカは気づくと川辺にいた。


川の向こう岸には彼女の同志たち、そして家族の姿がある。


「父さん!母さん!それに……チュンおじさん!」


T・ユカは川を渡る。そして、皆のいる岸の近くまで来た。


母がT・ユカに手を差し伸べる。そして、彼女の母は娘の手を両手で包み込んだ。


次に、T・ユカの母はこう言った。


「ユカ、ここはあなたの還るところじゃない」


次の瞬間、母を含めた多くの散っていった同志たちの姿、そして、その周りの景色が音を立てて崩壊した。


周りの景色はさっきまでの穏やかな川辺と打って変わり、何もない真っ暗な空間となった。


「なんで……?なんでだよ母さん!アタシ頑張ったんだよ!!あれからすっごく……アタシ……!」


T・ユカの声は真っ暗な空間に響き渡る。


「すごく……何を?アタシ……何を頑張ったんだ?何もまだできてない……。そっか……アタシ、逃げてたんだ……。本当は甘えてたんだ……。もう、これでいいって……。でも、それは違う!皆は……死んでいった皆は……、そんなことで逃げたりなんかしなかった!!最期の最期まで抗い続けてた!!だからアタシも……それに続くんだ……!」




「抗え!!!!最期まで!!!!!!!!」




するとそのとき、倒れていたT・ユカの指がピクッと動いた。


身体中の激痛に"抗いながら"、彼女は身体を起こす。


そして、


「う、ああ……、おおああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!」


狂気さえ感じられる絶叫を上げながら、T・ユカはヴィーナスに殴りかかった。


ヴィーナスは即座にバリアを張り、防御した。


バリア越しに見えるのは、血で真っ赤になり、白目をむいたまま攻撃を仕掛けてきたT・ユカの顔。


これにはさすがのヴィーナスもドン引きした。


ヴィーナスはカウンターを仕掛ける。


T・ユカは身体を少しずらし、その衝撃を利用して2倍の威力の攻撃を加えた。


それをヴィーナスがカウンター、またT・ユカが攻撃、カウンター、攻撃、カウンター、攻撃……。


「何度やろうと同じだ!テメーにこのバリアが破られるワケがねぇだろうが!!」


だが、T・ユカの攻撃は続く。


ヴィーナスの言ったことなど耳に入ってもいなかった。


攻撃を続けるにつれて、T・ユカの攻撃は速くなっていき、最終的には見えなくなるほどになっていった。


しかし、身体の負担でT・ユカは一瞬気を失いかけた。


が、


「おおおあああああああああああああああああッ!!!!」


気合いと咆哮でなんとか乗り切る。


「うおおあああああああああッ!!」


ヴィーナスもT・ユカに対抗して声を上げた。


もっとも、それは咆哮というより、悲鳴に近いものであったが。


数秒後、T・ユカの攻撃が突然止まった。


すると、その後すぐにヴィーナスのバリアが崩壊した。


次の瞬間、ヴィーナスの胸部周辺に白い光が出てきた。


その光を中心に6つの線が出現し、線と線の間の空間が歪み始めた。


そして、歪んだ空間の中にあるヴィーナスの肉体は次々と破裂し始め、最後に白い光がまばゆく輝くと、それと同時に破裂した肉体は、肉片一つも残すことなく、血飛沫となって一帯に炸裂した。


ヴィーナスは一瞬にして原型をなくし、ただの血の霧となってしまったのだ。


T・ユカはその場で力尽きて倒れる間際、この技に名を与えた。


その名は……、風穴拳・奥義・六次元(ビッグバン)。

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