第6話 「激動」
「ここからが本番だ...
血で血を洗う戦いの始まりだ
意味のあるものとは…言えなかったがな...」
ユピテルの死は、瞬く間に世界中で知られることになった。強く、そして誰からも愛されていた彼の死を多くの人々が悼んだ。
そんな中、年に一度開かれる『世界評議会』が世界国家の首都『エレノイア(旧フランス、ドイツ、スイス、デンマーク、オランダ、ベルギー地域)』で開催されようとしていた。
エレノイア市民たちは、年に一度の大イベントとして、それぞれの地方の代表が『世界国家議会殿』に向かう様子を一目見ようと歩道に集まった。
すると、各地方の代表たちが見えてきた。市民一同は歓迎の拍手で彼らを迎えた。
まずは南部地方(アフリカ地域)代表、リャメ・アロワ
次に、中央地方(中央アジア、中東地域)代表、サワージ・フモイラ
北部地方(旧ロシア地域)代表、マーゾフ・ゲレンスキー
西部地方(ア連を除く南北アメリカ地域)代表、アンドリュー・フランシス
そして、東部地方代表、ソン・リマイ
それぞれの代表は世界国家議会殿にて、専用の議席に着席した。
皆が着席しておよそ一分後、一人の男が入ってきて、最後の議席に着席した。
彼の名は、ヴィレイ・アシュラ。世界国家大統領である。年は、まだ若い。
皆が一旦起立をし、礼をすると、議会が始まった。
まず最初に口を開いたのは、アンドリューだ。
「ソン君、君のところの樺太が突破されたそうじゃないか。いやはや災難だったなぁ」
「アンドリュー君、そう人を嘲るのはやめたまえ。見苦しいぞ」
マーゾフがアンドリューに圧をかける。
「ソン君、わが南部地方のほうでは独立闘争が絶えない。東部地方はどうなっているのかね?」
「風穴拳一族の一件をきっかけに沈静化はした...が、はっきり反乱の灯が消えたとは言えない」
「と、いうと?」
「まだ反乱分子が潜んでいる可能性があるから油断はできない」
「わが中央地方でも独立闘争が定期的に起こっている。困ったものだよ。ゲリラ戦に持ち込まれるとなお厄介だ」
「同感だ。わが北部地方では吹雪に身を隠しながら奇襲を仕掛けてくるようなヤツらもいる。あれほど不気味なものはないよ」
「やはり、各地方反乱が絶えないようだな...。だが、今回の本題はやはり...」
「ええ、ティエラですね」
ヴィレイの言葉に皆が反応した。
「いや、それだけではない。ソン君、極東公国の状況は?」
「はい。依然と独立を保ったままで、特に動きもみられません。数か月前の奇襲作戦も、あまり効果がなかったようです」
「ブシドウってやつか?下らん。あんなに空爆やら上陸作戦やらをお見舞いしてやったというのにまだ引き下がらないのか...。名誉のためだか何だか知らんが、聞いて呆れるよ」
アンドリューは鼻で笑いながらそう言った。
「しかし、我々の損害も大きかっただろう。実際、あの作戦で二人のセイレーンを犠牲にしてしまっている」
リャメはアンドリューにそう述べた。
「一人は戦死...。もう一人は生死不明、か...。アンドリュー君の言うブシドウも、そう簡単には侮れないということか...」
サワージはそう呟きながら、考え込むようなしぐさをしている。
「しかし、大統領」
「ああ。今回はそうはいかない。徹底的に極東公国を叩き潰す。各地方、準備は?」
「万全です」
5人がほぼ同時にそう答えた。
「ならば、極東公国制圧のため、徹底攻勢に出る!また、ティエラ対策として、全セイレーンを戦地に派遣する!」
すると、皆の前に全セイレーンが出た。
ソレイユ、ヘルメス、ヴィーナス、アレス、サターン、テティス、ウラヌスの7人だ。
「これより、君たちに任務を言い渡す...」
ヴィレイは、一人一人の目を見ながら今回の任務を伝えた。
任務の概要を伝えられたセイレーン一同は一礼し、輸送機に搭乗した。
「今は、あの子らに託そう。この世界を...」
「ええ。しかし大統領。我々にはどんなものをも屈服させられる”抑止力”があります」
「確かに...君の言う通りだ、アンドリュー君。しかし...極力使いたくはないな」
そう言うと、ヴィレイはエレノイアの中心にそびえたつ巨大な柱を見つめた。
柱の名は、『ハイドポール』。この世界の”抑止力”である。
特殊能力という概念がこの世界に生まれたのも、この柱が現れてからのことである。
ヴィレイまで続く『アシュラ一族』は、この”抑止力”を大統領として守ってきた。
これらには深い訳がある。そう、深い訳が...。
一方その頃...、輸送機が東に向かうのと対照に、ティエラの船は西へ向かって進んでいた。
「あそこに浜があるな。上陸しよう」
「いよいよ大陸ってワケだ...!ク~ッ!待ってましたぁ!!」
T・ユカはさっきから子どものように騒ぎまわっている。まあ、まだ子供なのだが。
ティエラは船を砂浜に乗り上げさせ、停めた。
「着いたな...大陸」
「こっからが本番ばい。何が起こってもおかしくないやろうけんなぁ」
砂浜をあがると、町が見えてきた。町には人気(ひとけ)がなく、シーンとしていた。
「誰もいないのか...?おーい!!誰かいないかー!?」
返事はない。しかし、少し静かにしていると、会話が聞こえてきた。
会話の聞こえるほうへ向かっていくと、なんとその源は地下からだった。
近くにマンホールがある。
「行ってみるか...」
ティエラたちはマンホールを取り、地下へと下っていく。
そのときだった。
突然角から人が現れたと思ったそのとき、その人はティエラに銃口を向けた。
「手を上げろ!」
「...」
「どうした...手を上げろと言っているんだ!!撃つぞ!!」
「...お前、人殺したことねぇだろ」
「!?」
「手、震えてんぞ」
「!!......」
「それに俺たちはお前らと戦いに来たわけじゃねぇ」
「?だったら、なんで...」
そのときだった。
T・ユカが少し遅れてやってきた。
すると、
「あッ!!チュンおじさん!!」
「お、お前は...」
「ユカだよ!!T ・ユカ!!」
「本当か!?お前、デカくなったなぁ!!」
二人はなんだか仲良さそうに話している。
「なんだ。顔見知りだったのか」
「ああ!紹介するよ!アタシの行きつけだった駄菓子屋の店長、チュン・イムおじさんだ!!」
「ユカの知り合いだったのか...。さっきはすまなかった...」
「いいんだ。でも、なんでこんなところに?武装もしてるし...」
「実は、ここは俺たち『中華民族解放戦線』のアジトなんだ」
「!!...反乱、起こすのか?」
「ああ!向こう側はセイレーンを3人も失っている。一気に3人も失って世界国家も混乱しているはずだ。だから、今がチャンスなんだ!!」
「まあ、確かに...」
「待て、世界国家もバカやないやろ。なんか対策はしとるはずばい」
「そうと来たら...アタシたちの出番なんじゃねぇか!?なんたって、アタシたちはセイレーン一人倒したんだからな!!」
「......」
「?どうしたんだティエラ?顔色ワルいぜ?」
ティエラはどこか浮かない顔をしていた。
強敵を倒したことは確かにうれしい。だが、彼の中の何かがそれを良しとしないのだ。
「ティエラ...?」
ユカは心配そうにティエラの顔を覗き込んできた。
その視線に気が付いたティエラは少し無理をして笑って見せた。
そして、
「そうだな...。ある程度の力を持った俺たちなら、アンタらの役に立てるかもしれない」
ティエラがそう言うと、チュンは喜んでティエラたちの支援を受け入れた。
そしてティエラたちに作戦の概要を伝えた。
内容はこうだ。
正面から突撃隊が突っ込み、その隙に別動隊が地方議事堂を襲撃、占拠する。
ティエラたちは、突撃隊のほうである。相手にとって、戦闘力の高い3人を相手にしているときには、別動隊の姿など、眼中に入らないだろうからだ。
ちなみにチュンは別動隊側である。
そして翌朝...その時は来た。
「おい見ろよ。ありゃあドエライお出迎えだぜ」
T・ユカがそう言いながら指をさした先には、まあまあ多くの軍が地方議事堂から半径数十メートル離れたところで待ち伏せしている姿があった。
しかし、彼らにとっては大したことのない数だ。
「よし...いっちょやるか」
「突撃ーッ!!」
そんな声とともに、ティエラたち突撃隊は攻撃を開始した。
ティエラはダイヤモンド・ソードで相手の銃撃を弾きながら応戦し、T・ユカは、素早い動きで相手の背後に回り、次々と風穴形成を仕掛けていった。
H・タイゾウは、真空波による後方からの支援である。
そろそろ別動隊が動き出すころだ。
だが、そのような傾向は一切みられない。
と、そのとき、何機ものヘリコプターが上空に現れ、さっきまで戦っていた軍たちは、皆ヘリコプターへと搭乗していった。
撤退するつもりだ。突撃隊の皆は、勝利の歓声を上げた。
が、ティエラだけは違った。
(おかしい...。何が起こってんだ?)
そう、今になっても別動隊が到着しない。
というか、連絡がとれない。
次の瞬間、ティエラは一瞬寒気を感じた。
(まさか...”そういうこと”なのか...?)
「皆!!一旦ここで待っててくれないか!?ユカとタイゾウはついてきてくれ!!」
突撃隊の皆は不思議に思いながらも、それに応じた。
(まさか...まさか、まさか...!)
ティエラ、T・ユカ、H・タイゾウが向かったのは、地方議事堂。入口まで来たそのときだった。
「こ、これは...!」
そこには、もはや屍と化してしまった別動隊の人々の山が転がっていた。
(そんな...こんなことが...)
「元気そうだな、ティエラ」
「!?」
声がしたのは、屋根の上。ティエラは恐る恐る顔を上げる。
「あ...ああ...」
屋根の上、そこにあるもの。それは...
(セイレーン...!それも...それも、7人!?)
ついでにさっきティエラに話しかけたセイレーンの者は、ソレイユである。
「お前の後ろにいる二人はなんだ?子分か?ティエラ」
そう言ったのはヘルメス。さっきからゴミをみるような目で三人を見つめている。
「子分...?違う!仲間だ!大切な仲間だ!!」
「”仲間”か...。確かに、噂通りだな...」
そう言ったのはサターン。一人腕を組みながら考え事をしている。
「アンタ、やっぱアレだわ。人でなしよ、人でなし!!」
そう言ったのはテティス。声から底知れぬ怒りを感じる。
「あちゃ~、もうここまで来ちゃったんだ」
左手で頭を掻きながら右手を腰に当てているヴィーナスがそう言った。
アレスとウラヌスはずっと黙ってティエラを見下ろしている。
「ユ...ユカ...」
「!!チュンおじさん!」
「アイツら...バケモンだ...。俺...たち、あんなの...相手にして...たんだ」
チュンはひどい状態だった。
肌がただれ、無残な姿であった。
T・ユカがチュンを認知したきっかけは、彼の声だけである。
「逃...げろ...ユカ...」
「...チュンおじさん、おい...チュンおじさん!!」
返事はない。
チュンはここで息絶えてしまった。
「クソッ!!こんなヤツら...!」
T・ユカがセイレーンたちの元へ進もうとするが、ティエラが彼女の手をつかんで止めた。
「...ッ!!ティエラ...」
ティエラは顔を横に振った。
しかし、そんな彼の目からは、たまらないほど悔しいという感情が伝わってきた。
「茶番は済んだか~?そんじゃ、次はお前らの番だぜ~」
ヴィーナスがそう言うと、ソレイユが構えに入り、ヴィーナスを含むセイレーン全員がそれに続いた。
(ヤバイ...!滅茶苦茶ヤバイ...!!どうしたらいいんだ...!?)
そのときだった。
「お前ら!!いったん解散や!!!!!」
H・タイゾウはそう叫ぶと、地面に超高エネルギーの圧鬼弾・散を地面に叩きつけ、その場で大炸裂させた。
「なっ、なにを...」
「おい!ちょっと待っ...」
圧鬼弾・散の大炸裂は、三人を巻き込み、はるか遠くへと吹っ飛ばした。
大炸裂が止むと、もはや三人の姿はどこにもなかった。
「逃げられたか...。これはまた、厄介なことになったな...」
ソレイユはそう呟くと、空を見上げるのだった。
一方その頃...
「いってて...、ここは...どこだ?」
ティエラは辺りをキョロキョロ見回す。
さっきまでとは一変した荒野の景色がそこには広がっていた。
そして...
「...みんなは?」
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