拾う

第2話

皿が重なる音、喧騒の中でよく通る店員の声、あちこちで不定期に起こる笑い声に、誰も聴いていない店内のBGM。



煙草とアルコールと、さまざまな食べ物の匂いが籠った空間で、アルコールで気の緩んだ大人たちが愚痴や下ネタや実にくだらなく生産性のない話で盛り上がり、酒と共に蛇足にも似た充足感を味わえる、それが居酒屋の醍醐味である。




週の真ん中、水曜日の20時過ぎ。



繁忙期に比べれば比較的客足の少ない店内で、テーブルを片付け終えた私は、手持ち無沙汰であらゆる客層を暇潰しに観察する。




茉夏まなつちゃん、お疲れー。久しぶりね」




朗らかな声と共に、肩を叩かれそちらへ顔を向ければ、同じバイト仲間の安西あんざいさんだった。彼女は実家の母親が入院したというので一ヶ月ほどバイトを休んでいたのだ。





「お久しぶりです。お母さん大丈夫そうですか?」


「心配ありがとね。階段から落ちたって聞いた時は肝冷やしたけど今じゃ畑やりたくてうずうずしてるくらいよ。でも、まあ、歳よねえ。そりゃ私が46だもの。母も歳を取るわけよね」





あっはは、と豪快に笑いながら安西さんは再び私の肩を叩く。

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