12 平穏の崩壊

町の静けさに、徐々に不穏な影が忍び寄り始めた。

それは、小さな異変から始まった。

町外れの農地で、夜になると家畜が怯えるようになり、果樹園では突然作物が枯れる現象が起き始めた。

最初は偶然かと思われていたが、それが連続して起きるにつれ、町の人々は不安の色を浮かべるようになった。


零は市場でその話を聞きながら、顔には出さず、心の中で警戒を強めていた。

「魔物の影響かもしれないな…。」

彼はハルに視線を送り、念話で問いかけた。

「ハル、昨夜もあの波動を感じたか?」

「うん。しかも少し強くなってる。近づいてきてるのかも。」

「そうか…。まだ町の人には言えないが、早めに動いたほうがいいかもしれない。」


その夜、零は町外れで調査を行うことにした。

月明かりが薄暗い草原を照らし、風の音だけが響く中、零は慎重に気配察知スキルを発動させた。

スキルの範囲に入ると、小型の魔物が数体潜んでいるのが分かった。


「なるほど、町にはまだ直接的な被害は出ていないが、この数は放置できない。」

零は剣を構え、音もなく影のように動き始めた。

ハルは彼のすぐ後ろに付き添い、念話で的確なアドバイスを送る。

「右手前に2体、少し離れた茂みの中にもう1体いるよ。」

「了解。まずは近いほうから仕留める。」


零は手際よく2体を倒し、茂みに潜む最後の1体も素早く仕留めた。

魔物は黒い霧となって消え去り、夜の静寂が戻った。


戦いを終えた零は、町の入り口近くで小休止していた。

そばでハルが念話を送る。

「零、このままだともっと強いのが来るかもね。」

「ああ。まだ序章に過ぎないだろう。」

零は剣を手入れしながら言葉を続けた。

「リヴォールの力が完全に戻れば、こんな小物だけじゃ済まない。それまでに対策を立てないとな。」


ハルは尾を揺らしながら、少し考え込むような様子を見せた。

「町のみんなには知らせないの?私たちだけじゃ全部はカバーしきれないよ。」

「まだだ。今知らせても混乱を招くだけだろう。できる限り影で片付ける。」

零の声には決意がこもっていた。


翌朝、町では再び平和な光景が広がっていた。

市場では笑い声が飛び交い、人々が温泉や宝石について話している。

しかし、零だけはその平穏が長く続かないことを予感していた。

彼の中で、次第に迫りくる脅威に対する覚悟が固まりつつあった。


「何が来ても、俺が守る。それが俺の選んだ道だからな。」

零は静かにそう呟き、次なる行動に備えた。

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