2 採掘者の第一歩、いきなり巨大なブツを掘り出す
新しい朝が訪れた。
かつて世界を救った勇者だった一条零が目を覚ましたのは、王都の喧騒も戦場の凄まじい気配も感じない、静かで穏やかな村の小さな家だった。
窓から差し込む陽光が木々の隙間で揺れ、鳥の囀りが優しく耳をくすぐる。
零は深く息を吸い込むと、目を細めて呟いた。
「これからが、本当の始まりだな」
その言葉に答えるように、足元で丸くなっていたハルが一声「にゃあ」と鳴いた。
柔らかな毛並みの飼い猫ハルは、かつて戦場に向かう前に別れた愛しい相棒だ。
「今日は何から始める?」
零が問いかけると、ハルは興味深げに窓の外を覗く。
採掘者としての生活を始めるため、零は村の鍛冶屋を訪れていた。
鍛冶屋の主人は筋骨隆々の中年男性で、零の若さと引き締まった体格に目を細めた。
「お前さん、採掘を始めるんだって?何か特別な目的でもあるのかい?」
その問いに零は微笑みながら答える。
「特に大きな目的はないよ。ただ、新しいことを始めたいだけなんだ」
鍛冶屋の主人は少し驚いた表情を見せたが、それ以上は何も聞かなかった。
代わりに、使い込まれた採掘道具を手渡してきた。
「お代は要らない。その代わり、ちゃんと成果を出して村に還元してくれよな」
「ありがとう。必ずいいものを掘り当ててみせるよ」
零は村外れの小高い丘に足を運んだ。
新鮮な空気に包まれたその場所は、土の匂いが懐かしさを誘うようだった。
手にしたツルハシを振り上げ、初めての採掘を試みる。
しかし、思ったよりも硬い地面に、零は少し苦戦していた。
「スキルがないと、こんなにも違うのか」
鍛え上げた身体と反射神経を駆使しても、ツルハシの感触は鈍く、掘り進めるのに時間がかかる。
それでも零は諦めなかった。勇者としての修行で得た忍耐と根気は、戦いだけでなくこうした日常にも活きている。
そんな零を見守るハルは、どこか気になる場所を見つけたように土を掘り返し始めた。
「おいおい、勝手に掘るなよ。何かあるわけでも……」
そう言いかけて零はハルの動きに目を奪われた。
ハルの爪が引っかけた土の下から、光る何かが顔を覗かせている。
零は急いでそれを掘り出し、鑑定スキルを使った。
「これは……ダイヤモンド?」
光を放つ透明な原石を手にし、零はしばらくの間言葉を失った。
その日の夕方、零は家に戻ると、原石をじっと見つめながら、胸の中に沸き上がる高揚感を味わっていた。
「これが採掘の魅力ってやつか。戦場の達成感とはまた違うな」
ハルはそんな零を見上げ、満足げに目を細めた。
かつての勇者が見つけたのは、戦いの中で得られる栄光ではなく、静かで確かな喜びだった。
新しい道を歩み始めた零の日常は、まだ始まったばかりだった。
零は採掘にのめり込む中で、初めて宝石の加工に挑戦する。
新たな発見と出会いが待つ物語は、静かに動き出していく。
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