ダンジョン攻略後の元勇者、宝石と温泉を掘り当てて自由気ままに暮らしたい
魔石収集家
1 ダンジョン攻略、勇者の転職
ダンジョン攻略
砕け散った
黒曜の玉座
その中心に
倒れ伏す巨大な影
――妖魔王リヴォール
幾多の冒険を経て
命を賭けて
挑んだ
一条零はその場に立ち尽くしていた。
霊刃を手に、己が放った最後の一撃をまだ実感できずにいる。
焼け焦げた空気が喉を刺し、耳には遠くで崩れ落ちる天井の音がこだまする。
これで終わり――彼の戦いも、そしてこの暗き支配の時代も。
「行こう!」背後から響く麻美の声が、零を現実に引き戻す。
振り返ると、彼女の顔は疲労と安堵が入り混じった表情を浮かべていた。
その隣では守田が、満身創痍の身体で出口を指さしている。
「ここも長くは持たないぞ、早く脱出しないと巻き込まれる!」
零はわずかに頷き、剣を鞘に収める
「分かった。行こう」
リヴォールを討った英雄としての使命を果たした安堵と共に、彼は走り出した。
日が昇る頃、零たちはダンジョンから王都に帰還した。
迎えの兵士たちが歓声を上げ、彼らを英雄として迎え入れる。
王宮に辿り着いた時、街の人々がその道を埋め尽くし、零たちを称える声が絶え間なく響いていた。
「勇者様!」「我々の救い主だ!」といった言葉が飛び交う中、零は微かに笑みを浮かべる
しかし、その胸中には言い知れぬ重みがあった。
王宮の玉座で、零たちは王と顔を合わせた。
壮年の王は感謝の意を伝えながらも、その瞳には微かな不安が宿っていた。
「リヴォールを討伐した諸君に、心からの感謝を…だが……その力、あまりに強大すぎる…」
その言葉に場が静まり返る。
零はその意図を察し、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、勇者の力は過ぎたものかもしれません。ですが、もう必要ありません」
そう言いながら、零は内心で決断していた。
後日、零は偽装のスキルを使い、全ての能力値を低く見せかけるようにした。
王に再び呼ばれた彼は、以前と比べて明らかに弱体化したように見えた。
「勇者としての力を失いました」
その言葉を聞いた王は安堵のため息をつき、麻美と守田も同様に一般人としての生活を望む旨を伝えた。
それから数日後、零は新たな生活を始める決意をした。
冒険者ではなく、採掘者としての道を歩むため、静かな村に移り住むことにしたのだ
麻美と守田はそれぞれ、ルナリアを観光して回っていた。
零にはただ、一匹の飼い猫――ソマリ、ルディのハルだけが傍らに寄り添っていた。
村の朝は静かで、陽の光が小川を煌めかせる。
零はその光景を見つめながら、深呼吸をする。
「これからは、普通の生活だ」
その言葉には、かつてのような戦いの緊張感はなかった。
だが、零の胸には微かな期待があった。
ルナリアには元々宝石もパワーストーンも存在していなかったが、妖魔王のダンジョンでのみ採掘される宝石やパワーストーン、その美しさを手にすることへの期待
そして、ハルと共に過ごす穏やかな日々――それは彼がこれまで望んでも手に入れられなかったものだった。
新たな一歩を踏み出す零の姿が、朝焼けの中で静かに輝いていた。
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