不良少年とプリンセス、半日だけの恋

九月ソナタ

第1話

 その日、ぼくは校門で七海ななみを待っていた。前はよく一緒に帰っていたのに、最近は会えていない。


「太朗はまだ2年あるけど」

 並んで歩き出すと、七海がぼくを見上げた。彼女は1個上だ。

 ん?

「どうするの、進路?」

 わからない。

 ぼくはちょっと肩を上げた。


「太朗は、やる気というものがないんだよ」

 ぼくは韓国映画の男子のような甘い言葉は言えないんだ。


 七海は「やる気がない」ともう3回言っている。濡れたタオルなら絞れるけど、ぼくのは乾いているから、絞ってもやる気は出てこないんだよ。


 その時、七海が急に1回転したと思ったら、スカートがめくれ、キックの足がぼくの顔面の直前で止まった。靴底の白が見えた。

「あっぶねぇ」

 ぼくは2歩下がった。

 そのくらい七海がぼくにいらいらしているということだ。


「ビビった?当たるわけない」

「……」

「ああ、おもしろくない」


 その時、七海の目には憎しみ、いや、憎しみというより、憐みがあった。憐みはいやだよ。

「そんなにいやなら……」

 その時、ぼくは禁断の言葉を口にしてしまった。


「そう。別れるっていうことね」

 言い出したのは確かにぼくだけど、先に締めたのはあっちだ。


「よかった。解放される」

「ぼく、束縛なんかしてないだろ」

 七海がまた睨んだ。

「私、今日からフリーランスだわ」

「……いいの、それで?」

「はい。じゃ、お別れです」

 七海はバイバイと手を振って走っていった。

 

 そんなふうにして、ぼくの初恋……、初恋か何かわからないけど、七海との付き合いは終わったのだった。


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