人界悪夢短編総集
ひろ
第1話 目
「あ!」
まただ。
男は悪夢の中にいた。
どうやら人の目を見ると自分に対する殺意が沸くらしい。
皆、躍起になって殺しにくる。
事の発端は実家への帰省だった。
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「ねぇ、少しだけど寝る場所移動しない?」
その日は久々の帰省ということもあり、僕も24の歳。幼少期の夏休みに帰ったきりの父方の実家に20年来の帰省だったため、家族も親戚も皆歓迎してくれた。
その夜、親戚も混じって和室に布団を敷いて雑魚寝になったため、そう提案した。
しかしリアクションという物がいつものそれとはかけ離れていて、怯えるような、獸を見てしまったかのような顔で皆が僕を見つめる。
祖父は言った。
『お前の目を見るとみんな殺したくなるんだよ。』
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僕は形相に慄き、家を飛び出た。
真夜中の寒い夜。
パジャマで1人、駆ける。
後ろからついてくる。彼らは本気だ。
僕を殺そうと、人離れした速度で僕を追いかけてくる。
「あ」
刺されて痛い。暗くなる。
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「ねぇ、少しだけど寝る場所移動しない?」
気づくと僕は小一時間前の僕だった。
これが現実なのか悪夢なのかわからない。
あの恐怖を味わいたく無い。
「ごめんね、なんでもないよ。みんなおやすみ。」
やってしまった。1人の親戚と目が合った。
親戚の顔がみるみる肥大化していき、巨大な風船みたいになってこちらを睨んでいる。
顔面は当然この世のものとは思えないため僕はその場で硬直する。
首を刈り取られたのか、今回は声が出なかった。
暗くなる。
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「ねぇ、少しだけど寝る場所移動しない?」
またか。次こそは生き延びてやる。
もう誰の顔も見ない。
僕はパジャマ姿にコートを着て、靴を履いて家を飛び出した。
寒空の下で僕は慣れない走りで息を詰まらせながら商店街まで出た。
奥に病院がある。そこで何とかしてくれるかもしれない。夜だけど、やってるかな。
もう考えてる余裕も無い。
「目」は、生物に与えられた第1の情報取得器官であり、有象無象を慮るための唯一の手段だ。
時にそれは人を蝕み、その凝血した白子が僕の心をも蝕む。あまりにグロテスク。
僕は今もきっとこの悪夢の中にいる。
「あ。」
医者の目が黄緑色をした膿で下垂れたゼリーのように溶け出し、赤黒い口腔で僕を殺すからだ。
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「ねぇ、少しだけど寝る場所移動しない?」
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