信じていた彼女はただのクズだった。絶望した俺は本当の彼氏とやら共々畜生達に復讐する事を決める

こまの ととと

第1話

 俺は、まさかその日……自分が信じていた「恋人」の裏切りを知ることになるなんて思ってもみなかったんだ。



 秋の夕暮れ。

 冷たい風が吹く校舎裏で、俺は到底信じられない光景を目撃してしまった。


 そこには俺の最愛の「彼女」、篠田奈緒がいた。

 そして、隣に立っていたのは同じクラスの鈴島遥彦。俺とは到底馬が合いそうにない男で、言ってしまえば乱暴な雰囲気の陽キャ。いや、不良だ


 そんな男と彼女は楽しそうに笑いながら、その腕にしがみついていた。

 まるで恋人の何気ない一幕のように。


 俺の心は一瞬で凍りついた。


(……ど、どういうことだ?)


 何もかもが夢であればいいのに。

 そう思いながら一歩踏み出すと、俺の気配に気付いた鈴島が俺を見てニヤリと笑った。


「あ、バレちゃったかー。悪いな花山」


 鈴島がわざとらしく頭をかきながら、奈緒に目配せする。

 すると奈緒も、俺が見たことのないような冷たい笑みを浮かべた。


「……あーあ、もっと騙せると思ったのに。悠斗くんって空気読めないよねぇ」


「え?」


 信じられない言葉に、俺は声を絞り出した。

 でも、奈緒の言葉はさらに俺を追い詰める。


「言っとくけど、君と付き合ってたの全部ウソだから。遥彦くんと私で、君をからかうためにやってただけなの」


 心臓が、ぐしゃぐしゃに潰されたみたいだった。

 俺をからかうため? どういうことだ? なんで?


「……そんな、ウソだろ……奈緒……お前……」


 それでも、奈緒が俺を嘲笑いながら言葉を続ける。


「君みたいな地味で冴えない男の子が、『学年一の美少女』の私と付き合えるとか、何? 本気で思っちゃってたわけ? ざ~んねん!」


 鈴島は俺の胸を指で突きながら言う。


「いやー、見てて楽しかったぜ。奈緒に夢中になって、必死で尽くしてるお前の姿。マジ、バカそのものって感じでよぉ。きひひっ」


 頭が真っ白になり、何も言葉が出てこない。

 鈴島は、俺の肩を強く押して突き飛ばす。バランスを崩した俺が地面に倒れ込むと、彼はさらに追い打ちをかけた。


「お前みたいなカス、奈緒に触れる資格もねぇんだ。いい思いが出来ただけ感謝しろよ」


 鈴島は嘲笑いながら立ち去り、最後に奈緒が俺に視線を落とした。

 その顔には、微塵の後悔も罪悪感もなかった。


「じゃあね、”花山”くん。二度と私の前に顔見せないでね、痴漢だって騒がれてもいいなら別だけど」


 彼女は、地面に這いつくばる俺に唾を吐きかけると、鈴島の背中へ向けて歩き出した。


 俺は、しばらく立ち上がることも出来ず、ただその背中を呆然と見送るしかなかった。


 胸が痛くて、苦しくて、息をするのさえ辛い。

 冷たい夕暮れの風が俺の心をさらに冷たくする。


(何だよ、これ? 俺は……こんなに……惨めなのか?)


 目の前が滲んで仕方なかった。


 ◇◇◇


 それから数日、俺はまともに学校にも行けなくなった。

 誰かと顔を合わせるのも怖いし、クラス中にこのことが広まるのも時間の問題だと思った。いや、下手すれば都合よく脚色されてもう広まってるかもしれない。


(もう、生きていく意味なんてないんじゃないか?)


 そんな思いが、頭を支配していた。

 笑いものにされ、惨めに踏みにじられる人生に何の意味があるんだ。



 俺は、夜の街を彷徨いながら、人気のない高架橋の下に辿り着いた。


「……終わらせよう、こんな人生」


 こんな惨めな自分に、こんな現実に、どうにも耐えられそうもなかった。

 俺は手摺の上に立った。あと少しでこのクソみたいな現実ともおさらばだ。



 だが、その瞬間だった。



「ちょっと何してるのあんた……!?」


 背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはクラスメイトの曽根崎彩音が立っていた。

 バイト帰りだろう彼女は自転車を放り出し、息を切らしながら俺の腕を掴んでは強引に引きずり下ろし、必死な剣幕で見つめてきた。


「何があったか知らないけど! お願いだから……そんなこと、やめてよ……!」

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