宙の光が浴びたくて
ROMU
第1話 描かれた空
空を見ているとふと思うことがある。あの雲はどうしていつも同じ向きに進むのだろうと。
寝転んでうたた寝している私の横には、同じく寝転んでいる長髪の少女がいた。彼女の名前はセト。ブロンズで柔らかい髪の毛は日に照らされて輝いているように見えた。
「ねえ、セト。どうして雲はずっと同じ向きへ進むの?」
「どうして? 決まってるじゃない。あれは映し出された雲だからよ」
セトは私より2つ年上で、お姉さんみたいな存在。綺麗な髪に綺麗なブルーの瞳を持つ。ここにいるみんなセトのことが好きだけれど、その中でも私が一番好きだと私信じてる。だって、今もこうしてふたりでお話しているもの。
「映し出された雲ってことは、本当の雲はきっと色々な方向へ進むのね。そんなことを知ってるなんて、セトは物知りね」
「はあ。物知りだなんて、これくらい知ってて当然の知識よ。もっと図書室の本を読んだらどう? 本を読めばなんでもわかるし、頭が良くなるの。それが大量にある図書室はとてもいい場所よ」
セトの言う図書室とは、大量に並べられた本が棚にびっしり詰まった場所のことである。西の小川を渡った先にある建物の中にあって、とても静かな場所。そういう場所は、少し苦手だ。
「この世界はね、作り物なの。それに、私たちは大人になる前にここを出ていかなくちゃいけない。そのことを知っている子は、とっても少ないけれど」
「でも、セトは知ってるのね」
「そうよ。だってあなたには、リラには知っていて欲しいことだもの」
「へえ。でもそれを知って、私はどうしたらいいの?」
「そうしたら、」
次の言葉を言うのに、セトは少し間を開けた。
「そうしたら、私がいなくなっても、元気でいるのよ」
「どういうこと? 私、セトがいなくちゃ嫌よ。セトがいるから毎日が楽しいのに」
「あら、嬉しいわ。でもリラはもう少しで12なんだから、もっと自立しなくちゃね」
「まだ12よ。セトだってまだ14歳でしょ。私もセトも子供なんだから、2人でいたっていいのよ」
横にいるセトをを見たら、少しだけ涙ぐんでいるように見えた。それで私もちょっとだけ悲しくなったのは、今でも覚えている。
「そうね。ずっと、ずっと一緒にいられたらいいのに」
ずっと未来のことである。人が高度な科学技術を用い、宇宙旅行をすることが普通になった時代。人は人の限界を知るために、人とは異なる性質の「人」をその技術で生み出した。そしてその「人」をはるかな宇宙の探査へ活用しようと考え、数十人を乗せた宇宙船を人類の希望とともに未知の彼方へ放つこととした。
それからいくつもの年月が過ぎて、宇宙船に乗った彼らですら時間の概念を忘れた頃。宇宙船はとある星に着陸した。狭くるしい船から出てみれば、とある星では人とは異なる知的生命体が、人と似ているようで異なる、独自の文明を作り上げていた。人は己の使命を全うしたと、そう確信した。
しかし知的生命体と人は共存できなかった。話す言葉も、食べるものも、両者が生きるのに必要な何もかもが違かった。何より、知的生命体は「人」である彼らで持ってしても、かなわない技術と頭脳を持ち合わせていた。そうだと知って、知的生命体は彼らを自分達のモノにしようとしたのだ。彼らにかなわない人は、逃げるように星を去ろうとした。しかしそれを知的生命体は阻み、両者は争いになった。
何年か続いた無惨な戦いの末、人は知的生命体のモノとして生きることを約束した。結局のところ、希望を託した者たちの願いは、遠い遠い宇宙のとある星で朽ちるだけだった。
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