『悪坊主侠客伝』(1964年/主演:近衛十四郎)
監督 大西秀明
脚本 西村政治、河合勝巳、大西秀明
出演 近衛十四郎、東千代之介、北条きく子、千原しのぶ
メチャクチャ強い盲目の坊主が仕込み杖片手に大暴れ! 「それ、なんて座頭市?」と思われる方もおられよう。ご明当。本作は『座頭市』のエピゴーネンだ。
しかし、エピゴーネンだろうとなんだろうと面白い作品はあるのだ!
物語の舞台は大正。主人公、鉄心はヤクザの抗争に巻き込まれ、義父と視力を失い、その仇を探して旅を続けている。
設定こそシリアスだが、鉄心自身はかなり明るいキャラクター。演じるのは時代劇スター、近衛十四郎。東映でも一、二を争う殺陣の名手。それを生かすため、演出はひたすらケレン味重視の劇画タッチ。アクションはもちろんだが、映像もキメキメでカッコいい。
それを最も体現しているのは鉄心のライバルキャラ、その名も死神。演じるのはこちらも時代劇スター、東千代之介。スーツに黒マントの吸血鬼ドラキュラスタイルで、無表情、抑揚のないセリフ回しが実にハマっている。
しかし、作品も後半になると雰囲気は一変。鉄心の復讐が巡り巡って無関係の第三者に降りかかり、犠牲者が出てしまう。そして、それに対し、ヒロインが鉄心を糾弾し始めるのだ。
鉄心も元はヤクザの抗争に巻き込まれた身。つまり、これは暴力の連鎖なのだが、彼はそれを「男の世界」として正当化する。しかし、そんなホモソーシャルの外にいるヒロインは状況を俯瞰して、完全に否定してしまう。アンチやくざ映画というべき、このシークエンスはなかなかに衝撃的だ。
クライマックスでは状況がさらにカオス化し、その帰結となるラストシーンが素晴らしい。
ここですべてを目の当たりにしていた人物が口を開く。しかし、なぜか、その声は聞こえない。代わりに聞こえるのは「あ゛~」とうめき声がこだまし続ける不気味なテーマ曲。あれは演出なのか、音声の欠落なのか? どちらにせよ、「なにか、とんでもないことを言っているのでは?」と想像をかき立てられるのは確かだ。
パチモンだと油断してはいけない。東映やくざ映画最初期の異色作といえよう。
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