そして、月に吠えた。

奔埜しおり

嘘つき吸血鬼とだまされた狼人間

「は?」


 気づけば気の抜けた声が出ていた。


 友人に誘われてノリノリで参加した合コン。

 好みだなあ、と思っていた人に家に誘われ、浮き立つ心をそのままについて行った。

 そこまではよかったのだ。


 いつのまにやら血を飲まれていた。

 それはもう、がぶりと。

 まるで一杯目のビールを飲むがごとく、ごくごくと。

 いっそすがすがしいほどの音を立てて。

 俺の首筋から離れた女、いや、吸血鬼が、ぺろりと小さな舌で真っ赤な唇の端を舐める。

 そしてニンマリと、外の三日月とおそろいの笑みを浮かべた。


「君、狼人間でしょ」

「なん、で」


 目を細めて笑う仕草と、確認する気もないような声色に、もしかすると合コンのときには既にバレていたのかもしれない、と気づく。

 満月でもないのに、どうして。

 固まってしまった俺を置いて、吸血鬼がしなだれかかってくる。

 二人分の体重を支えるベッドが、軋んだ音を立てた。

 細い指が、未だに血を流す首筋の傷口をなぞる。

 ぞっとするほど冷たい。


「あたしね、狼人間の血、好きなの。ね、匿ったげるから、変身しそうな日はうちにおいでよ。動けなくなるくらい飲んだげる」

「俺を失血死させる気かよ」

「もちろん、それ以外の日にも来ていいよ。夜は大体ここにいるからさ。そうね、君、血、美味しいし、とりあえず明日もどう? あ、もう今日か」

「ふざっけるな」

「今日変身してないってことは、夜が変身条件じゃないのかな。ま、今時そんな血の濃さ、レアだよねえ。あたしも曇りだったらお昼に少しだけ外歩けちゃうし」

「人の話を聞けっ!」


 ケラケラと豪快に笑う女に唾を吐く。

 黒髪ロングに白い肌。丸くて大きな瞳に、小さな口。

 黙っていれば、清楚で可愛いのに。

 なんなら合コン中は見た目そのままの言動だったのに。

 どうして、こんな、こんな……!


「だましたな……っ!」

「化け物同士なんだから、こんなのご挨拶でしょ」


 ケロッとした表情で返された。

 それが、吸血鬼の女、結良ゆらとの出会いだった。


 ちなみにあとから聞いた話だが、この合コン、女性側は全員吸血鬼だったらしい。

 嘘つきどもめ。

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