#2 ゼロ

 目が覚めると、当たり前だが俺は自分の部屋に居た。

 時刻は午前10時半。

 前日の夜、確か俺は除霊ってやつをしたのだ。


 本当に疲れた……


 とは言え、あの化け物は俺が退治したのだ。


 それでも何だかよくわからないな。

 俺は突然現れた化け物に、霊力を練って生成したオーブのようなものを投げつけて退治したのだ。


 少しずつ、昨日の記憶が蘇ってくる。


「あっ」


 何を思ったか、俺は枕元に置いてあるスマートフォンを手に取り、その画面を見た。

 寝起きでパソコンやスマホの画面を見ると、眠気が覚めるという体験をしたことは無いだろうか?

 俺は時々、その方法で無理矢理目を覚ますのだが、この時は眠気を覚ますためではない。

 

 画面が明るくなると、メッセージの通知が表示された。

 名前の欄には「すずな」というひらがな三文字が並んでいる。

 城崎しろさき鈴那すずなは、昨日出会ったばかりの少し変わった同級生の少女で、俺に除霊をさせた張本人だ。


メッセージを開くと


「13時に昨日の喫茶店来て〜」


とだけ書かれていた。


 それに対し「了解」とだけ返信して、スマホを閉じると俺は居間に向かった。

 居間に入ると露が夏休みの課題をやっており、俺に気付いて「おはようございます」と言いニコリと微笑んだ。


「おはよう、寝過ぎた……」


「さっき心配になって、少しお部屋を覗きに行ったんですよ。気持ちよさそうに寝ていたので、起こしませんでした」


「そうか、まあおかげで疲れも取れたし……あっ、今日も昼過ぎぐらいに出掛ける用事が出来たから、留守番頼むよ」


「わかりました、お気を付けて」


そうして俺は軽く飯を食べると、その後予定通り13時頃に喫茶店へと着くように家を出た。


喫茶店には予定より3分程早く着いてしまったが、中へ入るとそこには既に城崎が座っていた。


「あ、しぐ! 昨日はお疲れ!」


「ああ……しぐって、俺のことか?」


「そう! しぐるだからしぐ!」


なんか微妙じゃないか?

まぁ、呼び方なんて何でもいいが。


「それで、今日はどうしたんだ?」


「今日は連れていきたいところがあってさ〜、今からそこに行くの!」


何のために店内へ入ったのか……


 城崎は席を立ち上がり、会計を済ますと店の外に出た。

 俺も城崎の後に続き、入ったばかりの喫茶店を後にする。


 それから城崎に連れられるまま歩いて行くと、国道沿いから一つ外れた住宅街までやってきた。

 木造の家々に挟まれた道を抜け、自動車1台が辛うじて通れるくらいの通りへと入る。


 そこに俺たちの目的地はあった。


 城崎は大きな木造の家の門前で立ち止まると、そこのインターホンを鳴らした。


 ブーという、古いインターホンの音がする。


「はーい」


 そう聞こえた直後に玄関を開けて顔を出したのは、中学生くらいの女の子だった。

 女の子は俺と城崎を見ると、ニコリと笑ってこう言った。


「鈴那さんいらっしゃい! その方が、この前話していた雨宮さんですか?」


「そう! 中途半端な霊能力者の!」


「だから中途半端は余計だって」


 俺はそう言うと女の子の方に向き直り


「よろしく」


 と軽く挨拶をする。


 それから俺たちは居間へ招かれ、案内されたソファーに腰を下ろした。


 何も伝えられずにここへ来て、今から何が起こるのか分からないのだが、女の子がお茶を出してくれたのでとりあえずそれを飲む。


 しばらくすると居間の戸が開き、一人の少年が入ってきた。

 歳は一緒か、一つ下ぐらいだろうか?

 少年は俺たちの方を見ると


「こんにちは」


 と言って会釈した。


「はい、雨宮しぐるくんを連れてきたよ〜」


 城崎がそう言うと、少年は俺を見てもう一度会釈をする。


「こんにちは、今日は来てくださってありがとうございます」


 少年の名前は神原かんばられいと言い、年齢は16歳で同じ高校の一年生。

 俺の一つ下だった。

 ちなみに、最初出迎えてくれた女の子は神原琴羽ことはと言い、中学生で神原零の妹だそうだ。

 学年は露の一つ上らしい。


「早速ですが、しぐるさんは有名な霊能力者のお孫さんなんですよね?」


 早速、神原は本題を切り出したようだ。


「え、ああ……そうだけど、知ってたのか」


「知っているも何も、そうでなければ貴方をここにお招きしてません。鈴那さんから何か聞いてませんか?」


「何かって……連れていきたいところがあるから、とだけ」


「あー……そうでしたか、申し訳ありませんでした。鈴那さん、あなたって人は……」


「ごめんごめん! 何も言ってなかったね~」


 城崎は相変わらず適当な態度だ。


「それで城崎はともかく、君達は何者?」


 ここに来てから一番の疑問だ。

 俺の祖父のことを知っているということは、霊能者か何かの関係者だろうか?


「申し遅れました、僕は除霊師なんです。世間的に言えば、霊能力者や超能力者と言ったほうが分かりやすいですかね? 悪霊や悪い妖怪を祓ったり、時と場合によっては霊や妖怪の手助けなんかもしています」


「なるほどなぁ。つまり、俺のじいちゃんと同業者ってこと?」


「まあ、そういうことですね」


 初めてだ。

 自分と同じ境遇のみならず、じいちゃんと同業者の人間と会ったのは……


「あ、ちなみにアタシも除霊師なんだけど、霊媒体質だから霊媒師としての活動がメインなんだよね」


 城崎はそう言って笑った。


「霊媒師ってあれか、口寄せとかするやつ」


「そうそう! 流石はしぐ、分かってるね〜」


 その程度の知識ならどこからでも知る事ができる。

 暇な時には某ネット掲示板を覗いていたし、心霊系の知識ならそれなりに持っている。

 当然、眉唾物も数多くあるが……


「そんでゼロ、しぐを連れて来たってことは、やっぱりそーゆーこと?」


 ゼロとは、神原零のことだろうか?


「はい、そう言う事です。ちなみに僕、皆さんからゼロって呼ばれてるので、良ければそっちで呼んで頂いて構いません。神原零の零でゼロです」


「お、おう」


 除霊師か、変わったヤツが多いのかもしれない。


「それで“そう言う事”ってのは?」


「雨宮しぐるさん、貴方に除霊師になって頂きたいのです」


「え、除霊師って……俺何も出来ないぞ? そもそも……いや、祓えるのか? 俺でも……」


 チャンスだと思った。

 三年前に俺の妹である雨宮ひなが死んだ理由は、何かの事件に巻き込まれたのだ。

 犯人は未だ捕まっておらず、手掛かりすら無い。

 ニュースなどでも、表向きはそう語られている。


 しかし俺は知っている。

 妹は……ひなは悪霊に殺されたのだ。

 無論それを見たわけでは無いし、誰かに聞いたわけでもない。

 それでも分かるのだ。

 夢の中で、時々ひなが「助けて!」と叫ぶ声が聞こえてくる。

 そんな時、決まってその背後に邪悪な気配を感じていた。

 俺のじいちゃんは有名な霊能者だ。

 だからこそ、人ではない存在から恨みを買うことも多かっただろう。

 その恨みが、廻り廻って妹を殺してしまったのではないか?

 今まで俺の周りで起きた怪奇現象も、ひなの次の標的が俺だからではないのだろうか?

 最近はぼんやりと、そんなことを考えてしまうようになっていたのだ。


「……祓えますよ、しぐるさんなら」


 そうだ、俺は霊能力者の孫なのだ。

 昨日の除霊で俺が出したオーブのようなものは、恐らく俺の力である。

 まだ上手くは扱えないが、いつかは……


「わかった。なるよ、除霊師」


「ありがとうございます。では、しぐるさんにも除霊師連盟に入って頂きましょうかね。こちらにサインを……」


「……大丈夫? やっぱりこれ詐欺とかじゃない?」


「大丈夫です! 変な勧誘みたいになってすみません……実は除霊師の連盟がありまして、僕の父がそのT支部の支部長なんです。アルバイト扱いなので、ちゃんと給料も出ますよ」


「そ、そうか。バイト代まで出るなら願ったり叶ったりだ。よろしく頼むよ」


 そうして俺はゼロに出された紙に名前を書き、これから除霊師としての活動をすることになった。


 帰り道、城崎は俺が妹の仇を討つために除霊師として活動することを決めたのではないかと訊ねてきた。

 どうやら、ひなの事を露から聞いていたらしい。


「仇……か、確かにそうだな。でも、それだけじゃない」


 今の俺には、露という妹がいる。

 あの子がひなのようにならない為にも、俺は除霊師として強くなるべきなのだ。


「守りたい。そう思ったから、かな」


「そっか、良いと思うよ!」


 過去を忘れたわけじゃない。

 ひなを殺した悪霊は、必ず俺が見つけ出してみせる。

 その為にも、俺はこれからを生きて行くのだ。

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