ナツカゼノイズ【完全版】

井守まひろ

#1 夏の喧騒

 何年前のことだっただろうか?

 ふとしたときに思い出すそれは、小さな雫をまぶたの下に溢れさせる。


「私はバケモノなんだよ」


妹のひなは特別な能力を持っていた。


 自分自身に怯える彼女に、俺は慰めの意を込めて語りかける。


「大丈夫、怖くない。俺がいるから」


 ひなは赤い目を擦り、その目から溢れた涙を拭う。


 俺はその後も、あれやこれやと慰めの言葉をかけ続けたが、自分でもおかしくなるほど口下手で、途中からさっぱり訳のわからないことばかり話していた。


 そんな俺を見て、ひなは自然と笑顔になった。


 いつもそうだった。


 そしてその日々が、いつまでも続いくのだろうと、当たり前のように思っていたのだ。


 ……不意に騒々しさが耳に戻る。


 また三年前に亡くした妹のことを考えていた。


 なぜまたこの記憶が蘇ってしまったのだろう。

 夏の喧騒から、数分前の事を思い出してみる。


 結果、何も思い出せなかった。

 いつもそんな調子だが、寧ろその方が楽かもしれない。


 七月下旬、高校二年の夏休み。


 街の中を行き交う人々の雑踏に交じり、バスターミナルを目指す。

 青く澄んだ空と日照りの中、コンクリートが揺らぐ道の向こう側を見ると、何処か別の世界に繋がっているような錯覚を覚える。


 バスターミナルに着くと、バスは既に停留していた。

 俺はそれに乗り込み、整理券を取って一人分の席に座る。


 バスのエンジンは直ぐにかけられ、そのまま駅を発車した。

 乗客は少ない。

 俺の他に買い物帰りの女子が二人と、おばあさんが一人だけだった。

 途中のバス停で乗る人も居らず、軈て二人の女子は降車し、乗客は俺も含めて二人だけになった。

 段々と、俺の降りるバス停が近付いてくる。

 俺は降車ボタンを押し、バスが停まると同時に立ち上がった。

 料金と整理券を料金箱に入れながら、まだバスに残っているおばあさんは何処へ行くのだろうと、余計なことを考えてみる。


 バスを降りると、街中とはまた違う騒々しさが耳に入ってきた。


 蝉時雨……


 俺の名前、雨宮しぐるの“しぐる”は、冬に降る雨から取ったのではなく、真夏の蝉時雨から取ったらしい。

 まあ、どうでもいい話だ。

 そんな真夏の喧騒が降り注ぐ炎天直下の道を歩き、俺は家を目指した。


「ただいま」


 玄関の戸を開き、口からは自然と一言のあいさつがこぼれた。


「おかえりなさ~い。わぁ、汗びっしょり!た、体調とか大丈夫ですか? あっ、タオルタオル……」


 汗だくで帰宅した俺を出迎え、突然慌てだした水色の長髪が特徴的な少女。

 彼女の名はつゆといい、俺の妹だ。

 二年前に俺の親父がうちに養女として引き取った。

 どうせあの人は、妹を失った俺に少しばかり憐れんでその代わりを用意したと言うような、軽い理由なのだろう。

 無論、俺は露のことも本当の妹のように思っている。


 今は十三歳で、市内の中学校に通っている。

 ひなが生きていれば、同じ歳だった。


「大丈夫だよ、外が暑すぎただけ」


「そうでしたか、お疲れ様でした! あ、これどうぞ」


 露はそう言って、汗拭きタオルを差し出してくれた。


「ああ、ありがとう」


 俺はそれを受け取り、顔と首の汗を拭う。


「あ、そうだ兄さん。先ほど長坂さんからお電話がありましたよ。あとで折り返しの電話が欲しいそうです」


「そうか、わかった。ありがとう」


 長坂さんはうちと祖父の代からの知り合いで、神主をしている人だ。


 俺も幼い頃からお世話になっており、親しい人物ではあるがまだ謎なところも多く、良い噂も悪い噂もある人だ。

 無論、俺は長坂さんを信用している。


 あの人は、よく俺に仕事の手伝いをさせてくる。


 かつてその業界では名が知れ渡っていた霊能者の孫である俺に、神職やお祓いの仕事でもやらせたいのだろうか?


 おそらく、今回も仕事の手伝いか何かだろう。


 俺は水道水で水分補給を済ませると、スマホで長坂さん家に電話をかけた。

 長坂さん、家の中にいるだろうか?

 あの人はケータイを持っていない為、現代社会においては連絡が面倒だ。


 四度目のコールで、長坂さんは電話に出た。


「もしもし」


「もしもし、しぐるです。さっきの件で」


「おお、そうそう、いやーちょっとお前にバイトを頼もうと思ったんだがな。やっぱり、無かったことにしてくれんか?」


 案の定、用件はお祓いのバイトについてだったが、どうやら関わらなくてもいいらしい。


「そうですか、構いませんよ」


「すまんな、また何かあったら頼む」


「いえ、ではまた」


 そう言って俺は受話器を置いた。

 正直ゆっくり休みたかったので、丁度よかった。


「何でしたか?」


 露がそう訊きながら近づいてくる。


「お祓いのバイトのことだったけど、無しになった。疲れてたから丁度よかったよ」


「ですね、ゆっくり休んでくださいね」


「ああ、ありがとう」


 俺は自室へ行き、ベッドで横になった。

 疲れたので、少し休みたい。


 夏休みだというのに、ここのところ忙しい。

 それは現実的なことも、現実とは少し離れた世界での事もだ。


 先ほども用事があって駅の方まで出掛けていたのだが、暑すぎてかなり体力を奪われた。


 イヤホンを耳に当て、好きなアーティストの曲を詰め込んだ再生リストを再生する。


……


 変な夢を見た。

 早朝、無人駅のホームに俺一人。

 暫く突っ立っていると、始発の電車が近づいてきた。


 俺がそれに乗り込むと、まも無く電車は出発した。

 その電車は途中で止まることはなく、気付けば終点の駅が近づいていた。

 俺はその駅で降りると、何となく歩き始めた。


 海辺の街だった。

 そこは知らない場所だったが、何故だか見覚えがあるような気がした。

 見ると、砂浜には一人の少女が立っている。

 知っている……俺はその少女を知っていた。

 だが思い出せない。

 知っているはずなのに、俺の身近な人間のはずなのに……


 そこで目が覚めた。

 いや、正確には起こされた。


「兄さん、晩御飯ですよ~」


 露だった。どうやら夕飯の時間まで寝てしまっていたらしい。

 直ぐには起こせない身体が、言うことをきくまでベッドで待つ。

 やっと起こせた身体で、いい匂いのする居間へ向かった。

 居間に入ると、露が笑顔で「どうぞ」と言った。


「悪い、ちょっと遅くなっちゃったな」


「いえいえ、一緒に食べましょ」


 それから二人で食事をした後、俺は洗い物をして自室に戻った。


 静かな夜だった。

 風呂を済ませた後、俺はベッドで音楽を聴きながらウトウトしていた。


 そろそろ寝ようか。


 一日が終わろうとしている。

 何でもない、平凡な一日が終わるのだ。

 そう……俺たちにとって当たり前の日常は、今日で終わろうとしていたのだった。


 朝日……なのだろうか?

 眩しくて目を覚ます。


 時計を見ると、既に10時半を回っていた。

 どうやら寝すぎてしまったようだ。

 疲れていたので仕方ないのかもしれない。


 暫くベッドでぼんやりしていると起きれそうな気がしてきたので、ゆっくりと身体を起き上がらせた。


 居間へ行くと、露が漫画を読んでいた。

 少女漫画好きの露は、空き時間はだいたい漫画を読んでいる。


「あ、兄さんおはようございます。ごはん食べますか?」


「ありがとう。食べたら午後からちょっと出掛けるからさ」


「わかりました。私もお昼たべちゃおうかな……準備しますね」


「うん、手伝うよ」


 そうして食事を摂った後、出かけるまで少し時間があった俺は自室に戻り、本棚から一冊の本を手に取ると椅子に腰かけ、その栞が挟まれているページを開いた。

 最近はまっているホラー小説だ。

 我ながら自分は少し変わっているんじゃ無いかと思う。

 霊感が強いせいで、今まで散々な目に会ってきたくせに、オカルトの類が好きなのだ。

 勿論、怖いものは怖いし、嫌いなものは嫌いだ。

 だが、その恐怖や嫌悪などという心理的感覚が働く度、得体の知れない気持ち悪さと共に、それとはまた別の感情が沸いてくるのだ。

 これが恐らく、好奇心というものだろう。

 それに、俺には怪異というものと向き合う責任がある。

 どうしても向き合わなければならない理由が……


 時間が過ぎた。

 かなり読み進めてしまったようだ。

 時計を見ると、午後1時を回っていた。

 俺は本を閉じて、外出の準備をする。

 喫茶店へ行くのだ。

 最近色々あって疲れているので、少しだけのんびりとしたい。

 無論家でも休めるのだが、たまには喫茶店のまったりとした雰囲気もいいだろう。


「いってきます」


「いってらっしゃい!」


 出かける時、露が見送ってくれた。

 イヤホンで音楽を聴きながら、晴天の下を歩き始める。

 今日も暑い。干からびてしまいそうだ。

 そんなことを考えていると、不意に何かの視線を感じた。


 少し気味が悪い。


 イヤホンを外して後ろを見たが、誰の姿も無い。

 またか……最近疲れていると言ったが、その半分くらいの理由がこれなのだ。

 霊感が強いせいで様々な目にあっているが、ここ2週間で2日に一回は怪異に遭遇している。

 異常なのだ。

 いくらなんでも多すぎて、流石に気分が悪い。

 もういい、気にしない。

 俺は喫茶店に行くんだ。

 何がなんでも……


 気付けば俺は、いつもの喫茶店の前に立っていた。

 無事にたどり着けたみたいだ。

 入口のドアを開け、顔馴染みのマスターとあいさつを交わす。


「お、いらっしゃい」


「どうも」


 いつもの席が空いていたので、俺はそこに着いた。

 アイスコーヒーを注文し、先に出されたお冷を飲む。

 アイスコーヒーが来ると、俺はストローに口をつけてそれを飲んだ。

 冷たくて美味しい。

 至福のひと時だ。


 ガラン……と、ドアの開く音がする。


「いらっしゃいませ」


 マスターの声が聞こえた。

 誰かお客さんが来たのだろう。

 後ろを向いて座っている俺には見えない。

 足音は俺に近付いてくる気がする……


「あの~」


 声を掛けられた。

 女子の声だ。


「はい?」


 見ると、俺と同じ歳くらいの少女が立っている。


「あなた、雨宮しぐるだよね?」


 全くその通りだが、なぜ俺を知っているのか。


「そ、そうだけど」


「やっぱり! アタシ城崎鈴那ってゆーの。よろしくね!」


 何の前触れもなく声を掛けてきた、城崎しろさき鈴那すずなという少女。

 右目が長い髪で隠れているが、口調や表情で明るい印象を受ける。

 どこかで会ったことあるような気もするが、他人の空似か、或いは勘違いだろう。


 一人の時間を邪魔されたのは少し不服だったが、何か用があるのは確かだろうから、まあ良いだろう。


「それで、何か用か?」


「あなたの、その……超中途半端な霊力のこと、ずっと前から気になっていて……」


 出会って早々、ちょっと失礼な奴だな……

 確かに、俺には祓い屋だった祖父譲りの霊力がある。あるのだが……


「超中途半端ってところ要らないだろ。事実だけどさ……」


 そう、極端に力が弱いのだ。

 能力で言えば、せいぜい霊感が強い程度。

 除霊なんかで大して役立たないが、一つだけ良いのは何故か悪い霊を寄せ付けない体質なのだ。

 しかし、なぜそんな俺に目を付けていたのだろうか?

 彼女もその手のことに詳しい人間のようだが、まさかお祓いとかを手伝えって話じゃないよな?


「まって、いま雨宮くんが考えた事分かるわ! あれでしょ、この子もしかして俺のこと好きなんじゃ……的な」


「違うが……」


「いや分かってるって、あれ……この子はなんで霊の話とか分かるの〜? なんで俺のこと知ってんの〜? とか……」


「まあ……そんな感じではある。と言うか、城崎さん? アンタ俺のストーカーか何か?」


「そ、そう! あなたのストーカー!」


「開き直った……」


 思わず声に出してしまった。

 どうやらこの城崎鈴那という少女だが、俺と同級生で隣のクラスの生徒らしい。

 確かに、それなら見覚えがあってもおかしくない。


 そんなやり取りをした後、漸く本題へと移るらしく、向かいの席に腰かけた城崎は真面目な表情になった。


「あなたに除霊を手伝ってほしいんだけど……いいかな?」


 と、小声で話す城崎。

 やはり、こういう話は周りに聞かれてはまずいのだろう。

 それよりも案の定、心霊関係の頼み事らしい。


「除霊を手伝ってほしいって、なんで俺なんかに?」


 お祓いの手伝いや除霊紛いのことならしたことがある。

 しかし霊能力があるかというと曖昧で、そもそもこの世界で幽霊というものの存在は極めて不安定で、心霊研究家や学者たちの間で賛否両論が繰り広げれれている。

 そんなものを退治するなんて、なかなか突飛な話だ。

 最も、俺には幼い頃からずっと見えている存在ではあるのだが。


「兎に角、あなたに手伝ってほしいの! お願い!」


 怪しさ満点ではあるが、自分や長坂さん以外で霊関係に詳しい人間と会ったのは初めてだ。

 折角だから、少し話してみたい気もする。


「わ、わかった。別にいいけど、俺には除霊なんて出来るかどうかわからないぞ?」


「ありがと! それじゃ、今からいくよ!」


 今からって、少し唐突過ぎではないか?

 それでも俺は承諾し、準備をしてから直ぐに行くことになった。


「悪い、行く前に家帰って荷物とかの準備していいか?」


「もちろん! アタシも着いてく~」


 まあ別にいいか。

 どんな霊が相手なのかは知らないが、俺の探している奴では無いだろうな。

 確証なんて無いけれど、なぜかそれだけは分かる。


 夕方が近い。

 空には飛行機雲が見える。

 荷物の準備を終えると、俺は城崎と共に件の場所へ向かっていた。

 俺が部屋で準備をしている間、城崎は露と話をしていた。

 どうやら漫画の趣味が合ったらしく、露も楽しそうにしていた。


「ここだよ」


 目的地に着くと、そこは駅前の通りに建つ四階建てのビルだった。

 元は不動産会社だったらしいが三年前に倒産し、古くなった建物だけが今でも残っているらしい。


「それで今回の依頼だけど、ここの不動産会社が倒産してから一年後ぐらいに、変な噂がたったらしいの。噂の種類は様々で一貫性は無いけれど、それを聞きつけたおバカたちが、肝試しのつもりでビルに入ったらしくて」


「何人だ?」


「三人だったような気がする」


 気がする……か。

 まあいいや。


「それでそいつら、行方不明になったらしいの。だからここの管理人に頼まれたんだよ。早いとこ噂の元凶になっている怪異を解決してほしいって」


「なるほど」


 行方不明。

 何だか怖い言葉だな。


「じゃあ、行くよ」

「ああ」


 そうして俺たちは、ビルの中へと入っていった。


 ビル内はかなり蒸し暑かった。

 まずは一階を探索してみたが、これといって怪しいものは無く、その後に二階と三階も見てまわったが、特に変わった点は見当たらない。

 最後は四階だ。

 階段を上がり四階に着くと、不自然な点に気付いた。


「うそ・・・」


 城崎が驚いた顔で呟く。

 もう一階分の階段があったのだ。

 最初に見たとき、このビルは四階までだった。

 しかし四階には、更に次の階へと続く階段が存在しているのだ。


「ここ、進むのか?」


 そう言った俺の声は、少し震えていただろう。

 俺の中で、恐怖と好奇心が混ざり合う。


「行こう」


 城崎が言った。

 存在しないはずの階段を上る。

 上まで行くと、そこには恐ろしい光景が広がっていた。

 五階と表現するべきなのだろうか?

 そこは全てが血塗れで、床や壁に血飛沫が飛び散り、それが赤黒く染まっている。


「なぁ城崎、大丈夫なのかこれ」


「タチ悪い、引き返して応援を呼ぼう!」


 城崎はそう言って、元来た階段を下りようと後ろを向いた。

 俺もそれに続けて後ろを向く。


 あれ、無い?

 階段が無い!

 先ほどまでそこに存在していた四階へと続く階段は、薄汚れた壁に変わっていた。


「閉じ込められた……のか?」


 咄嗟にそう思った。


「あー、やばいね」


 城崎も動揺を隠せないようだ。


「・・・ぅ」


不意に何かが聞こえる。


「うぶばあぁぁぁ……」


 今度ははっきりと聞こえた。

 声の方に目をやると、そこには灰色の汚れた着物を着て、下半身を引き摺りながら両腕だけでこちらにノソノソと向かってくる、首の無い化け物がいた。

 首がないのに、なぜか化け物は声のような音を発している。


「ひっ……なんなんだよあれ!」


「あれだよね、多分……今回除霊するやつ。はい、雨宮くん頑張って!」


 こっちに丸投げかよ……


「や、やばいだろ。どうするんだよ!」


 化け物との距離は段々と狭まっていく。

 それでも俺の力が多少働いているのか、化け物は僅かながらこちらに向かってくるのを渋っているように見えた。

 今のうちに何とかするんだ……


 でも一体何をすれば……俺は……


「俺がなんとかする」


 目の前には邪悪な気配を放つ化け物がいる。

 俺はそいつに両手を向け、意識を集中させた。

 すると、俺の周りに複数のオーブのようなものが浮かび上がる。


「失せろ!」


俺はそう言って、化け物に向かいオーブを放った。


 …………


 気が付くと化け物は消え、何故か俺達は四階にいた。

 先程まであったはずの五階に続く階段など無く、隣にはホッとした様子の城崎がいる。


「やったのか?」


 俺は城崎に問いかける。


「うん、雨宮くんが」


 城崎がそう言って、ニッコリと笑った。


「俺が、やったのか……はぁ、帰ろうか」


「うん、帰ろ!」


 外に出ると、もうすっかり暗くなっていた。

 さっきまでの現実離れした光景とは打って変わり、いつも通りの街を行き交う人々が目に飛び込んでくる。

 そこで俺は改めて、怪異が日常と隣接していることを実感した。


「見て」


 城崎は道行く人々を眺めつつ、俺にそう言った。


「ん?」


「何も知らない人たちは、いつも通りに生活をしている。こんなに近くで、怪異は存在しているのに」


 城崎は続けた。


「死霊も、怨念も、妖怪も、感じることすら出来ない人間の前では、虚無でしかないんだよ」


 そう呟いた彼女の横顔は、どこか悲しそうで、そして少しだけ皮肉めいていた。


「今日はありがと、お疲れ様。あのさ……また手伝ってくれたりする?」


 俺が返すべき答えは、一つだけだった。


「もちろん」


 当然だが、自分と同じ世界が見える人とは仲良くしてみたい。

 それに、このまま心霊事件を追い続ければ……いつかは……


 そうして俺達は、それぞれの帰路に着いたのだった。

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