第5話
その頃のあたしは心ってものがある生き物のことなんて全く知らなかったし、
なによりも君が欲しいなんて言葉が口説き文句だとすら知らなかったのだ。
こんな身体でよければ好きに使って。
早くあたしを消してほしいと思ってたから。
「…取り敢えず君、名前はあるのかい?」
「なまえってなに?」
「そこからか…。」
その頃のあたしは中身も真っ白で、本当に何も知らない子供同然だったから。
「じゃあ君の名前は必(かなら)にしよう。どう?いい名前だろう?」
癖のある銀髪を靡かせ、真夜中の廃墟で微笑んだ真っ白な神父服の男は悩んだ末にそう言ってきた。
それが自分を証明するものだとも知らずにあたしはキョトンとしていたと思う。
「俺の名は時々(ときどき)って言うんだ。」
「時々…、トッキー?」
「呼びやすい方でいいよカナちゃん。」
「そんなことよりいつ消してくれるの。」
「ねえ、カナちゃん?君は自分がなんなのかわかってるの?」
「あたしは…」
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