第2話

「………受かった?」

『はい、弊社で話し合った結果、合格となりました。』

「本当ですか!?」

『はい、だからこそこうして電話をしているのですよ?』

 電話の向こうからクスクスと笑われてしまった。

「よかった……」

 とりあえず、スタート地点には立てたみたいだ。

『そこで、機材一式をお渡ししますので、いつ頃よろしいでしょうか?』

「…………え?」

『え?』

 そっか……確かにパソコンとか必要なんだっけ……

 うわーここまで運ぶ………

「あの、住所は伝えていますよね?」

『はい。』

「そこの、○○駅で………三月五日に緩衝材をつけて待っておいてくれませんか?私の家までの道は少々ドライブテクニックが必要でして、慣れてないと事故るんです。」

『なるほど……でしたらその車にわが社の社員を一名乗せることは可能ですか?セッティングなどをお手伝いするために。』

「あぁ…それは必要ないかと。友人がそういうのに詳しいみたいで。」

『そうでしたか。何かお困りでしたらすぐにでもお電話をくださいね?』

「承知しました。」

 フゥー……肩から力が抜けて畳の上に寝転がる。










3月5日


「あ、益荒男の方ですか?」

「あ、もしや!」

「はい。機材をこちらの荷台に乗せますね?」

 余った野菜を近所に配る時に使っている自慢の軽トラだ。

「そういえば、詳しいご友人の方は?」

「あぁ、こいつです。じゃ、俺は運んでるから細かいのはそっちでー。」

「はいよー。」



 む、意外と重いな…… 

 そんなことを思っていると、二人の話し声が聞こえてきた。

「初めまして。」

「はい、初めまして。でも、どこかでお聞きしたような?」

「あはは、実は俺配信をしてまして。三橋という名義なのですが……」

「えぇ!?あのイラストレーターの!?」

「はい、こちらが名刺です。」

「あわわわ………」

 あいつ、そんな有名な奴だったのか。

「それと、彼のモデルを私が用意してもよろしいでしょうか?」

「い、良いんですか!?お忙しいのでは………?」

「ふふ、彼に益荒男さんを薦めたのは自分なんです。だから、協力するつもりです。」

「ほ、本当によろしいのですか?うちなんかに……」

「はい、そのかわり、しっかりバックアップお願いします。」

「は、はい!もちろん!」

「それは良かった。」


 どうやら話はついたみたいだな。

「おぉーい!運び終わったぞー!」

「おっと、それでは遠いところまでお疲れ様です。」

「いえいえ!こちらこそ、三橋さんと繋がりを得られて光栄です!……あ、これ資料!」

「おっと危なかった。確かに。」

「それでは失礼します!」

 社員さんは足早に車に乗り込み、帰っていった。

「よし、行くか。」

「お前がVTuberになった方が早いんじゃ?」

「チッチッチッ……ファンはな、不用意に推しに近付いちゃいけねーんだよ。」

「……そうか…?」

「そうだ。」

 分からん。






「それじゃ、設定しとくから…お前は名前決めとけ。」

「お?本名……じゃダメだよなぁ……」

「当たり前だ。」

 んーーーーーーそうだ!

「……鎌田竜馬、これでどうだ!」

「お?結構普通だな。」

「え?ダメか?」

「いや?結構奇抜なやつが多いから、埋もれるかもなと思ってよ。」

「じゃあ大丈夫だな。」

「ほう?その心は?」

「まず!鎌はカマキリ、田は家の田んぼ!竜はゲンゴロウで馬はアメンボ!益虫で揃えたかったが、家の田畑も自慢したかったからな!」

「………そうか。」

「おう!」


「あ、それと見た目はどんなのが良い?俺がお前を書くから、イメージを教えてくれ。」

「見た目かぁ………まぁ麦わら帽子と作業着は必須だな。」

「なんで?」

「見慣れてるから!」

「そうか、後は?」

「あーー………ない!」

「……じゃお前の声に合わせて作るわ。」

「そっか!確かに声と見た目が不釣り合いだと違和感があるしな!納得だ!」

 この時、あいつから呆れられた目を向けられたのは何故だろうか。



「うし、とりあえず配信環境はこれでよしと。初配信は……あと一月はあるな。

 鎌田!」

「ん?あぁ、俺か!」

「その名前でやってくんだ。これからはこう呼ぶぞ。」

「じゃあ俺も三橋でいいか?」

「良いぞ。それより、やることは山積みだ。気合い入れてけよ?」

「わーってるよ。ふふん。」




 それから予定された配信まで俺は自己紹介やら声出しやらを頑張った。結局低い声は維持できず、一番楽な声でやることになった。

 それのせいで、見た目が若干、ある程度可愛くなってしまったが、仕方ない。これは俺の実力が足りなかったからだ。

 益荒男からデビューするのは三期生として。

 既に一期生に二人、二期生に四人いる。

 俺の同期は俺含めて三人らしい。

 シルエット公開なるものでは、ファンの人達がかなり盛り上がっているのがよく分かった。

 俺にこの人達を笑わせることが出来るのかと不安にもなったが、三橋に頼まれてやってることだし、深く考えなくていいかと、開き直ったら案外緊張しなくなった。




 そんなこんなで今日、デビュー日となった。

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